第三十七話 残された者たち



「……マコちゃん効果、すごいわね。

 みんなあの子は誰? とかマコちゃんの話題で持ち切りだわ」


 マコの姿が映像から消えた数分後。スノーの前でSNSを見回っていた雪乃さんが状況を報告してくれる。


「あ、玲子さんが彼女は私の仲間ですって報告したみたいだよー。

 迷宮人とかその特性も一緒に書いてあるね」


「さすが鬼人、仕事が早い。これでマコ姉の名声も安泰」


「うん。後は帰ってくるだけ、だねー……」


「……マコちゃん、一人で大丈夫かな」


 暗い表情で俯く四人。沈黙が周りを包んだ。

 やっぱりオリジナルダンジョンの攻略ってすごく難しいことなんだよね。確か007小隊も最終的には数十人規模になるってマコが言っていたし。


 なのにマコはたった一人で挑もうとしてる。人類みんなのために、命を賭けようとしている。

 ……うん、その行動は凄くマコらしいと思う。

 でもそれならどうしてぼくを置いていったの? 私のために生きろって、そう言ってくれたのにっ。


「そうだよっ、ゆきのん。私たちでマコちゃんを追いかけようよっ」


 沸々とした怒りが湧き上がっていたその時、紗友里さんがあっさりとその解決方法を提示してくれる。そうだ、その手があったっ。


「気持ちは分かるわ。でも無理なのよ、紗友里。

 私たちにマコちゃんみたいな耐性はないの、ダンジョンが連続する廃棄領域を進むことはできないわ」


「そこは心配無用。

 癒術師の千絵が四人分の魔素を治癒できる。私も密行者で隠密行動が可能」


「……そう。そんなに都合の良いことがあるのね。

 まあいいわ。だとしても危険なことに変わりはないし、食料の問題もある。少なくとも数か月単位は必要であろうそれを、この状況で一体どうやって集めるの?」


「そ、それは……」


「鬼人に頼む。あの人ならきっと何とかしてくれる」


「さ、流石にそれは難しいんじゃないかなー。

 特に防衛戦とかは兵站は凄い重要で簡単に融通できないと思うし、出来たとしても兵士さんの食事を私たちが奪っちゃうことになるよね?」


「むぅ。だったらーー」


 難しそうな問題に直面し、頭を悩ませる四人。色々な方法が出されるけれど、どれも現実的じゃないという理由で却下されていく。

 マコのために頑張ろうとしてくれてるその姿に誇らしさ半分、寂しいような複雑な気持ち半分でスノーは手を上げる。


「あ、あの、それならぼくが一人で行くよ。ぼくもマコと同じ迷宮人で、食事の必要もないから。

 みんなにはぼくが放棄地域? に行く方法を考えてほしいなって……」


 紛れもない本心だったのに、途中から自信がなくなって声が小さくなってしまう。

 な、なんだかみんなの視線が怖いよ。

 

 やがて雪乃さんが大きくため息をついた。


「許可できないわ。自殺志願者を二人に増やすだけじゃない。

 大体マコちゃんが私たちにあなたを紹介したのは守ってくれ、という意味もあったんでしょうし、危険地域に放り込むなんて真似は出来ないわ。

 あなたをどうするかは後で考えるわ、少し待って頂戴」


「あの、スノーちゃんは暫くここにいたらいいと思うよー。

 本部の私有地みたいになってて、私たちくらいしか入れないから」


 マコの言葉もあって、色々と世話を焼こうとしてくれているみんな。

 本当に、いい人たちだよね。


「そもそも私はあなたたちみたいな子供が一緒に付いていくこと自体反対なのよ。

 放棄地域に行く危険性、本当に分かっているの?」


「当たり前、鬼人隊は元々その予定だった。

 大体私たちなしで雪乃はどうするつもり?」


「だからっ、マコちゃんを追いかけるのは難しいって話で……」


 雪乃さんが苦しそうに言葉を切る。

 結局はそこに行きついちゃうのか。何か食料問題だけでも解決できないかなあと頭を巡らせて、一つだけ思いつくものがあった。

 入院してるとき暇で覗いていたあそこが生き残っていてくれたらーー


「あのっ、食料とかは何とかなるかもしれない。

 実はーー」


 思いついた作戦を説明したら四人の理解も得られて―ー


「それじゃあその方針で頑張ってみましょうか。

 この四人、いえ五人でマコを追いかけて、今度こそその首根っこを掴まえてあげるわ」


「おお、久しぶりのゆきのんハイパーモードだねっ。

 みんながんばろう、おーっ」


「新生鬼人隊発足。燃える展開っ」


「あははー、その玲子さんを説得するっていう大仕事が残ってるんだよ、風佳。

 ……うん、でもそういう理由なら私も頑張れそう、かなー」


「あ、千絵。その相手はぼくに任せてよ。

 ぼく、酒徳玲子の娘みたいなものだから」


「「「ええ!?」」」 「衝撃事実判明っ」


 とこんな感じで五人での大冒険が始まって、途中紆余曲折ありながら何とか東京ダンジョンへたどり着いてーー






「助けに来たよっ、マコっ」


 ーーぼくたちはマコの前に立っていた。

 マコの目がぼくらを捉え、驚愕に見開かれる。


「スノーって、みんな!? 

 どうしてここに!? というかどうやってここまで来たんですかっ?」


「詳しい話は後よっ。とにかくこっちに来て頂戴。

 風佳のスキルで完全に相手から見えない空間になってるわ」


「わ、分かりました。

 ……あとでちゃんと聞かせてくださいよ。ほんと、馬鹿なんですから」


 照れ隠しを言ってこっちの大きな足場に移ってくるマコ。

 髪がぐちゃぐちゃで目の隈もすごいけど、間違いないマコだ。久しぶりの再会に抱き着こうとしてーー視線を逸らす。マコが下着姿だったから。

 ……な、何でぼく、こんなに恥ずかしがってるんだろう。と頭を振って変な思考を追い出して、再びマコを見据える。


「久しぶりっ、マコちゃん。私のこと覚えてる? あの時ーー」


「そういうやり取りも後。今はこいつを何とかするわよ」


 わっとマコに寄ろうとした紗友里さんを雪乃さんが止める。

 空中にある足場の下には、部屋いっぱいの緑色の物体がうねうねと波打っていた。


 な、なにこれ。凄い気持ち悪い……。


「はーい。それじゃあ二人とも、いつものお願いね」


「ま、任せてくださいー。はあっ」


「分かったよ、どうぞっ」


 千絵と一緒に、雪乃さんと紗友里さんに各種バフをかけていく。攻撃力アップや属性付与など様々な効果を持った光が二人を包みーー刹那、無数の矢や風の刃が頭上に出現した。

 凄まじい攻撃力を持ったそれら一気に敵へと襲い掛かる。ぐちゃぐちゃと気持ち悪い音を立てて、蒸発していく敵。

 しかもそれは一度だけじゃ終わらない。千絵のスキルの効果でクールタイムが短縮された大技が第一波、第二波と繰り返され、順調に敵を削り取っていく


「な、なかなかやりますね。私の次くらいに強いんじゃないですか?」


「広範囲攻撃は二人の十八番。

 今までのモンスターもこうやって倒してきた」


「……な、なるほど」

 

 風佳の言葉にドン引きした様子を見せるマコ。

 視覚外からの高火力攻撃で何もさせずに倒す。うん、ぼくもえげつないと思う。


 ぼくたち四人で敵を消耗されている間、手持ち無沙汰になった二人が話を進めていく。


「あの、それで本当にどうやってここまで来たんですか?

 少なくとも食料の用意はされてませんでしたよね? まさか窃盗ですか? 警察に通報しますよ?」


「失礼。食料はスノーの提案でどうにかなった。

 何か掲示板?で呼びかけて、ケモナー仮面?とか美少女に捕食されたい人とか良く分からない人が沢山分けてくれた」


「……だ、大丈夫なんですよねそれ?」


 明らかに誤解を招きそうな言い方をする風佳。

 な、何かこの時代昔のネット文化が廃れていたんだよね。ごめんなさい5〇hねらーさん、と頭の中で謝っていたら、敵の中央がはじけ二つの青い塊が露出した。


「多分ダンジョンコアと敵の核よ、マコちゃんお願いっ」


「言われなくても分かってますよっ」


 瞬時にその場から消えるマコ。

 気が付けばその姿は塊の前にあってーー巨大の鎌が確かに二つの核を破壊した。


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