第14話
汗を流す暇もなく普段着に着替えた俺は、グラウンドからほど近い駐車場に止められたマツダ・ボンゴに駆け寄った。
「遅い!」
そう言って助手席のウィンドウを開けたのは、超が付くほど遠縁親戚である。
金と見紛うほど色素の薄い茶色の長髪に、ブルーグレーの大きくパッチリとした瞳。スッと通った鼻筋とたまご型の骨格は、見慣れて居なければ思わず息を呑んでしまいそうなほど美しい。
「ごめん。試合が長引いた」
「そう言う事はスマホで連絡しなさいよ」
「気をつける」
スンスンと鼻を鳴らす。
「ハル。アンタ汗くさいわよ」
「一応制汗剤つ簡単だけどなぁ……まぁコレからどうせ汗をかくんだしいいじゃん」
「言いたい事は分かるけど……身だしなみぐらい整えなさい」
そう言ってボディーコロンを渡してくる。
急いで来たからそれぐらいは見逃してくれ。
車のスライドドアを開けて車内に乗り込んだ。
緩やかにウエーブした長く美しい黒髪に、アイドルや女優かと思うほどの整った美貌を持っており、どこか浮世離れした天女のような雰囲気を持つと同時に、どこか冷たい印象さえ受ける。そんな雰囲気を持つ少女。
「久しぶりですね。春明君。今日のお仕事は私が全力を出しても問題なさそうですね」
「結界を張るこっちの身にもなれ!」
そう言うと上品に笑った。
「そうは言っても私の本性は遣いでしかないので、主命が無ければ全力を出すことは出来ないんですよ?」
「まぁそうですけど……」
「それを言うなら私やアンも遣いでしかありません」
話に割って入ったのは、本家土御門家の一人娘の土御門
プラチナブロンドの長髪は筆のように束ねられており、顔立ちは男とも女でも認識できるような整った顔立ちであり、歌劇やコスプレのような嘘臭さを感じさせない美しさがある。
「だから私達よりも強い春明でなければ、私達を使う事はできないのです」
「確かに現状この三人を使役できる術者は多くありませんからね」
と、運転手の男性がそう言った。
コイツ誰だ?
「失敬。私は
「全日本呪術連? ってプロレスかなんかか?」
「詳しいお話は移動しながらにしましょう……」
そう言うと酒粕さんは車を動かした。
「先ほどの『全日本呪術連が全日本プロレスや新日本プロレスに似ている』と言うお話ですが……名前こそ似ていますが全く違うものになります。この国には、古来から伝わる『神道』、インド発祥の『仏教』、中国の道教、そして日本発祥の神道をベースにした独自の思想を持った『陰陽道』と『修験道』、西洋から渡来した『キリスト教』の大まかに五種の呪術体系が存在し、それぞれが横の繋がりを持った緩い連帯を組んでいました――――」
「私達の陰陽道であれば賀茂、土御門、倉橋の三家を筆頭にした五芒会」
と、ユリが解説を奪う。
「仏教であれば、13宗派56派のほぼ全てが加盟する全日本仏教連合」
と、アンが解説を入れる。
「神道であれば、江戸中期までに勢力を持った四家を中心とした神祇院で、賀茂一門も五芒会所属ですが一枚噛んでいます」
とリナも解説を加える。
「キリスト教系はカトリック、プロテスタント、ロシア正教、英国国教会の四宗派を基本とした日本キリスト教会連合と言う組織が存在し、国家としては官民で呪術を隔てていれば、近年頻発する霊的な災害に対応できるぐらい。
ならばできるような組織を作ろうと考えられ作られたのが、全日本呪術連合会。通称
「はい」
「そして全呪連では協力までしかできません。より柔軟に対応するために作られたのが、幻の省庁と渾名される呪術庁と言う訳です」
「そう呼んでるのは公の人たちだけ。全呪連では皮肉を込めて陰陽庁と呼んでいるわ」
そうアンが付け加える。
「長官の娘さんにそう言われては何も言えませんね」
と酒粕さんは言うと「はははは」と乾いたように笑った。
酒粕さんは、アンの事を長官の娘と言った。
なるほど自分の所の使いだから、先に東京在住のアンを拾ってきて奈良・京都在住の鳥羽と土御門を拾って待っていたと言った所だろう。
「陰陽庁と呼ばれる理由は二つあります。一つは陰陽の二大大家である土御門……その分家である倉橋家がトップを務めている事と、陰陽道の様に宗教関係なく術を取り入れた様に、呪術師を採用している事からそう言われています」
「なるほど……」
「なので完全に民間の呪術師と関係が切れている訳ではありません。各省庁が持っていた独自のコネクションを総動員して何とか体裁を保っているのが、現代の陰陽庁である呪術庁と言う訳です。そして今回の依頼がコチラになります……」
そう言ってハンドルを片手で握ったままタブレットを差し出した。
そこに表示されているのは大学のレポートのような、文字と図解や写真が添付された資料だった。
俺は目を走らせて文字を読んでいく……。
「何だこれ……」
「皆さんへの研修ですよ。今はまだ大人が命を懸ければ、何とか乗り越えられる程度の霊的な災害でしかありません。このデータの通り二〇〇〇年から続く災害の数と、モノノ怪達の出現頻度は比例傾向にある……いつ限界を迎えるか分かったものではない……ですからあなた達には一刻も早く実力を付けていただきたいとの事です」
「「「……」」」
三人の少女達は拒否の感情を示すことなく窓を向いて、俺と目線を合わさない様にしている。
「春明……私達は1億2610万人の日本国民のために戦う義務があるのよ」
そう言ったのは、土御門ユリだった。俺達四人の中では一番責任感の強い少女であり、自己犠牲を是とするような人間だ。
「視えるから、戦えるから守るのよ……」
「私は八咫烏に化身した神の末裔ですよ? 私が自ら戦うのですから約束された勝利と言うものですよ」
そう言って彼女たちが励ましてくれる。
戦うのが嫌なんじゃない。皆が死ぬのが嫌なんだ。
「ユリ、リナ、アン……俺絶対にお前達を守るから……」
「何言ってるよ……今のハルに守られるほどアタシ達弱く無いから」
その言葉には8年前のであったころのような内気な少女達の面影はなかった。
「では手始めに今から鬼を祓っていただきます」
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『あとがき』
読んでいただきありがとうございます。
本日から中編七作を連載開始しております。
その中から一番評価された作品を連載しようと思っているのでよろしくお願いします。
【中編リンク】https://kakuyomu.jp/users/a2kimasa/collections/16818093076070917291
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