第二話 冒険者の日常



 静岡県静岡市の地下に広がる異空間ー-静岡ダンジョン。

 巨大な洞窟がアリの巣のように張り巡らされたその場所は、深度によって上層~下層に分けられていた。深くなればなるほどモンスターは強くなり、今回は俺らが来ているのは中層ー-スケルトンと呼ばれるモンスターがいるエリアだった。


「一匹そっちに行ったよっ」


「了解です、っと」


 大剣を振るい、骸骨の形をした化け物スケルトンを倒していくガタイの良い男、柴田と残った敵を炎の魔法で燃やす、眼鏡をかけたひょろい男、江川。どちらも冒険者学校時代の友人で今日のパーティメンバー、一緒に潜る仲間だ。

 相対するスケルトンは無数に湧いてくるも、彼らに苦戦する様子はない。そのおかげで俺はその後ろで立っているだけでよかった。


 やる、というよりやれることもなくて、暇つぶしにコンカをかざしてみる。

 コンカー-スマホに代わって普及したカード状の情報機器に、奴らのステータスが表示された。


 スケルトン(E)Lv.3 

 筋力 D     

 物防 F        

 魔防 F       

 知性 G       

 器用 E       

 敏捷 E         

 運  E


 ……


 モンスターは魔素と呼ばれる特殊な物質が集約して生まれた存在で、人間もまたそれを倒し体内に魔素を取り込むことで身体を強化していく。

 今までと全く異なる法則に基づくそれらの能力を評価するために導入された指標、それがステータスだった。一行目にはモンスターの名前とランク、レベルが、その下には各項目におけるパラメータが記されている。ランクと能力値は上からS~Gで判定されており、実力差を測るのに大いに役立っていた。


 二人のステータスも映してみる。


 柴田 正利 Lv.46 剣士 Lv.5 

 筋力 D         

 物防 D              

 魔防 E              

 知性 G                  

 器用 E           

 敏捷 D      

 運  F


 江川 芳樹 Lv.45 火属性魔法使い Lv.5 

 筋力 G         

 物防 F              

 魔防 E              

 知性 D                 

 器用 D           

 敏捷 F      

 運  D



 さっきのランクに代わり表示されているのが『職業』。

 モンスターを倒した全員に与えられ、よくあるRPGみたいな感じで『職業』に応じたスキルを使うことができる。剣士なら「○○斬り」、火属性魔法使いなら「ファイアーボール」などが有名だ。

 残念ながら他人のスキル一覧を見ることはできないが、道中でもその有用性をいかんなく発揮していた。

 またそのステータスについてもDが多く、スケルトンどもを寄せ付けていない。


 対して、俺のステータスとスキルがこれ。


 望月 真 Lv.32  運び屋 Lv.2    

 筋力 F          

 物防 F              

 魔防 F              

 知性 G                  

 器用 F           

 敏捷 E      

 運  G


 <スキル>

 攻撃系 

 スラッシュ Lv.3

 防御系 

 なし 

 補助系 

 重量軽減 Lv.4

 運搬補助 Lv._


 スラッシュ Lv.3:筋力を強化し、強力な一撃を放つ。

  クールタイム:10s

 重量軽減 Lv.4:所持品の重量を減らす。

  クールタイム:7s

 運搬補助 Lv._:物を運ぶときに、負担軽減などの一定の補正。


 

 正直、クソほど弱いというの本音だった。

 基本的に攻撃側の物理攻撃力筋力魔法攻撃力知性が、防御側の対応する耐性ー-物理防御物防魔法防御魔防がよりも高ければ大ダメージを与えられることを考えると、二人はスケルトンを容易に倒せるし、俺はその逆だ。

 

 肝心のスキルー-「重量軽減 Lv.4」「運搬補助 Lv._」も物を運ぶのに少し役立つ程度で、「スラッシュ Lv.3」も肝心の筋力が低いゆえ大した攻撃力は持たない。

 ついでに言えばその運搬能力も、重量をある程度無視して収納できる時空鞄アイテムボックスなる上位互換があるからほぼ死にステータスになっていた。


 当然、そんな俺が普段上層で倒しているモンスターもこの程度。


 スライム(G) Lv.1

 筋力 G         

 物防 G      

 魔防 G         

 知性 G       

 器用 G        

 敏捷 G        

 運  G


 ゴブリン(G) Lv.1   

 筋力 G         

 物防 G      

 魔防 G         

 知性 G       

 器用 G        

 敏捷 F         

 運  G


 圧倒的なまでの弱さ、ほとんどのステータスが最底辺だ。

 人間みな初期ステータスはすべてGだということ、冒険者の最初の関門がゴブリンだということも考えると、中等部の3年間と卒業後の2年間ちっとも進歩していないことになる。 

 二人はいつもはDランクのモンスターと戦っているらしいし、ほんと悲しいもんだよ。


「おーい、もう大丈夫だよ」


「ほいほい」

 

 柴田の戦闘終了を告げる声に思考を切り替え、三人で地面に落ちた魔石を拾っていく。


 魔素が集積して生み出されたモンスターは、倒されるとその核たる魔石や特定の部位を残して煙のように消えていく。

 俺らはモンスターが落としたそれらドロップ品を地上まで運ぶのが仕事だった。 

 そうしたダンジョン内資源は貴重なエネルギー源になるとか、荒廃した大地を再生させるとかで、冒険者を束ねる国営の組織ー-冒険者協会が買い取ってくれるのだ。


「そういえば、何で急にお金が必要になったんだ?」


 普段は別のパーティで活動する二人とは、昔のよしみで度々一緒に潜ってきた。

 ただ今回は昨夜に誘いのメールが送られてきたりと、だいぶ慌ててる感じだったのだ。何かあったか気になるのが人のサガというものだ。


「あー、ちょっとへまをしましてね。

 まあパーティの大事なアイテムを壊したみたいな感じです」


「……真君、男には引いてはならぬことがあるんだよ」


「? へえ、Dランク冒険者でも意外と貯金がないもんだなあ」


 気まずそうに頬をかく江川に、ポンと俺の肩をたたく柴田。

 そんな態度に、俺は素直に驚いていた。

 モンスター同様S~Gランクに分けられている冒険者の中で、Dランクに位置する二人。彼らはよく4桁くらい稼いでいるなんて自慢気に語っていたのだ。

 それだけ普段の消費額も大きいのだろうか。


 あるいは……男には、ねえ。

 まさか本当に風俗に嵌ってるとかじゃないよなあ。


 だとしたらなんて、なんてー-羨ましい。

 ……いや、まあバレたら大変なことになるし(というか絶対バレる。うちの妹はお金の出入りに妙に鋭いのだ)、他人にお金を使うくらいなら夕菜においしいモノを食べさせてあげたいからやるつもりはないけど、それにかまけるくらい金銭的余裕があるということなのだ。

 Fランク冒険者の俺なんか生活費だけで稼ぎが消えていくってのに。


 ただ別の仕事を見つけるわけにもいかなかった。

 なにせ、冒険学校に通って卒業後5年間は専業冒険者として活動することが多額の援助金をもらうための条件だったのだから。 


 ……国の制度を利用して、まさかこんなことになるとは。

 夕菜も俺の後を追って冒険者になるとか言い出すし。


 選択、間違えたかなあ……。

 

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