第9話 同じ日
これは怖いというより、不気味や不思議と言った方がいいかもしれない話。
よく漫画やアニメで、ループものってあるよね。
同じ日を繰り返すってやつ。
それが1年に1回くらい、1日だけ起こるの。
1日だけ、1回繰り返すんだよね。
最初に繰り返したことに気づいたのは小学校3年生のとき。
金曜日が終わって、明日から休みだーってウキウキしながら寝たんだよね。
明日は何しようかなって。
で、次の日、いきなりお母さんに起こされた。
私は休みの日くらいゆっくり寝かせてよって言ったんだけど、「何言ってるの。まだ金曜日でしょ」って言われた。
始めは何言ってんだろうって思ったんだけど、テレビを見たら、マジで金曜日だった。
それで学校に行ってみたら、やっぱりみんな登校したんだ。
授業も昨日と同じ内容。
授業を2回受けるなんて、最悪って思った。
その日、寝たらちゃんと土曜日になってたから、私はきっと予知夢でも見たんだと思って無理やり納得することにした。
それが1回だけなら、予知夢でよかったんだけど、その年から毎年1回は繰り返しが起こるようになった。
もしかしたら、もっと前から起こってたのかもしれない。
気付かなかっただけで。
繰り返す日は完全にランダム。
前触れとかもないから、準備も出来ない。
厄介なのが、感覚がズレること。
私の中で1週間が1日多くなるわけだから、曜日感覚がズレるんだよね。
あとは話した内容。
友達と話した内容が、繰り返す前なのか繰り返した後なのかで整理するのが、若干面倒くさい。
まあ、ちょっとイラっとするくらいで、そこまで重大なことじゃないんだけど。
学生の頃は休みの日に繰り返しがあったらラッキーくらいに考えていた。
だけど、就職してからは本当に厄介だと気付いた。
まず、その日やったはずの仕事や会議の内容はリセットされる。
もう一回やらないとならない。
1回やった仕事だから、前の日よりは早くできるんだけど、私の中ではもう1回やり直している感覚だから、ストレスが溜まる。
それよりも会議の方が厄介だ。
同じように話を進めても、全く違う結果に終わることもある。
私は同じ発言しかしなくてもね。
それで考えたのは、この繰り返しで何かお金儲けができないか、だ。
この繰り返しが本当に腹が立つのは、繰り返しが起こるのはランダムだということ。
前もってわかっていれば、色々と準備ができるのにさ。
念のため、毎日競馬とかサッカーとかの結果は見るようにした。
賭け事なら上手くいけばかなり儲けられると思って。
で、ついに繰り返しが来た。
もちろん、結果も覚えている。
私は初めて馬券とtotoのクジを買った。
お小遣いを全部突っ込んだんだ。
だけど、結果は惨敗。
勝負は時の運とはよく言ったものだよ。
会議のときと一緒で、私が絡んでいなくても、結果は変わってしまう。
ホント使えないよね。
唯一、儲けたことがあったのは、散財したときかな。
その日は何となくむしゃくしゃして、貯金の3分の1を降ろして、めちゃくちゃ遊んだんだ。
で、その後、繰り返しが起こったの。
そしたら、降ろして使ったお金が元に戻ってたんだよね
ホント、あれはラッキーだった。
だけど、それをもう1回狙うつもりはない。
だって、いつ繰り返しが起こるかわからないから。
繰り返しが起こることを予想して散在するなんて、競馬よりも確率は低い。
だけど、私がこの繰り返しで一番印象に残っていることは別にある。
うちの近所に、80歳くらいのおばあちゃんがいた。
人懐っこくて、周りからも割と人気だった。
私も、いつも会った時は挨拶をしていた。
世間話もしたことあるし、おやつをもらったこともある。
あるときの繰り返しの日。
私はその日、すごく機嫌が悪かった。
必死になって終わらせた仕事がリセットされたから。
だから、出勤するときにおばあちゃんにされた挨拶を無視してしまった。
昨日は……繰り返す前はちゃんと挨拶を返したのに。
無視して歩いていたら、後ろからバタンと何かが倒れる音がした。
振り返るとおばあちゃんが倒れていた。
私はあわてておばあちゃんに駆け寄った。
おばあちゃんは胸を押さえながら、鬼のような形相で私のことを睨んでいた。
15分後。
救急車が到着したが、結局、おばあちゃんは亡くなってしまった。
原因は心筋梗塞だったらしい。
昨日は……繰り返す前の日は、おばあちゃんが死ぬなんてことはなかった。
繰り返す前と後で違うのは、私が挨拶をしたかしなかったか。
おばあちゃんは私のせいで死んだんだろうか。
今でもおばあちゃんの鬼のような形相が脳裏に焼き付いている。
私以外にも繰り返しがある人はいるんだろうか?
まあ、いたところでどうってことはなんだけどね。
終わり。
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