第15話

15話

◉指輪


 デパートでの下見の結果。わかったことはアリーナは高価なものは見もしないということ。自分とは無縁のものと捉えてるのか、存在しないかのように宝石コーナーや時計コーナーをスルーした。いや、僕が買ってあげるって言ってんだからちょっとくらい見てけばいいのに、とことんイイ子かよ。


「あの服可愛い」とか「この靴素敵」とか言うのはどれも手頃な値段のものでプレゼント用の価格ではなかった。そんなに気にしなくていいのにね。優しい子だよ全く。


 今思うと最初に出会った時の2000香港ドルで買ってというのも本当はそんなに取るつもりはなかったんじゃないだろうか。ほんの話しかけるきっかけにしただけで。

 こんなに相手の財布にまで気遣いする子が相場の2倍以上の値段設定をするとは思えない。「高いよ!」とか言われるのを期待してたのかもしれない。でも、僕は「安いよ」とは言っても女性の身体をどんな値段であれ高いと思うことはないし、そんな失礼な発言は絶対にしないから会話がちょっと思ってたんと違うことになったんじゃないか?


「アリーナ、それよりも指輪を見ていかないか?」

「ゆっ、指輪?!すっごい嬉しイけど、凄く高いよ!」


「いいんだよ、大金バサっと持ち歩くより嵩張らなくていいだろ」


 そう言って僕はカジノで儲けた金をカバンから取り出した。  



「2万2千香港ドルある。買えるやつ沢山あるだろ。予算内なら好きなの選んでいい。いや、5千までなら超えても構わない。そのくらいは使うつもりで来た。一緒に選ぼう」


 すると、アリーナがボソボソっと何かを言っている。


「………ア………が……」


「聞こえなかったんだけど、今なんて言ってたの?」

「なら…ペアリングがイイ…。アナタと。お揃い」


(何でそーなる!どうしてキミはこうも可愛いのかな!)



「僕の分はいいんだよ、アリーナ。きみに財産となるものをと思ってのアイディアなんだよ」


「それでもォ!」


「わかった、でも、キミのことを大切にしてくれる男性と出会った時は迷わずお金に替えるんだよ?貧困に窮した時もそうだ。お金なくなって困ったら売るんだよ。僕はキミの助けになりたいから指輪を買いたいんだ」


「出来るかなア、そんなこと…

 きっと私、指輪したまま死んでそうだよ。その方が幸せを感じながら死んでいけるから。『私は愛された。ほんの一週間でも、愛した人に愛された』って、それを誇りながら…眠りたい」


「ダメ。困った時は売ってね」


 僕達は僕の経済レベル的にはかなり高価なペアリングを買ってギャンブルの勝ち分を全て使った。

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