第六話 説明回
「色々と、聞いてもいい?」
夕菜たちの追跡から逃れた後。
適当な壁によりかかって、頭の中の自称神様に問いかける。先送りにしていた疑問が何個もあった。
『構わぬ、我の知る限りは何でも答えよう。
それと我と話したいときは心の中で思うだけでよいぞ』
「む」
そういや、最初の方は頭の中で会話してたっけ。
人前で神様と話したら変に思われるだろうし、気を付けないとだな。
それじゃあ、まずは根本的なところから。
あんたはいったい何者なんだ?
神様ってのは、宗教とか神話に出てくるあの神様か?
『そう思ってくれて構わんよ。
我もまた神と崇められた存在のうちの1柱じゃ。まあ、お主とは縁もゆかりもない物語じゃがの』
うーむ、そういわれると特定は難しいなあ、神話とかに詳しいわけじゃないし。
神様が実在するってことは、宗教とか神話は全部実話だったってことか?
『なに、世界は一つだけというわけでもない。全く異なる法則・歴史に基づく時空が複雑に絡み合っておるのじゃ。
お主らがそう呼ぶものは、ここではない世界の神たちが人間に語って聞かせたものであろうよ』
なるほどねえ。確かにそれなら世界観の矛盾とかも起こらないか。
でも、それならどうして俺なんかを助けてくれたんだ?
神の恩恵とかって、もっと信心深い人が受けるべきものじゃないのか?
『ふむ、それはお主に立派なTSっ娘になる才能があったからよ』
何故だか妙に誇らしそうに言い切る神様。
なんか、こんなことさっきもあった気がするなあ。
そもそもTSっ娘ってのは何なんだ?
『
我はな、ずっと探していたんじゃよ、理想のTSメスガキっ娘を。されど待てども待てども我の好みと完璧に一致する娘は現れはくれぬ。はてにはダンジョンのせいで文化ごと廃れる始末。
どうしたことかと頭を悩ませること幾数年、ようやく我は気づいたんじゃ』
そこで神様は言葉を切る。
あれ? なんか嫌な予感がしてきた。
『ー-ないのなら、自分で作ればよいと。
じゃから良さそうな男を見繕って、無理やり
かんっぜんに私利私欲じゃねえかっ。
え、俺そんな理由で助けられたの?
覇道とか言ってたのに、なんか高尚な目的があるわけじゃなくて?
『うむ、その場のノリで言っただけじゃ。
お主を生き返らせた時点で我の目的は果たされたも同然。後は好きなように過ごすがよい。……まあ、少しは口を出すかもしれんがの』
うっそだろ。
いやまあ助かったのは事実だし、何かを強制されないのはありがたいけど……ええー。
『設定としてはー-アルビノという特異性ゆえにいじめられ心を閉ざしていた少女。
彼女は死神という強力な『職業』を得たことで、次第に周囲を見下す態度をとるようになっていく、とかそんな感じじゃな』
あーだから、敬語だし煽り口調なのか。
……あの、これって直せたりする?
『基本的には無理じゃな。
ただその体で信頼関係を積み重ねていけば、多少は改善されるかもしれん』
うーむ、今までの関係値はリセットされたってことか。夕菜にも敬語モードを発動していたし。
あれ、でも神様と話すときは敬語じゃなかったよな? どういうことだ?
『あ、我はお主だけに聞こえる天の声という設定じゃから。
辛かった時にお主の支えになったゆえ、好感度がカンストしておるのじゃよ』
……いつの間にか見知らぬイマジナリーフレンド(本物の神様)ができていた件について。いかん、頭が混乱してきた。
ってか、そんなバックボーンがある少女に俺なんかが入っていいのかよ?
全然関係ない経歴の持ち主だぜ、俺?
『そこらへんはクール系メスガキキャラとTSを共存させたかっただけじゃから、深く考えなくてもよいぞ。
無念の死を遂げた体にお主がたまたま憑依したとかそんな感じじゃろ、多分』
ええー、そんな幽霊みたいな……。
ま、まあ、完全種になるまでの辛抱だから別にいいけどさあ。
『うん? 妹と一緒に暮らす弊害がなくなるという意味で解決と言っただけじゃぞ?
完全種になろうと、お主の体はずっとそのままじゃ』
「そ、んな……」
まじか。普通に勘違いしてたわ。
だとしたら……え。色々とやばくないか?
小さくなった体を見下ろす。
ぶかぶかな黒Tの隙間より覗く、真っ白な(なぜか何も身に着けていない)素肌。
胸はまだ膨らんでいないからまだいい。ただ問題はその下ー-股間だ。15年間、一緒に過ごしてきた相棒はー-。
「な、い」
一気に体の力が抜け、ガクンと膝をつく。
うっそだろ。俺、まだ
『ふむ、やはり己が半身との別れを嘆くのはTSの醍醐味よな。
ようやくそれらしい反応が見られて、我は満足じゃ』
絶望に打ちひしがれる中、神様の呑気な言葉が頭に響いた。
ま、いっか。
長きにわたる葛藤の末、そう結論付ける。
うん、大丈夫大丈夫。性別が変わったなんて、些末な問題よ。
『そのわりには一分も悩んでおらんし、随分と足が震えてるように見えるがのお』
うっさいやい。
何か妙に落ち着かないんだよなあ。あれがないと、こうも寂しくなるとは。
それにほら、Tシャツ一枚のせいで股がすごいスース―するし。
服とかは自分で決めてもいいんだよな?
『それは構わぬが……お主、我が憎くはないのか?
自分で言うのも何じゃが、わりと最低な理由じゃったと思うぞ?』
唐突に、恐る恐るといった感じで聞いてくる神様。
自覚あったんかい、というツッコミはともかくー-憎いかとは言われてもなあ。
例え姿が変わろうと生きたいと願ったのは俺なわけで、神様はそれを叶えてくれただけだろ?
だったらまあ、その位の遊び心は許そうかなって。
むしろー-ってそうだ。
神様はどこかの神様なんだよな?
名前は何て言うんだ?
『……ふむ、シアー-いや、シルと呼ぶがいい』
なぜか気まずそうに言いなおす神様に、言い忘れていた言葉を伝える。
それじゃあ、シル様。助けてくれてありがとう。
シル様がいなかったら、俺はここにいなかった。大事な妹を一人にさせてた。
感謝の気持ちを込めて、ぺこりと頭を下げる。
『……。お主の妹が心配する気持ちもわかるのお』
沈黙の後、ぽつりと何事かを零す神様。
なんだか馬鹿にされた気がするが……ともかく、だ。
目標が分かっている以上、立ち止まってばかりはいられない。
そのために、まずはー-。
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