第13話

 日本のフィールドの多くが人工芝を用いている。

 理由は単純で導入は安くても、維持コストが高く人工芝に比べて割高だからだ。

 だから日本はサッカーなどにおいて、ヨーロッパやアメリカ、オーストラリアなどに比べてもスポーツ後進国と言われている。

 もちろん各団体共に努力はしているが……


 千年以上前むかしは芝やススキの原っぱなんてその辺にあったが、沼や干潟は埋め立てられ、工業団地や住宅地に転用され、昔の面影など地名から読み取るしかないほど、この国は国産みで産まれたとされる国土を改造しつくした。


 人の暮らしは豊かなモノになった。しかし精神面はどうであろうか? 身近にあった自然は消え管理された里山へと姿を変えた。


 俺はそんな事を考えながら、人工芝のグラウンドを駆け抜ける。

 俺の動きをみて、相手チームのディフェンダーが動き始めるが遅い。


「パスをくれ!」


 俺は手を挙げてボールを寄越せと、六番のミッドフィールダーの佐藤先輩にパスを促す。

 佐藤先輩は一瞬で周囲を見渡して開いている選手の確認をする。

 そう、先輩や他の選手の能力ではボールを相手選手に取られかねない。だから俺にボールを回すしかない。

 嫌そうな表情を浮かべ、まるでシュートのような勢いでパスを飛ばす。


「春明やれ!」


 俺が全力で走り抜ければ、なんとか爪先に届く。そんなポジションに鋭いパスが飛ぶ。


 信頼が厚いと言うべきか嫌がらせと言うべきか悩みどころだな……


ドン!


 足を大きく伸ばし爪先ボールを受けると、そのまま走り込み相手のディフェンダーを一人、また一人と華麗なボール捌きで抜き去るとゴールキーパーと睨み合う。


 ……だが緊張は全くしない。なぜならこの程度の事で緊張にはなれているからだ。

 俺は現代の世に生き、人に仇名す魔を打ち払う陰陽師だからだ。


 俺は右足を振り上げて全力でボールを蹴る。

 足と顔の方向からシュートの位置を逆算したのだろう。相手チームのゴールキーパーは左に飛び込んだ。

 しかし、俺は靴の外側……小指側で弾く様に蹴る事で右足で蹴り出しても左にボールは飛んでいく――――。


 千年前の平安時代でもサッカーに似たような遊びである。

 蹴鞠と呼ばれるサッカーの半分程度の人数で遊ぶものがあった。だから俺にとってはこの時代の中では、比較的馴染みのある数少ないスポーツの一つであり、だからこそボールのコントロール技術は高く地方大会程度であれば十分に活躍できる。


 ボールはゴールの右側へ大きな弧を描くようにして吸い込まれていく。

刹那。

 ホイッスルが数回吹かれ試合終了の合図となる。結果は1対5点と言う圧倒的な点差をつけての勝利であり、我が峯ヶ原高校サッカー部は次の試合へ駒を進める事となった。


「「「ありがとうございました。」」」


 選手や監督を含めた一同総勢40名ほどのメンバーが、一斉に礼をしお互いの健闘をたたえ合う。


土御門つちみかどお前スゲーストライカーだな。どこのクラブに入ってるんだ?」


 敵チームの10番フォワードの多田野が声をかけて来た。


「クラブは小学生の頃に入っていたよ。今はこうして部活ぐらいでしかサッカーしないけどね……」


「もったいねぇ! それだけ上手ければユースとか余裕だろ?」


 と声を張り上げる。


「実家の手伝いがあってね。どうしてもそこのまでは入れ込めないんだ」


 何を勘違いしたのか。


「お前大変なんだな……」


 と言って俺の肩をポンと叩く。


 実家の稼業である陰陽師の手伝いと言った所で、この科学全盛の時代では信じては貰えないだろうけど……

 そんなことを考えていると、キャプテンでフォワードの大坊だいぼう先輩が声をかけてくれた。


「そうだぞ! お前趣味で弓道部にまで顔を出しやがるから、練習にあまり顔を出さないクセに、ウチのエースと言う非常に使いづらい選手なんだ。それに長期休暇には必ず実家へ戻る」


「しょうがないじゃないですか! 家みたいな古い家柄だと繋がりが深いから断り辛いんですよ……」


 俺は申し訳なさから目線を反らしてしまう。


「土御門ってもしかして……」


「そう。何を隠そうあの漫画やアニメでおなじみの土御門家の分家なんだぞコイツは」


 そう。この令和の時代では陰陽師とは……漫画やアニメ、ゲームと言った創作物にのみ登場する架空の存在と認識されている。簡単に言えばフィクションとしか思われていないのだ。

 周囲にいた相手チームの選手がおちゃらけた様子で茶化すようにこういった。


「へーじゃぁ何か術とか使えるの? 今流行の術式順、術式反転とかそういうのやっての?」


 そう言って印を結ぶ仕草をして、流行の漫画のマネをする。

 普段はその軽薄そうな雰囲気を持ち味にした。ムードメーカーであったのだろう……しかし結んだ印が偶然意味を持った印になりかかっていたので、少し強引に止める。


「な、なにすんだよ!」


「印って言うのは呪文と同じで祈りの言葉であり、しゅ……呪術を起こすものだ。呪は読み替えれば呪いだ。しむやみに素人が手を出していい領分じゃないよ。仮に。仮にだよ? もし呪術が本当にあったとしてそれがもし、偶然素人の君が発動させてしまったとしてそれが自分に帰ってきたら……」


 脅すような俺の口調のせいか真昼間の周囲に異様な雰囲気が漂う。

そしてムードメーカーの子は、ゴクリと生唾を飲み込んだ。


「ど、どうなるって言うんだよ」


動揺しているのだろう。声が上ずっている。


「運が悪ければ死ぬよ」


 俺はきっぱりと答える。


「馬鹿にしてるか?」


 と周囲の選手が口にする。

 言ってもダメな馬鹿は経験しない限り、その行動を改めることは無い。


「馬鹿にはしてないよ。良ければ受け取ってよウチの神社。清明神社のお守り」


 俺は押し付けるように数人に渡す。


「な、なんだよコレ」


「表面の飾り結びされれた紐の分だけ、悪霊の類から守ってくれるもし二つ切れたらお守りを開いて、中の名刺に書いてある所に出来るだけ早く連絡して、そうしたら間に合うかもしれないから」


「ば、馬鹿にしてるのか?」


「そんな事ないって、これは俺からのほんの気持ちだけだから」


 そう言って俺はお守りを押し付けると、先輩方と監督に挨拶をしてその足で除霊のバイトへ出かけた。




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『あとがき』


 読んでいただきありがとうございます。

 本日から中編七作を連載開始しております。

 その中から一番評価された作品を連載しようと思っているのでよろしくお願いします。

【中編リンク】https://kakuyomu.jp/users/a2kimasa/collections/16818093076070917291


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