第8話
8話
◉アリーナの覚悟
少し間を置いて落ち着いたら、ヴェロニカの話をしてくれた。
「ヴェロニカのうちも、別段余裕ある暮らしはしてなかったわ。両親とヴェロニカの3人家族で慎ましく暮らしていた。でも、ヴェロニカのお父さんは事故で亡くなるの。
その後はお母さんは再婚したんだけど、その相手がヴェロニカに乱暴するようになったわ。
そんな時私のおじいちゃんが死んじゃって。私たちには何の救いもないゲンジツが突き付けられたヨ」
「…」
「私たち逃げたの。部屋からお金になりそうなのかき集めて。無計画に。ただ2人で逃げた。
それで、たどり着いたのはマカオだった」
「…」
「『私が身体を売ればいい。アリーナは大丈夫。私だけでいい。どうせもう汚された身体だから』とヴェロニカは言っていたわ。でも、そんなのは私が嫌だった。私だけきれいなままヴェロニカの優しさに甘えてるなんてイヤ。
だから私も身体を売るコトにしたの。でも、怖くて、デキナカッタ…」
僕はかける言葉も見つからず。ただ泣くのを堪えていた。
「だから、アナタにしか頼めないお願いがあるの…。お願い、私を抱いて。私の初めてをもらって。お願いよ」
「それは…」
「私、覚悟は決めてるの、ヴェロニカだけに辛い思いなんてさせない。デモ、怖くて。
私、アナタのこと好き。だから、せめて初めては好きな人と…シタイ」
「でも、僕はあと5日したら日本に帰るんだよ。そしたらもうきっと二度と会えない」
「それでもイイ」
「それでもいいって…そんな」
「それでもイイの。
アナタがしてくれないとしても私はもう身体を売ることは決めてる。娼婦になるって決心してる。だってヴェロニカが私のために傷ついてるんだもん。同じ傷、私も必要。それが私たちの絆になるの」
「…」
「お説教はしないでね。バカで運も悪い私たちにはコレしか方法が思いつかなかったの。
でも私、意外な所でラッキーだった。アナタに会えて。アナタのこと知れて。好きになれて。
好きな人とが初めての経験にナルなら。私きっと、明るく生きていける。
これから先、きっと、つらいことずっと続く。そんな中で、誰かに抱かれてる時にアナタのこと思い出せるなら。娼婦もヤレル。
お願いよ……」
アリーナの大きな瞳から涙が流れ落ちた。
僕も多分、泣いてた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます