第6話

6話

◉宿へ


「じゃあまずはどこ行く?」

 

「ドッグレース見に行コウ。マカオ名物」


「じゃあそれ行こうか、ええと…」


「アリーナよ!」

「よし、行こうアリーナ」


 僕はアリーナの手を引いて出口へ向かった。何故だろう。この時自然と彼女の手を取っていた。そのまま、手を繋いだまま僕たちはドッグレース場に行った。

 とても大人っぽい容姿をしているが、アリーナは多分年下な気がした。それもかなり若い。娼婦なはずの彼女から、とても無垢な愛らしさを感じていたんだ。


 彼女はドッグレースの遊び方を教えてくれた。

 なるほど、競馬の犬バージョンだ。ただし、草食動物の馬と違って肉食動物に属する犬は獲物がいなければ走らない。なので、兎に見立てたぬいぐるみを用意してそれを機械によってとんでもない速度で動かす。犬はそれを獲物だと思って走るという仕組みであった。ちなみに時速は90キロ。そんな早い兎はいないだろ。面白い。


 2人で観光して、散歩して、遊んでいるうちに日が暮れてきた。

 なんだろう。娼婦なのにタダでデートとかして。変な子だなあ。今更だけど。


「アリーナ。そろそろ僕は宿に帰るけどキミはどうするんだ」

「ン。どうしよう」

「一緒にいた子の所に帰るんじゃないのか」

「ヴェロニカのことね」

「ベロニカさんって言うのか彼女」

「ヴェねヴェ。ベロニカはスペイン読みヨ」

「そこはいいだろ。普段使わない発音は難しいんだよ」


 ちなみにこのヴという文字を作ったのはかの有名な福沢諭吉であると聞く。全く厄介な字を作ってくれた。しかし、2019年にこのヴは教科書から廃止される。

 

「んとね、ヴェロニカは今日はお仕事だから私とは居られないの。私は宿代をもらってたんだけど安い宿はどこも埋まってテ…実は今日から帰る所ないの」


「で、僕んとこに買ってくれって来たのか」


「デモいい。無理やりついてきたし。1日くらいなんとかなるヨ」


「よし、買った」

「エッ」


「2000ドルは出さんが晩ごはんおごってやる、だから僕の宿に一緒に来てくれよ。朝までいてくれ。それでいいんだろ」


「エッでも。…あー、エッチなことしたくなったんでしょー」


「しないよ、晩ごはん奢るだけでそんなことしたらまずいだろ。いいから一緒に帰ろう」


「なんだあ、いくじナシー」


「いくじなしじゃなくて、お金ナシなんだよ」


 僕らは晩飯を食べて宿に帰った。桐谷くんはご飯を食べずにまっててくれた。ごめん。もう食べたんだと言ったら少し怒った。

 アリーナとの時間が楽しくてちょっと僕はアタマが回ってなかったんだ。そして、当然のというか、言われると思った質問が来た。


「その子買ったの?」と。


「買った。かな」(晩飯で)


「高かったでしょー!」


「うん、だから今からお楽しみなんだ。また明日なー!」


「おー、オレも今夜の女探してくるわー!」


桐谷くんはホテルを出て行った。


「さて、アリーナ」


僕は一歩アリーナに近寄った。


「な、な、な、何ヨ」


「何歳なんだ。なんとなくだけど、キミ若いだろ」


 アリーナの肌はあまりにも若く、まだ成人していないように見えたのだ。


「20」


「20?一応大人だったか。勘が外れたな」



「ウソ、ほんとは18さい」


「やっぱりなぁ。無垢な感じがするけど、男性の経験はあるのか?娼婦なんだしそれは、あるか」




「……ナイ」



「え」




「ナイの。まだ。娼婦も最近始めたばかりで、でも怖くて抱かれる前に逃げてたの」


「それで金がないのか。おかしいと思ったんだよ。

まあいいや、とりあえずここにいていいから。でも、さ」


「デモ?」


「明日も一緒に遊んでくれよ」


「…なんだあ、それならイイヨ!」

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