第7話

7話

◉おじいさんの教え


 次の日、アリーナと僕は桐谷くんと一緒にカジノに来てた。


「すげえなしかし、白人長期買いしたなんて」

「ああ、ドッグレースで当たってね」


 もちろんそれは嘘だ。アリーナはただ付いてきてるだけで性的な関係は持っていない。買ったわけではなく一緒に遊んでるだけだ。


 今日はカジノのサンドイッチが乾いていなかったので今度こそ美味しいのではと期待して食べた。具はタマゴだ。うん、おいしくない。

 具の量が圧倒的に足りない。いや、それは見たらわかることだったけど、それでももう少しうまいかなって期待していたが、だめだった。


「僕、ジュース買ってくる」

「じゃあアリーナも」

「おれは今、動けないから勝手に行って」と桐谷くんはバカラに夢中だった。


 僕らは最初に会話したレストランに行くことにした。


「あんなの見ればわかるジャナイ。おいしくないなんて。なんで食べタ」


「いや、昨日はカサついてたから今日はまだましかなって」

「結局飲み物飲みたくなるんだから。もうあんなの食べないでヨ」


 廊下は今日も回遊女が何周もしている。


「ねえ、アナタ。私の話を聞いてくれる?」


「面倒なことにならないなら。いいよ」


「そう、じゃあやめとくワ」


「ウソだよ。何でも聞くよ。今日も一日たくさん話して、たくさん遊ぼう」


 僕はそう言い、客の少ない静かなレストランでアリーナの話を聞くことになった。



「私のおじいさんはね。軍人だった。

 とくに深い考えも持たずにカッコイイかなって思って軍人になった人で。

 デモ、本当の戦争になって、人を撃って撃たれてっていうことになるじゃない?


 おじいちゃんは足撃たれてて痛くてその場から動けなかったんだって。おじいちゃんはもう人を撃ちたくなくて嫌になってたから気持ちも入らなくて立てないでいたの。


 そこに日本人兵が来て。もう殺されると思った。


 その時に。殺されなかった。


 それどころか上着と包帯を置いてくれて。

 日本人兵はその場からいなくなったんだって。



 その時生かしてもらって

 イマがあるの」



「…」


「おじいちゃんはいつも言ってたワ。

 日本語は覚えなさいって。

 日本人は優しい。今後、自分が死んでしまったあとにアリーナがもし困ったことがあったら日本人を頼りなさい。って」


  

(それで、あの小籠包の店で日本語が聞こえたから見てたのか)



「うちには両親はモノゴコロついた時からいなかったわ。おじいちゃんと2人で細々と暮らしてた私だけど、おじいちゃんはやっぱり年々弱っていった。近所のヴェロニカのうちを頼りにするしかないくらいには我が家は困ってた」



「ちょっとつらいハナシがつづくケド、ダイジョウブ?」


「え、大丈夫だよ」


「だって今にも泣きそうじゃナイ」


「そ、そんなことないよ」


「ヤサシイな。日本人は」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る