第17話

最終話


◉この狭い世界のどこかで


 最後の日、アリーナとヴェロニカは見送りをしてくれた。

 ヴェロニカは『アリーナを愛してくれてありがとう』と言っているらしい。僕は「僕の方こそありがとう」と言って深く頭を下げた。そしてタクシーに乗り込んだ。


「ありがとう。アリーナ」

「私の方こそ、アリガトウ」



 最後の別れの挨拶を交わしたら桐谷くんと僕を乗せたタクシーは発車した。

 車は駅へと進んで行く。アリーナとヴェロニカは段々小さくなっていく。ずっとアリーナは手を振っていた。

 ヴェロニカは頭を下げていた。まるで日本人のような品格だ。

 

 出会った瞬間からの事を思い出す。

 チラチラ見ていたアリーナ。

 リスボワでもう一度目が合ったアリーナ。

 目の前に座ってきたアリーナ。

 ドッグレースを見るアリーナ。

 一緒にただ寝た日のアリーナ。

 抱いて欲しいとお願いしてきたアリーナ。

 

 アリーナ

 アリーナ 



 キミにはもう会えないのかい。


 つらい

(うう、う、う)


 苦しくて涙が止まらない。


 桐谷くんが困っている。


「なんだよ、もう、そんなにかよ。よほど好きになったんだな。でもよ、相手は娼婦だぜ。忘れろよ」


 娼婦じゃないんだよ。とは言わなかった。説明も長くなるし。ただ、忘れろは無理だった。

 

「…ま、たしかになー。イイ女だったし、日本語通じるのも良かったよな。幸せになってくれと願うしかないんじゃないか?」



 その通りだった。


「まあさ、結局今回の旅はえっらい負けたからゼッテーまたリベンジすっからよ!そん時はまた誘うわ!きっとまた会えるよ!そう落ち込むなって!」


 桐谷くんがそう言ってくれて少しだけ気持ちが落ち着いた。



「ちなみに、いくら負けたの?」


「7万」


「香港ドルで?」


「香港ドルで」



「それは70万円…」


「言うな!オレだってつらいんだ!わかるだろ!」


 つらい種類がまるで違うが、70万円減りゃつらいわな。

「てか、そんなに持ち込むなよ」


「1日10万円までは考えてたから70万円持ってきたらMAXまでスったよ」



「大した奴だよキミは。でも、ほんと今回は旅行に誘ってくれてありがとう」


「いい旅だったろ?」



「そうだね。最高だった。アリーナ…いつかまた、どこかで会えるといいな」



「会えるさ、世界はわりと狭い。この狭い世界のどこかで一緒に生きてるんだ。きっと会える」




 余談だが、僕はその後別れた恋人に数年ぶりに偶然会うことの多い人生となる。本当に世界は狭い。




「うん、次に会える日を信じることにするよ。


 その時は笑ってーー」








 

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回遊処女 光野彼方 @morikozue

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