第十三話 学校の噂
「りっちゃん、知ってるか? あの噂」
休み時間、
何時にもなく真剣な表情をしている。いや、いつも適当なだけかも。
「あの噂って?」
「知らねえの? 今、学校内で持ち切りだぜ」
「知らない……」
というか、俺は修以外に友達がいないので知るわけがない。
楽々と沙羅と話す時は、噂話なんてしたこともなかった。
そんなことを言った修の目線は、楽々と沙羅に向けられていた。
「……もしかして二人のこと?」
「ああ、そうだ。本人に聞こうと思ったが、流石にプライベートすぎるからよお」
プライベート……。一体何のことだろうか、気になる。
でも、なんだか二人に悪い気がする。でも気になる。
修が言えば教えてくれるのだろうか。かなり気になる。
「まあ、知らねえならいっか。忘れてく――」
「気になる!」
思わず大声を出してしまい、周囲の目線が集まる。
あ、あ…‥となっていると、修が咳払いをして場を治めた。
「びっくししたぜ……。えっとな、噂のってのは、二人の彼氏のことだよ」
「彼氏?」
まさかそんな……。いや、何をショックを受けてるんだ?
俺は楽々と沙羅の友達で、それ以上でもない。
それに二人とも可愛いのだ。
彼氏がいたとしてもおかしくはない。
でも、やっぱり少しショック。
「どんな人なの?」
「それがよ、どうやらなんかこれとった特徴がないらしいんだ。後ろ姿を見たやつの証言だと、あーそうだな。ちょうど、りっちゃんみたいな髪型だ。最近ワックス着けましたみたいな」
「俺はこれでも頑張ってるのに……」
「わりぃわりぃ! 落ち込むなって。で、楽々の目撃情報はショッピングモールでイチャイチャしてたとか。で、沙羅とはなんと怪しげなビルに入って行ったらしいぜ……な? 流石に本人には聞けないだろ?」
「……それっていつの話?」
「確か先週だよ。どっちも彼氏の顔は見てないらしいけどな」
あれ、もしかして……俺?
それ俺じゃない?
怪しげなビル……ビル……あ、猫カフェだ。
そういえばちょっと怪し気だった。狭かった。
修に言うか? 四人でご飯も食べたりしているし、問題はないだろ――いや、どうだ?
なんで俺を誘わなかったんだ、って言われるかも。
そもそも野球部が忙しいから遊ぶ暇もないって言われてるけど、そんなの関係ねえって言われそう。
うーん、黙っておくのも……やっぱり言うか。
「修、実は――」
「楽々派と沙羅派、めちゃくちゃ激怒してるらしいぜ」
「え!? そうなの!?」
「そりゃそうだろ。あの二人はもはや天使、守るべき存在だ。それがわけのわからないやつに取られているとしたらどうだ? 怒るだろ。まあ、俺も許せないな。――で、りっちゃんなんか言いかけてなかったか?」
「へ? い、いや何も!? 何もないよ!?」
「ふーん、なんか汗かいてね? いつもより焦ってね?」
「そ、そうかな? 暑いなーなんか、この教室暑いなー?」
「そうか? どっちかというと今日寒くね?」
◆◇◆◇
「楽々ちゃん、この前ショッピングモールで男の人と歩いてなかった?」
「え? え?」
休み時間、同級生の女子生徒にこんなことを聞かれた。
ショッピングモール……。あ、もしかして律と遊んだ時かな?
どうしよう、言ってもいいけど、律に迷惑かかるかも……しれないよね。
「いつの話だろ?」
「先週だよ。楽々さんかなと思ったんだけど、違うんだ」
「うーん、覚えてないなあ。最近記憶があいまいで……」
「大丈夫? 若いのに早くない?」
「え、えへ……でも、どうして聞いたの?」
「すっごい笑顔で幸せそうだったから、もしそうなら彼氏の作り方を教えてもらおうとおもって」
私、そんな顔してたんだ。でも、すっごい楽しかったからな……。
律にだらしない顔をしてると思われたくないから、気を付けなきゃ。
「彼氏なんていないよ」
「そっかあ。あ、あとね、私のお姉ちゃんが服屋で働いてるんだけど、すっごい幸せそうなカップルがいたって話も聞いてね。それもあっていいなあって」
「へえ! いいねえ、そういう恋話大好き」
「どっちも高校生っぽかったみたいなんだけど、凄い初々しかったって。それで、お揃いのクマさんのプレゼントをあげたら、二人で鞄に付けようねって言い合ってたんだって、いいよねー!」
「へ、へえー! い、いいねえー!」
絶対あのお姉さんだー!まさか同級生が妹ちゃんだったとは……。
鞄に付いているクマをそっと隠す。
話を聞いていた横の女子生徒が、隣で声をあげた。
「あれ? そういえば楽々ちゃん鞄にクマ――」
「さあて! 勉強、勉強がんばるぞー!」
「ねえ楽々さ――」
「さあて! さあて! 体育、体育、走るぞー!」
◆◇◆◇
「先生、こちら書類です」
「ありがとう。あら、相崎さん、何かいいことあった? いつもより素敵な笑顔してるわよ」
「え? ど、どうでしょうか。し、しつれいします!」
先週の猫カフェが楽しすぎたので、思い出すといつもにやけてしまいます……。
テストも近いし、気を付けないといけません。
その時、男子生徒から声をかけられました。
ここで話すのは恥ずかしいと言われ、近くの隅っこに移動します。
「あ、あの、相崎沙羅さん!」
「はい?」
男の子は震えていました。一体、どうしたのでしょうか。
「あ、あのずっと入学式から好きでした! だけど……その……彼氏がいるんでしょうか?」
「え? 彼氏……? どういうことですか?」
「先週、彼氏と歩いているのを見たって噂があって……それでその……すいません。こんな事聞いてしまって」
先週といえば、律くんと猫カフェに行った時です。
もしかして、その時に誰かに見られていたのでしょうか。
「お友達ですよ。彼氏ではありません」
「ああ! そうなんですか……。あ、すいません。あの、突然なんですが付き合ってもらえませんか? ずっと好きだったんです」
「……申し訳ないです。お気持ちは嬉しいのですが」
男の子は、がっくりと肩を落としてしまいました。
好意を伝えられるのは素直に嬉しいのですが、応えられないのは心苦しいです。
「わかりました……。こんなこと聞いて未練がましいかもしれませんが、そのお友達が好きだったりするんでしょうか? それなら、諦めがつくんですが……」
「……どうでしょうか。相手は私に興味が一切ないと思いますが、私は仲良くなりたいと思っていますよ」
「……わかりました。いえ、ご丁寧にありがとうございます!」
そう言うと、男の子は去って行きました。
申し訳ないと思いつつ、律くんのことを考えていました。
好き……か。
律くんは、私のことをどう思ってるんだろう。
その時、楽々が目の前から現れました。
「あ、楽々ー!」
「沙羅、どうしました? 表情がぎこちないですけど」
「え、えーと……何もないよ? それより、沙羅もなんか変じゃない? 頬赤いよ?」
「ええ!? な、何もないですよ!?」
「…………」
「…………」
「今日、律をご飯に招待したんだけど、どう思う?」
「もちろん賛成です。腕によりを掛けますよ」
その日、私は自分の気持ちを少しだけ理解した気がしました。
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