第6話

 翌朝。

 ラネは両親に挨拶をすると、昨日のうちにまとめておいた荷物を持って、村の広場に向かった。

 生まれ育った村と両親から離れるのは寂しいが、このままでは両親にも迷惑をかけてしまうかもしれない。それに、この村でいつまでもエイダ―のことを引き摺るよりは、新しい生き方を見つけた方が自分のためだ。

 両親にも、落ち着いたら必ず手紙を出すと約束した。

「身体に気を付けるのよ」

「ええ、父さん、母さんも」

 大きな荷物を不審に思われるかもしれない。そう警戒したけれど、集まった者達は皆、同じような荷物を抱えていた。

(これで、余計なことを聞かれずにすむわ)

 それを見てほっとする。

 幼馴染として一緒に育ってきたが、村を離れることを誰にも話す気はなかった。

 もちろん、別れの挨拶もしないつもりだ。

 薄情かもしれないが、向こうも話すのは嫌だろう。

 そう思いながら、ちらりと幼馴染たちを見つめる。

 もともと村の女性達の中では、ラネは浮いた存在だったのだ。

 エイダ―が逞しく成長し、出世していくに従って、ラネにきつく当たる者が出てきた。

 婚約した当時は、物好きだとさんざん笑っていたくせに、エイダ―の優しさに付け込んで無理やり婚約したのだと噂を流したのだ。

 とくに、洗濯場で嫌味を言ってきたメグと、彼女と仲の良いミーエはひどかった。

 彼女たちはラネが振られたのが嬉しくてしょうがないようで、何度もこちらを見てくすくすと笑っている。

 幼馴染の女性はもうひとりいる。ふたつ年下のクレアだ。

 彼女はおとなしくてラネに嫌味を言ったりしないが、やはりエイダ―のことは好きだったらしい。むしろラネよりも彼の結婚に衝撃を受けているようで、暗い顔をして俯いている。

 男性は、エイダ―の他にも三人いる。

 村長の孫のトリザに、鍛冶屋の息子のロン。そして、猟師の息子のソルダ。三人とも屈強な体つきをしていて、身体の小さいエイダ―をよくいじめていた。今は彼のほうが出世して、複雑な気持ちなのだろう。

 彼らの表情はどれも、あまり晴れやかではなかった。

 エイダ―の両親は、まるで貴族のように上等な服装をしていた。ふたりの傍には、荷物を持った従者もいた。急にこんな待遇をされてしまえば、自分達が特別な存在だと思うのも仕方がない。

 そんなことを思いながら、ぼんやりと村の景色を眺めていた。

 もう戻ることはないかもしれない。

 少しだけ感傷的になっていると、広場に突然、複数の人間が出現した。

 驚いて声を上げそうになりながら見ると、彼らは美しい装飾が施された揃いの制服を着ている。

 王立魔導師団だった。

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