第3話 駒は成る
「これだけの瘴気を伴う鬼気を放つ存在が
すると主である将門公の邪悪な霊力――鬼気を感知して歓喜の
先ほどまでとは違い死をも恐れぬ、死兵と化した雑魚鬼達が将である。悪赤丸を縛る羂索に指を掛け、牙を立てたりして羂索を斬ろうとしている。
いくら邪悪を打ち滅ぼす不動明王の拘束具とはいえども、数が多すぎて引きちぎられそうになっている。
「行け!
俺はバッタの式神を放つ。
バッタとは言っても一匹や二匹ではなく数百、数千の大軍が悪鬼を襲う。
――――とは言え現状ではただの目くらましや、一瞬の拘束にしか使えない。俺の手持ちの中でも最弱の式神だ。
「何だこれは!」
「羽虫風情がぁ!」
そんな言葉を吐き捨てながら、棍棒や手に持った松明を使って、
何体も潰され、焼かれてはいるものの大した攻撃力の無いバッタのため。数は次第に減っていく……かに思われた。
「先ほどの犬に比べればなんてことは無い! 使えるものは
指揮官らしき鬼が指示を飛ばす。
厄介だな。
俺は背中に背負った弓と矢を取り出す。
武士が使う本格的な武器ではなく。神道や仏教で使われる邪悪を打ち払う矢。
破魔弓に破魔矢を
破魔弓や破魔矢と呼ばれる祭具は、
俺は静かに祈るように言葉を口にする。
「南無八幡大菩薩」
番えた矢を放し敵を射る。
ヒューっと甲高い鏑矢のような風切り音を立て破魔矢が飛来し鬼を射貫いた。
笛の音のような風切り音を合図にしてバッタ共が勢いよく鬼どもを襲う。
「赤銅の兄貴が死んだぁ~~」
「おい! 今は兄貴より大将だ!」
――――と冷静な鬼もいるがもう関係ない。
時は既に満ちてしまった。
「クソ! こいつ等俺達を食ってやがる!」
「なんだこいつ等」
などと言って喚いている。
このバッタは霊力を食らい。成長し数を増やす。
自然界のバッタは時折り群れをなして、作物を食い荒らし人に害を成す災いと化す。その負の面を現したモノを封印し式神として、使役しているのがこの
爆発的に増殖し霊力を食らうようになった状態を俺は、"成る"と呼んでおりその状態の
次第に羽虫が集結し、次第に六尺(180㎝)ほどのヒト型の異形へと姿を変えていく、黒っぽい体色で手足にはギザギザとした外骨格に覆われ、腰からもう一対の脚が生えている。
顔のほとんどが大きな瞳と鋭い口で占領されており、額からは短い触覚が生えている。
「---- ・・ -・・・- ・- --- ・- ・---」
「では、そこに居る雑兵どもを任せた。喰っていいぞ」
「-・-・・ ・・ ・- 」
たかがバッタと思う事なかれ、続日本紀の大宝元年には三河を含む17ヶ国や天平21年(741年)、天平勝宝元年(749年)の下総、弘仁3年(812年)の薩摩を始めとした地域には蝗害による記録が確認されており、古代中国では騎馬遊牧民族と蝗害対策こそが、皇帝の仕事と言う官僚も居たと言われるほどの大災害である。
それを模した式が本来弱いハズがないのである。
さて、そろそろ隠形の術で隠れている鬼共が、奇襲を仕掛けてくる頃合いか。
そんなことを考えていると。
「我ら平氏の無念! ここで晴らさせて貰うぞ! 陰陽師!」
そう言って土気色の鬼が、棍棒を振り被って薙ぐ様に振り込んで来る。
「ノウマク・サンマンダ・バザラダン・カン」
真言が唱えられると、土気色の鬼に向かって激しい炎を伴った火球が生じ鬼を焼き尽くしていく。
「明王めぇぇ!」
その言葉を最後にして鬼が焼け死ぬ。
大日如来の化身ともされる五大明王の一角である。不動明王の真言のうち
しかし俺の
斬り込み隊長と思わしき土気色の鬼が、不動明王
それを見逃すほど俺は優しくない。
「縛れ!! 救急如律令」
数枚呪符を投げて呪力を木気に変化して、地面からツタを生成し敗走する鬼共の手足を縛る。
もう一枚呪符を取り出して火気を生じさせる祝詞を唱える。
「木気を魔なる者を焼き払う火気に変え給へ 五行相生、木生火!」
うねりを伴った炎が生じ、木気によって生じたツタに引火することで、火気より生じた炎が業火となって百鬼を焼き払う。
都の道の一角がメラメラと燃え盛る炎によって明るく照らされる。
それの光景を見て悪赤丸が高笑いをする。
「見よ! 陰陽師 安部春秋よ。帝がおわす都が燃えている。これぞ我ら平氏と朝廷との戦の開戦の
そう言うと高笑いを続ける。
その様子をみて一抹の不安を感じるものの何か有効な一手を打てる訳でもない。
「死人に! 悪霊にこの国を導ける者か!」
救援はまだかと焦りを感じて月夜を見る。
すると月を背にして一体の竜と四足獣が空を駆けて寄って来る。
竜の鱗は金色の様に輝き上質な陽の気を振りまいている。
「あの竜はもしや!」
こちらの様子を伺うように宙を泳ぎ円を描くように一周し、馬も空を駆けて段々と下って来る。
竜の背を見ると安部家の
「「「「水を都を焼かんとする業火を鎮め給へ 水剋火! 急急如律令」」」
竜や白馬に騎乗した門下や一族の術者が俺が起こしてしまった。ボヤ騒ぎを収拾するため水気で炎を鎮火させる。
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