サポーター限定SS 未公開まとめ
第十四.五話 お弁当の準備
「ねえ沙羅、塩加減このくらいでいいかな?」
楽々が、おにぎりを一つ握って、沙羅に味見をしてもらう。
ペロリとご飯粒を付けた沙羅が、満足そうにうなずく。
「そうですね、このくらいでちょうど良いと思います」
「わかったー! よし、いっぱい作るぞー!」
腕まくりをして気合を入れる楽々。
一つ、また一つと作っていると、沙羅が恥ずかしそうに言う。
「え、えーと……私の分も残しておいてくださいね」
「残す? どうして?」
「その……私も律くんに美味しいって言ってほしいので……」
沙羅がもじもじとしているのを見て、楽々がふふふと笑う。
「えへへ、じゃあ半分は沙羅の為に残しておくね。じゃあ、私も卵焼き半分作らせて―!」
「わかりました。じゃあ、半々にしましょうか」
「はーい!」
いつもより一時間も早起きしているものの、二人は笑顔だった。
そのうち楽々が鼻歌を歌いはじめ、沙羅はそれに合わせてルンルンで身体を揺らす。
「いいですね、こうやって誰かの為に作るのって」
「うんうん、そうだね。すっごい楽しい!」
出し巻卵を作り、ウインナーを焼き、唐揚げを作っていると待ち合わせ時間が近づいてくる。
「楽々、そろそろ用意しないといけませんね」
「はーい! えへへ、楽しみだー! 写真いっぱいとろうね」
「そうですね、三人でいっぱい撮りましょうね」
第二十三.五話 沙羅と長距離バス――前夜。
「ふふふーん♪」
お風呂場で、沙羅が湯舟に漬かりながら、猫のようにほがらかな顔をしている。
身体を洗っていた楽々が、それに気付いて微笑む。
「沙羅ご機嫌さんだねえ」
「え? 何がですか?」
どうやら鼻歌には気づいていなかったらしく、ほえ? と首を傾げる。
「明日のこと考えてたでしょ?」
「そ、そんなことは……ありますけど……」
ブクブクと湯船に口を覆うように沈んでいく。頬は火照っているのか、少し赤みを帯びていた。
シャワーを浴び終え、素晴らしいスタイルの楽々が立ち上がり、湯舟にゆっくりと足先から浸かる。
「やっぱりねー、ピーマンバナナさんだっけ? 昔から好きだよねえ」
「はい! あの人の作風は凄いんです! もうなんというか、隙がない感じで!」
「ふーん? でも、一番楽しみなのはそれじゃないでしょ?」
「え?」
「律と二人きり、だからでしょ?」
図星、と言わんばかり、沙羅が湯舟の中で慌てふためく。勢いが凄く、楽々の顔にお湯が何度もかかってしまう。
「ち、違いますよ! 確かに楽しみですけど、そういうわけでは!?」
「ふふふ、そうかなー?」
「そ、そうですよ……ま、まあ楽しみなのは間違いありませんが……ぶくぶくぶく」
「バスで二時間だっけ? 結構長いよね?」
「そうですね。朝も早いですし」
「だったら、何かご飯でも作っていってあげたらどう? 沙羅のサンドウィッチとか喜ぶと思うよ。お花見でもいっぱい食べてたし」
「確かにそうですね。楽々、ありがとう。そうすることにします」
「その代わり、私の分も作っておいてね?」
楽々が、ぱちっとウィンクをする。沙羅は、まんまと見事にはまってしまったと気付く。
「なるほど、そういうことでしたか……抜け目ないですね」
「えへへ、楽しみ楽しみー、具の卵いっぱいね!」
「はいはい、わかりましたよ」
第二十四.五話 沙羅とサイン会――閉店の本屋、帰りのバス。
「お疲れ様でした。先生」
「ありがとう、突然無理いって」
「いえ、構いませんよ。先生の大事な場所とお聞きしていましたから」
先生と呼ばれたピーマンバナナが、女性マネージャーに頭を下げる。
「ああ、それと編集長にアポ取っといてもらえるかな?」
「構いませんが、どうしたんですか?」
「次回の構想が浮かんでね、双子の話を書いて見ようと思って」
「双子ですか? それまためずらしいですね。どんな話です?」
「そうだねえ、性格の違う姉妹が、一人の男と仲良くなって、三人で同棲をはじめて、仲睦まじく生活している様を描きたいかな。それで、最後は……」
「面白そうです! 最後は?」
ピーマンバナナこと、先生がふふっと笑みを浮かべる。
「まだ秘密」
「えー! 気になるじゃないですかー!」
「あら、その反応いいわね。面白く書ける気がしてきたわ」
「最初は私に見せてくださいね!」
「残念だけど、約束したのよ」
「約束?」
「この話には、モデルがいるからね。彼らに見せてあげなきゃ、ふふふ」
明日閉店となる本屋とは思えないほど、その空間は幸せで溢れていた。
一方、帰りバスの中、沙羅と律は――。
「くしゅん……」
「沙羅、寒いの?」
「あ、いえ、なんか噂をされた気がしました」
「もしかして楽々かもね」
ふふふ、とお互いに笑い合う。
楽々はどうしているのか、楽々は、楽々は、と話をする。
「お会いしてからだと、いつもより次回作が楽しみになりますね」
「ああ、今から待ち遠しいよ」
第二十五.五話 楽々とこどもの日――早朝。
「楽々、私も行きたいんですが、すみません」
「仕方ないよ。律が手伝ってくれるらしいから、何とかなると思う」
朝、自宅にて。
沙羅は元々、楽々と鯉のぼりを作る予定だったが、生徒会で行けなくなってしまっていた。
しかし沙羅は、申し訳なさとは別の意味の表情も浮かべていた。どこか浮かない顔で、いつもより落ち込んでいる。
「ふふふ、沙羅っ!」
それに気付いた楽々が、後ろから沙羅の――胸をむぎゅっと掴んだ。
「きゃああ!? ちょっと、何するんですか!?」
「律と二人だから、羨ましいですって思ってるんでしょ? むにゅむにゅ」
「ちょ、ちょっとやめてください!? それに思ってませんよ!」
沙羅がジタバタ暴れても、楽々は止めようとしない。それどころか、速度を速めていく。
段々と、沙羅の息が荒くなって……くる。
「や、やめてください……楽々」
「本当のこといったら、止めようかなー」
限界を迎え、沙羅は叫ぶように言う。
「そ、そうです! 羨ましいです!」
「えへへ、やっぱりね」
答えに満足したのか、楽々が手を止める。沙羅は制服の皺を戻しながら、胸を隠すような素振りで後ずさりした。
「大丈夫、抜け駆けはしないから。もちろん、キスなんてしないよ」
「ちょ、ちょっと楽々!? 当たり前ですよ!」
「えへへー、あでも、律からしてきたらどうしようかなー?」
「ら、楽々!? ダメですよ!?」
そうして二人はこの後、初めて遅刻しそうになったのだった。
第二十六.五話 楽々と映画鑑賞途中。
ブーブー、映画を見ている途中で、律の携帯が鳴る。
ブーブー、ブーブー。
「律、誰から?」
「ああ、ごめん。切っておくよ」
通知を見ると、そこには沙羅と表示されていた。
「あれ? 沙羅だ」
「え? なんて書いてるの?」
律がメッセージを開く。
『映画、何を見てるんですか?』
「映画、何見てるの? って。後で返しておくよ」
「ふーん? 寂しいからかな。別に映画中でも返していいよ」
「わかった」
ポチポチ、律は映画のタイトルを沙羅に送る。
そして、数分後。
ブーブー、ブーブー。
「あ、また沙羅から」
「大丈夫だよ。確認取らなくても」
なんだか申し訳ないなと思いつつ、気になるので、律もメッセ―ジを再び開く。
『そうなんですね。私も見たいのがあって、今度一緒に見ませんか?』
『ああ、わかった。今度一緒に見よう』
ブーブー、ブーブー。
『そういえば、夜ご飯は何を食べたんですか?』
『沙羅が作ってくれたよ。揚げ物とか、色々と美味しかった』
ブーブー、ブーブー、ブーブー、ブーブー。
『いいですね、私も食べたいです』
止まらないメッセージ。結局、映画が終わるまで通知が鳴りやむことはなかった。
それに気付いた楽々が、ぼそりと言う。
「きっと凄く寂しいんだよ。ふふふ、沙羅ってわかりやすいねえ」
「そうなんだ。確かに……可愛いね」
ブーブー、ブーブー。
【完】高校デビューに失敗した俺、幼い頃に結婚を誓ったS級美少女姉妹と入学式で再会、幸せ学園生活がはじまりました。 菊池 快晴@書籍化進行中 @Sanadakaisei
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