フロイライン

鈴音

昔から、満月が好きだった。


ずぅっと病気でおうちから出たことが無かったけど、お月様を眺めることは出来て、いつかあの空から素敵なお友達が来るって信じていた。


だって、お母様がくれた本に書いてあったから。あの月には人間が大好きなうさぎさんがいて、寂しそうなお友達を見つけたら跳んで来てくれるんだって。


きっといつか来る。そう願い続けて、病気が治ることも無く14年と少しがたった今日、空にたくさんの流れ星を見つけた。


きらきらと降り注ぐ宝石のような流れ星の1つが、ひときわ強く輝いて、私に向かって飛んできた。そして


「こんにちは!素敵なお友達!私のフロイライン!!」


1人の美少女がやってきた。


「フロイ…ライン?」


「んふふ!」


尋ねても、にっこり笑うだけで答えてくれない彼女だけれど、どうしてかその笑顔がとっても優しくて、輝いて見えた。


「…とりあえず、中においで」


「お邪魔します!」


兎月とづきと言う異国の言葉で名乗った少女は、何も言わず、ただ私のベッドで一緒に眠ってくれた。病気のせいで何年も人肌の温もりに触れてこなかった私は、それだけで涙が出るほどに嬉しくて。でも、不思議な儚さを感じてしまった。


そのまま夜は更けていって、目が覚めた時に、ベッドの中はやけに冷たくなっていた。そこに兎月なんて女の子はいなかった。けど、可愛らしいうさぎのしっぽだけが、枕元に落ちていた。


窓を開けて空を見上げると、朝に見える薄い月が空に浮かんでいて、それを眺めてから、ゆっくり息を吸い込むと、不思議な程に体が軽くなっていた。


ベッドから跳ね起きた頃には、私の体から悪い病気が無くなっていることに気づいた。


それからまた、月を見上げると、何かがちかちかと瞬いていて、それを見て私は、にっこりと笑顔を返してから部屋を出た。


きっと、お父さんもお母さんも驚く。泣かせてしまうかもしれない。でも、その泣き顔を見てみたいな。なんて考えながら廊下を走ってみた。その足取りがとっても軽くて、うさぎにでもなったようで。


髪飾りにしたうさぎのしっぽと一緒に、私は元気になった体をめいいっぱい楽しんだ。

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フロイライン 鈴音 @mesolem

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