第7話
若く凛々しい彼らに、女性たちは目を奪われている。
ラネも一度は視線を向けたが、彼らはあまり好意的ではなさそうだ。この村に、あるいはエイダ―にあまり良い印象を持っていないのかもしれない。
王立魔導師団ともあろう者が、剣聖と聖女の結婚式のためとはいえ、ただの村人を移動させるために魔法を使わなくてはならないのだから、それも仕方がないのかもしれない。
ラネは彼らから目を逸らした。
視線を落として、自分のつま先を見つめる。
この結婚は、本当に祝福されているのか。エイダ―は幸せになれるのかと、ぼんやりと考えていた。
魔導師たちの指示に従って、広場の中央に集まる。
魔力酔いをして、気分が悪くなる場合もある。そう事前に説明を受けてから、彼らは魔法を使った。それを聞いて、魔法を初めて体験する幼馴染たちも不安そうだ。
エイダ―の両親だけは何度か経験したようで、余裕そうである。
詠唱が始まり、足元に魔方陣が浮かび上がる。
(なんか、空間が歪んでいるような気がする)
ふわりとした浮遊感のあとに、急速に落下するような感覚。
(落ちる!)
ラネはとっさに目を閉じて、衝撃に備える。
けれど想像していたようなことは起こらず、再び目を開けたときには、目の前には大きな街並みが広がっていた。
周囲の幼馴染たちが、感嘆の声を上げる。
みんな、王都に来たのは初めてだ。
近隣の町でさえ、迷子になってしまうほど広いのに、王都はその町とは比べ物にならないほどの規模だ。
ラネもまた、目を見開いて周囲の景色を眺めていた。
(すごい人……。それに、建物も大きくて立派だわ)
この王都の奥にそびえたっているのが、王城だろうか。
村から見える山のように大きいその城を、ラネは見上げる。
聖女は、あの城に住んでいるという。辺境の小さな村がすべてだったラネとは、住む世界が違う。エイダ―は、そんな人と結婚するのだ。
こんなに大きな町に住み、立派な王城に住んでいる人と結婚するエイダ―が、ラネのことなど忘れてしまっても仕方がないのかもしれない。
諦めに似た苦い思いが、心の中に広がる。
婚約解消を申し出るまでもなく、ラネの存在などエイダ―の中から綺麗に消えてしまっていたのだ。
視線を感じて振り返ると、エイダ―の両親が満足そうな顔をしてこちらを見ている。
ラネがエイダ―との差を思い知り、仕方のないことだと受け入れたことがわかったのだろう。
そもそも、聖女とエイダ―は本当に結婚式に幼馴染たちを呼んだのだろうか。
自分たちのことなど、村のこともすべて頭にないのではないか。
エイダ―の両親がラネに、そして幼馴染たちにも、エイダ―はもう自分たちとは違う存在なのだと思い知らせるために、わざわざ王都まで呼び寄せたのではないか。
そんなことさえ考えてしまう。
それを裏付けるように、ふたりは村の幼馴染たちに会いに来ることはなかった。
明日の準備でふたりとも忙しいから。
そう言われて、王都にある宿屋に案内される。
今日はここに泊まり、明日になったら結婚式が執り行われる王城に向かうようだ。
(あの大きなお城で、結婚式を……)
案内された宿屋もとても綺麗で大きく、気圧されたように幼馴染たちは誰も口を利かない。ひとり部屋に案内され、荷物を置いて、ようやく大きく息を吐く。
明日の結婚式はきっと、大勢の人たちが結婚式に参列して、聖女と剣聖の結婚を祝うのだろう。そこには国の重鎮や貴族が大勢参加していて、自分たちのような存在は、ふたりの視界にも入らないに違いない。
ラネはふかふかの寝台に腰を掛けたまま、目を閉じる。
明日。
すべてを見届けて、そして決別しよう。
エイダ―のことは、彼を愛していたことも含めて、すべて忘れてしまおう。
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