12 ダンジョンアタック
「ハァア!」
「……………!」
パワーのある熊ゾンビの攻撃を流刃で利用し、他のゾンビどもに叩きつける。
ゾンビは肉が腐ってるせいで生前より大分柔くなってるから、熊ゾンビの攻撃一回分の力で、小型ゾンビなら数体斬ってお釣りがくるくらいの出力を得られるのだ。
ただし、ゾンビは一定以上のダメージを与えて塵に帰さなければ、首を落としても、心臓を貫いても、いくら出血させても止まる事はない為、カウンターと急所狙いが基本の俺の剣術とは相性が悪い。
いつもなら苦手を克服する為に心行くまで相手してやるところなんだが……今は他に優先すべき事がある。
存分に殺し合おうとか言っておいてアレだが、ここは先を急がせてもらおう。
さっきまでの戦闘で大分ゾンビの数は減った。
今なら普通に離脱できる。
俺はまたしても熊ゾンビの攻撃に合わせて技を使った。
「一の太刀変型━━『激流加速』!」
本来ならカウンターに使う筈の敵の攻撃エネルギーを移動速度に変換し、一時的に超スピードを出してゾンビパラダイスから逃走する。
どうせ目的地に辿り着くまでに、数えるのも嫌になる程のゾンビと遭遇するんだ。
殺し合いの機会はいくらでもある。
というか、さすがにこの数は一々相手にしていられない。
今までの迷宮攻略で間引いた分を引いても、まだ千体はいるだろうからな。
「「「ォオォオオォ……」」」
「っと、ゾンビの次はお前らか」
次に現れたのは、薄らぼんやりとした半透明の魔物、ゴースト。
実体がない為、物理攻撃が効かない難敵だ。
俺だけの力だと普通に詰む。
だが、
「ハッ!」
「オォオォオオオォォ……!?」
俺が普通に斬ったゴーストの一体があっさりと消滅していく。
物理攻撃が効かない相手に攻撃を通せたカラクリ、それは怨霊丸にある。
この刀もまた、かつて迷宮に放置されてた事のあるアイテムだ。
マジックアイテムにこそなっていないものの、その刀身は微量ながらマジックアイテムと同質の魔力を纏っている。
その手のマジックアイテム化した剣の事を『魔剣』と呼ぶんだが、怨霊丸はそこまでは至れなかった魔剣もどきと言ったところだろう。
そして、ゴーストは物理攻撃に対しては無敵だが、魔法攻撃に対しては滅茶苦茶弱い。
魔剣もどきの怨霊丸の攻撃であっさり霧散するくらいに。
本当にいい買い物だった。
「ワォオオオオオン!」
「次はお前か」
ゴーストに続いて現れ、雄叫びを上げながら襲いかかってきたのは、体長5メートルを超える黒い巨狼。
ナイトウルフより遥かに、ロンリーウルフと比べても二回りくらいデカい。
ナイトウルフの上位種、ダークウルフだ。
この深層では本当に珍しい生きた魔物。
そして、この死の階層で生きていられるのは強者の証。
襲いくる亡者どもを蹴散らし、生存権を獲得した奴だけがこの亡者の洞窟深層において生きる事を許される。
だからこそ、ここに出てくる普通の魔物はやたら強いのだ。
「ガルァ!」
ダークウルフが爪を振るう。
その一撃は速く、重く、他の狼達とは比べ物にならない。
当然、俺とも比べ物にならない。
しかも、ダークウルフの爪は僅かながら闇の魔力を纏っていた。
闇は破壊の属性。
かすりでもすれば俺の紙装甲は貫かれ、さながらお豆腐のようにグッチャグチャにされるだろう。
だが、そんなのはいつもの事だ。
敵は俺より強い。
攻撃を食らえば死ぬ。
実にいつも通り過ぎて、なんの感慨も湧かない。
いつも通り、徹底的に受け流し、返して返してカウンターで殺すだけだ。
俺は一歩踏み込み、真っ直ぐに振り下ろされた爪ではなく、ダークウルフの肉球に刀を合わせる。
それによって肉球に刃をめり込ませ、同時に足は地面を蹴り、刀を起点に攻撃の重さを利用して逆上がりの如く体を回転。
着地点は振り抜かれたダークウルフの前足だ。
それを回転の力で思いっきり斜めに踏み込む。
激流加速。
そうして得た加速の力を怨霊丸に込め、カマキリ魔族の時と同じようにダークウルフの目に叩き込んだ。
「一の太刀━━『流刃』!」
「グギャッ!?」
この二年で更に磨き抜かれた流刃がダークウルフの命を奪う。
カマキリ魔族の時とは違い、今度は確実に。
己の成長を感じる。
「さて、これも持ってくか」
そして、上層で倒したナイトウルフ達のように、ダークウルフの亡骸も収納のマジックアイテムに詰め込んだ。
貴重な稼ぎだし、何よりここに放置してたらゾンビ化する。
ゾンビは他の魔物と違い、死体が一部の迷宮の魔力を浴び続ける事で、まるで死体がマジックアイテム化でもするかのようにして生まれるらしいからな。
だから、ゾンビの出てくる迷宮で死体を残すのはタブーの一つだ。
こうして持って行くなり、火葬するなり、ゾンビとして行動できないくらいグッチャグチャにするなりして対処しておく事が推奨されている。
「長居は無用だな」
そういう訳でダークウルフの亡骸を回収し、亡者どもが寄ってくる前にその場を離れた。
その後は、できるだけ見つからないように気をつけ、余計な戦闘を避けて体力を温存しながら移動を続ける。
比較的安全な場所で睡眠や食事を済ませ、たまに襲撃されて目を覚ましたり、食べ物の恨みを発生させたりしながら、迷宮の奥へ奥へと進んで行く。
何度も何度も通った道だ。
しかも、夢の中では一度攻略までしている迷宮。
今さら迷いはしない。
そうして歩みを進め続け、迷宮に入ってから約10日が経過した頃。
俺は遂に、亡者の洞窟最深部へと到達した。
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