おっぱいと旅をする

かささぎの渡せる橋

おっぱいと旅をする

 春休みを利用して高校の卒業旅行に行っていた時のこと。僕はとある海辺の町に立ち寄って、観光とも言えない散歩をした後、駅で列車に乗り込み別の町に向かうことにした。

 僕のような学生は長期休暇とはいえ、世間的には平日ど真ん中の昼下がり、しかも都心から離れているということもあって、列車の中に乗客はほとんどいない。4人掛けに区画された座席のどこに座ろうかと迷っていた時、僕は目を丸くした。

 おっぱいを丸出しにした女の人が、ある座席にポツンと座っていたのだった。

 見てはいけないものを見てしまった、と、思わず目を逸らそうとする。だが、そうして視界から外そうと意識すればするほど、かえって視線は彼女のおっぱいに釘付けになってしまう。清楚系、とでも言うのだろうか、上品な雰囲気の丈の長いベージュのワンピース、その胸の部分がくり抜かれ、おっぱいが2つ、ぼよーん、と露出している。つやつやと張り詰めたおっぱいは谷間から先っぽまでその全てを余すところなく空気に曝け出され、ずっしりとした佇まいだ。乳首は少しばかり茶色がかっており、その周りにも小さな乳輪が同じ色で咲いているさまは、とてつもなくいやらしい。

 僕は―ほかにいくらでも一人で占領できる区画はあるのに―そのおっぱいに導かれるかのように、彼女の向かいの座席に腰かけた。

 列車はそのまま次の町を目指して走りだした。設備が少しばかりくたびれているのか、時折列車はガタタン、ガタタン、と激しく揺れる。彼女の剥き出しのおっぱいも、列車の揺れに合わせて、ぷるるん、ぷるるん、と揺れている。おっぱいの持ち主は、携帯電話の画面をじっとのぞき込むでもなく、本を読んだりもせず、まして僕のことなど気にも留めずに、ぼうっと流れゆく景色を眺めている。

 なんでおっぱい丸出しなんだろ?

 そんな疑問を口に出すこともなく、僕は列車の揺れに任せて自然に揺れ動くおっぱいを眺めていた。


 「切符を拝見させていただきます」

 女の人の声に突然話しかけられ、僕はびくっとする。少し慌ててきょろきょろすると、女性車掌がいた。鉄道会社の制服をきっちり着込んでいて、当たり前だがおっぱいをあらわにしているわけでもない。ただ事務的に、僕の持っている切符を見ようとしているだけだった。僕は言われた通りに車掌に切符を見せる。車掌は僕の切符が正しく買われていることを一瞥すると、

 「ご乗車ありがとうございます」

 と、去っていく。僕の目の前にいるおっぱいを露出した女のことは、何も指摘しない。

 「あの、すみません、この人おっぱい丸出しにしてるんですけど、変に思わないんですか?」

 と、車掌を呼び止める勇気は、僕にはなかった。

 列車はそのまま、遠い地へと走っていく。少しずつ大きな町に近づいているらしく、乗り込んでから30分ほど経つと、車内にも人が増え始め、僕のいる区画の周辺にも客が立つようになった。みんな僕の正面にある丸出しのおっぱいのことなど、視界に入っていないかのようだった。人目をはばからずおっぱいを露出している女を不気味に思って近づかないのか、それとも本当に気づいていないのか。まわりの乗客の顔からうかがい知ることはできなかった。


 やがて列車はひとつの大きな町に到着した。車内にいる乗客はその町を目指していた者が多いのか、皆ぞろぞろと列車を降りて行った。でも、僕の正面のおっぱい丸出しの人は、ここが目的地ではないようで、降りずにそのまま座っている。僕はこの駅で降りようと予定していたのだが、どうしてもおっぱいから離れるのが名残惜しくなり、降りることなくそのまま彼女と―彼女のおっぱいと旅を続けることにした。

 駅を出ると、おっぱいの人は立ち上がり、荷棚に乗せていた小さなキャリーケースを探り、水筒を取り出して蓋を開ける。蓋がコップの代わりになっているタイプのものだった。何か飲むのかな、と思っていると、女の人は自分の丸出しのおっぱいをゆったりとした手つきで揉みしだきはじめる。おっぱいは持ち主の手の動きに合わせて自在に形を変えた。手の平で全体を揉んだかと思うと、今度は指でおっぱいを挟み込む。ゆるゆると動くおっぱいに息を呑んでいると、女の人は水筒を手に取り、片方のおっぱいの乳首を水筒の中に向ける。そして女の人が乳輪のあたりを指でぎゅっと押すと、乳首から白い液体が飛び、水筒の中に吸い込まれていく。

 うわあっ、母乳だ。

 そんな単純極まりない言葉以外、頭に思い浮かばなかった。その間にも女の人はおっぱいを搾って母乳を水筒の中に注ぎ込んでいく。片方のおっぱいからの母乳の出が悪くなると、今度はもう片方のおっぱいからも同じように母乳を搾り取っていった。

 やがて女の人はおっぱいを出し切ったのか、水筒をおっぱいから離して窓際の小さなテーブルに置き、一息つく。そしてしばらくすると、今度は水筒の蓋に自分の母乳を注いだ。僕の予想では。と、考えたことはすぐに当たる。女の人は、自分のおっぱいから出た母乳を飲み始めた。一杯のおっぱいを飲み干すと、少し物足りないのか、もう一杯、おっぱいを蓋に注いで口をつける。

 自分で自分のおっぱいを飲むって、どんな気分なのかな。美味しいのかな。僕も飲んでみたいな。

 僕は女の人が自分の母乳を飲んでいる間、ずっとそんなことばかり考えていた。


 「切符を拝見させていただきます」

 今度は男の声が聞こえた。さっきとは違う、今度は男性車掌が切符をチェックしに来たのだ。あれ、さっきもチェックしたんだけどな、交代したから分からなかったのかな、と思いながら、僕は車掌に切符を見せる。

 それが終わると、今度は車掌は僕の正面のおっぱいを丸出しにした女の人にも同じように切符をチェックした。実のところ、さっきからずっとこのおっぱいを露出した人は僕にしか見えない幽霊とか妖精とか、そんな類のものなんじゃないか、という考えが頭をチラチラよぎっていたのだが、どうやらこのおっぱいの女の人は本当にここに実在するということが分かった。でも、やっぱりその男性車掌も、彼女のおっぱいが丸出しなことを特に注意するわけでもなく、全く気にも留めずにそのまま去っていってしまった。


 相変わらず彼女の剥き出しのおっぱいは、列車の揺れに任せてぷるぷると揺れている。僕はずっとおっぱいを見つめるだけじゃなく、揉みしだきたい、吸い付きたい衝動に駆られていた。だけど、そんなことをしたら立派な犯罪なので、理性で抑え込む。その代わり、僕はさっき切符をチェックされたのをきっかけにすることにして、意を決して女の人に話しかけてみた。

 「あの、どこまで行かれるんですか?」

 急に話しかけられて迷惑だろうな、という僕の心配は、あっさりと裏切られた。

 「終点まで行こうかなって」

 「そうなんですね」

 「貴方はどこに行くの?」

 「どことは決まって……適当にフラフラして、夜になったら宿を探して泊まって、っていう旅行です」

 「あら、じゃあ私と似ているかも」

 旅人同士のありふれた世間話になった。今までおっぱいばかりじっと見ていたが、初めて顔の方をちゃんと見た気がする。年の頃は20代半ばぐらいだろうか。顔立ちは小学校の時分、男子の間で子供心に美人と人気だった同級生に似ている気がして、なんだか少し懐かしくなってしまう。

 僕はどんな風に話を進めようかと色々迷ったが、直球で自分の訊きたいことを訊くことにした。

 「あの……どうして、おっぱいを出してるんですか?」

 「斬新なファッションでしょう?おっぱいを剥き出しにするのって、けっこう気持ちがいいものよ。それにね、おっぱいって、子育てのための道具でもあるじゃない?だから、こうして露出しても、全然変でも何でもないの。昔はこういう電車の中だって、おっぱいを丸出しにして赤ちゃんにミルクをあげてた人もいたそうなんだから」

 女の人の解説は妙に説得力があり、そう言われてみると、なんだかおっぱいが剥き出しに晒されていることをを周りの人が奇妙に思わないのも当たり前のことだと思えてしまう。


 その時、列車が今までよりもいっとう派手に揺れた。女の人のおっぱいも、ぽよーん、と宙に放り出され、元の位置に戻ろうと弾んだ。

 「うわっ」

 「びっくりしたね。大丈夫?」

 「い、いえ……それよりも、おっぱいが……」 

 「おっぱいも揺れたわね。面白い?」

 「え、ええ……」

 列車の揺れに合わせてぶるん、ぶるん、と振動するおっぱい。何故だか、おっぱい自体が意思を持って楽し気に列車の揺れで遊んでいるようにも見える。僕は一世一代の頼みごとをすることにした。

 「あの……おっぱい、触ってもいいですか?」

 羞恥で顔から火が出そうだ。だが、女の人の返事は何ともあっさりとしたものだった。

 「ええ、ご自由に」

 持ち主の了承に、僕は思わず力が抜けたような気がした。

 「はい、どうぞ」

 女の人はそう言って身を乗り出し、僕がおっぱいを触りやすいようにしてくれた。

 「で、では……」

 僕はそっとおっぱいに手を伸ばしてみる。おっぱいに手の平が触れた。

 「お、おお……」

 思わず声が漏れる。温かくて柔らかい。こんな気持ちのいいもの、今までに触ったことがない。僕が指先に力を入れると、おっぱいは思いのほか強く僕の指を押し返す。そんな柔らかさの中で、ふっと違う感触が走る。乳首だ。おっぱいの中央で小さくも確かにコリコリと存在を主張する乳首は、ショートケーキのイチゴのように、おっぱいの柔らかい感触の中に潜むいいアクセントだ。僕の手はそのまままるでおっぱいと一体化したように離れなくなり、夢中でおっぱいの感触を貪った。

 しばらくおっぱいの感触を楽しんでいると、手にサラッとした液体の感触が走った。

 「あ……すみません、ミルクが……」

 僕が少しばかり申し訳なさそうに謝ると、女の人は、

 「あらっ、もう溜まりかかってるのかな?気にしないで、いつものことだから」

 と、僕を気遣う。手についた母乳はそこはかとなく甘い匂いがするように思える。舐め取ってみると、優し気な薄甘さが舌に触れ、たちまちほどけた。

 「あの、さっき、自分のおっぱいを飲んでいたのは……」

 「うふふっ、前に自分で自分のおっぱいを飲んでみたら、けっこう味は悪くないと思ったの。だから、ティータイム……じゃなくて、私はよく自分のおっぱいでミルクタイムをしてるのよ」

 僕は彼女の言葉に便乗するようにして、欲求を口にする。

 「あの……僕も飲んでみても、いいですか?」

 「いいわよ。じゃあ」

 と、女の人はこともなげに水筒に手を伸ばす。だが、僕はそれでは我慢できず、とっさに、

 「あの、そうじゃなくて、おっぱいを吸いたいです……」

 と頼んでみた。

 「あら、直接?水筒の方がいっぱいあるのに」

 「それでも、おっぱいから飲みたいんです」

 「そう。じゃあ、どうぞ」

 女の人は至極当然のように、胸を張っておっぱいを突き出した。

 列車の向かい合う座席はそれでも思いのほか遠い。僕はなんとか顔を前に突き出し、おっぱいに近づこうとする。女の人も前かがみになってみたり、おっぱいを持ち上げてみたりして、僕がおっぱいを吸いやすい体勢を作ってくれた。そのおかげか、どうにか丁度いい位置を見つけることができ、僕は大口を開けておっぱいにしゃぶりついた。

 「どう?」

 女の人が僕に確かめた頃には、もう母乳が僕の口の中に流れ込んでいた。列車の中で、前のめりになって女の人のおっぱいにちゅうちゅうと吸い付く僕の姿はとても滑稽だろう。けれど、母乳の味の前にはそんなもの気にならない。確か世界史の授業で「アムリタ」という神秘的な飲み物の名前を聞いたことがある。彼女の母乳の味は、きっとアムリタもこの味なのだろう、と思わせるまろやかで温かいものだった。舌先から伝わるおっぱいの柔らかさも相まって、高級な果実の果汁を飲み干しているような感覚だった。僕は夢中で、彼女のおっぱいを飲み続けていた。列車のガタン、ガタンという響きが、おっぱいを味わう僕に心地よいリズムを与えた。


 ふと気づくと、もう終点の駅に着こうというところだった。傾いた夕日に照らされ、おっぱいがいっそう輝いた。さっきまでの僕の唾液と母乳がまじりあったテラテラとした輝きではなく、純粋に神々しい、おっぱいの輝きだ。駅に着くと、僕らも人の波に合わせて駅の改札に向かう。だがその途中、ふと尿意に襲われた。しまった、おっぱいを飲み過ぎてしまったな。

 僕はお手洗いに行くことにした。おっぱいの女の人はこの町で寄りたいところがあるとかで、先に行くことになった。その前に旅の思い出として、彼女のおっぱいの写真を何枚か撮らせてもらった。駅という公共の場にぼよーんと佇むおっぱいの構図はひどくシュールで、とてもエロティックだった。最後に、恋人同士のお別れのキスとばかりに、おっぱいをもう一吸いだけさせてもらった。

 お手洗いから出た後、もしかしたらおっぱいの女の人が待っているかも、という淡い期待を抱いて周りを一通り探したが、やっぱりおっぱいの彼女は先に行ってしまったようだ。僕は名残惜しくおっぱいの画像を一通り眺めた後、次の列車に乗るため、再び駅のホームに戻るのだった。

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