【完結】TS転生から始まる、最強美少女への道!

水品 奏多

第一話 何の変哲もない朝



「……さん……にいさん、起きてくださいっ」


 誰かを呼ぶ声。ゆさゆさと体を襲う揺動。


 沈んだ意識が浮上していく。

 視界に映るのは、こちらを見下ろすマイシスターの姿。

 目覚まし時計を見れば6:45の表示。


 ……どうやら寝坊してしまったらしい。


「おはよう、夕菜。

 愛しの妹に起こされるとは、今日は良い日になりそうだな」


「今日もでしょ、にいさん。

 全く、そんなんじゃいつまでたっても独り立ち出来ませんよ?」

 

「大丈夫大丈夫、最悪15分前に起きれば間に合うから」


「……寝坊する人が言う典型的なセリフですよ、それ。

 ほらさっさとどいてください、邪魔です」

 

「ほいよー」


 しっしと夕菜に手で払われ、あくびをしながら自分の部屋を出る。

 静かに畳みたいとか何とかで、いつも追放されてしまうのだ。


 しっかし……目覚ましを止めた記憶が一切ないのは何でだろうなあ。






「今日はあの二人と一緒に潜るんだよね?」


「ああ、なんか急に金が必要になったとかでな。久しぶりに連絡が来たんだ」


 二人で朝ご飯を食べながら、のんびりと会話を交わす。

 

 潜るなんて言葉が出ているが、別に俺がダイバーってわけじゃない。

 冒険者がダンジョンに入ることをそう呼ぶのだ。


 迷宮ダンジョンそして、そこに住むモンスターなる存在が確認されたのが今から13年前。最初期の騒乱で失われた人口が徐々に回復してきた等色々と変わった中で、何よりも大きな変化は冒険者という職業が生まれたことだろう。

 危険を顧みずダンジョンに入り、魔石などの有用な資源を持ち帰るー-それが俺ら冒険者の仕事だ。

 いつもはソロで活動している俺だったが、今日は珍しく元同級生に一緒に潜らないかと誘われていた。


「柴田さんと江川さん、でしたっけ? 

 私あんまり好きじゃないんですよね、あの人たち。

 なんか風俗とかにはまりそうじゃないですか?」


「こらこら、お兄ちゃんの友達をけなすんじゃない。

 まあ気持ちは分からなくはないけども……」


 冒険者育成学校時代を思い出して、言葉を濁す。

 俺ら全然モテてこなかったからなあ。


「にいさんも気を付けてくださいよ? 

 絶対女の人とかに騙されるタイプですから。理由なく近づいてきた人がいたら私に知らせること、いいですか?」


「はは、心配しなくて大丈夫だって。

 なにせ学生の妹よりも稼げない底辺冒険者だからな。ランクを告げるとみんな離れてくよ」


「……はした金だったとしても絞り取ろうとしてくる悪人もいるんですよ、にいさん」


「分かってる。

 お金に関することは夕菜にちゃんと相談するよ」


 暗い表情を浮かべる夕菜に笑いかける。


 幼いころに父さんと母さんを亡くし、二人ぼっちになった俺らを拾ってくれた叔母の彼女は、結局遺産自体が目的だった。また叔母婿おじさんも夕菜に嫌な・・視線を向けていた。

 あの時二人で逃げ出していなければきっと酷いことになっていただろうし、その判断が間違いだったとは思っていない。

 ただ夕菜にひもじい思いをさせていることや心配をかけていることを考えると、もう少し何かやり方があったんじゃないかと後悔せずにはいられなかった。







「じゃあ行ってくる」

 

 玄関先。冒険者用の防具、胸元につけた情報端末コンカと腰の時空鞄アイテムボックスという、いつもの装備で夕菜に声をかける。

 向かうは徒歩15分の職場、静岡ダンジョンだ。


「うおっ」


 突然胸に顔を埋めてくる夕菜。

 綺麗な黒髪が顎にかかり、小さな手が右手にちろちろと当たる。


「おにぃ、生きて帰ってきてね」


 ぽつりと言葉が零される。敬語じゃない、かつての呼び名で。

 ……いつもと違う場所に潜る時なんかはこうして甘えてくるんだよなあ。


「大丈夫、あいつら意外と頼りになるからさ。

 今日の夕食は豪華にするから楽しみにしててくれ」


「はあ、期待しないで待っていますね。

 いってらっしゃい、にいさん」


 撫でようとした瞬間、何事もなかったように離れる夕菜。

 残念、デレ期はもう終わりか。


 名残惜しい気持ちになりながら、ふらふらと手を振って歩きだす。

 ……今日も頑張らないとな。


 

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