第3話 寝言

私は必ず夫が寝る前に寝ることにしている。


そうするようになってから、もう5年くらい続いているだろうか。


夫が眠そうにしていて、私が全然眠気がないときは睡眠薬を使う時もある。


 


別に夫婦の仲が悪いとか、そういうんじゃない。


逆に仲がいい方だと思う。


 


きっかけはある日の、夫の寝言だった。


 


大体は夫の方が夜更かしなのだが、その日、夫は残業が続いていたせいか疲れたと言って早く寝てしまった。


そして、私はネットサーフィンをしていて、寝るのが遅くなっていた。


 


ちなみに寝室にパソコンがあり、お互い、先に寝る方はアイマスクをするというのが習慣だ。


 


あれは深夜の1時過ぎだっただろうか。


不意に夫が寝言で名前を言った。


女の人の名前だった。しかもフルネーム。


 


そのときは、「ええ! まさか浮気してる?」なんて頭を過ったけど、すぐに違うことに気づいた。


 


なぜなら名前が次々に出てきたからだ。


男と女の名前を次々と寝言で言い出す夫。


それには法則性みたいなのはなさそうで、単に、淡々と名前を言うだけだった。


 


変わった夢を見てるんだな。


そのときは軽く考えていた。


 


それから2ヶ月が過ぎた頃だろうか。


また夫が寝言で羅列し始めた。


 


そのときも変な夢を見てるんだなと思って気にしなかった。


ただ、次の日に夫にどんな夢だったかを聞いたが、全く覚えてないそうだ。


 


そんなことが何回か続いた。


寝言で名前を羅列するのは毎日ではなく、本当に稀で1ヶ月に1回くらいだろうか。


ただ、私の方が先に寝ることが多いので、寝言を言うのはもっと頻繁なのかもしれないけど。


 


ある日の夜だった。


 


夫が寝言で名前を羅列し始めて、私は「ああ、またか」と聞き流していたら、いきなり知り合いの名前が出て来た。


 


ドキッとした。


だって、その人は私のパート先の同僚で、夫にはその人の名前さえ言ってなかったからだ。


つまり、夫はその人の名前を知る術はないはず。


 


「偶然?」


「同姓同名?」


 


そのときは、少しびっくりした程度で、あんまり重くは考えてなかった。


 


だけど次の日。


その同僚が出勤途中に事故で亡くなったとパート先の主任から報告があった。


 


「……まさか」


 


直感的にあることが頭を過って、色々調べてみた。


するとあることがわかった。


 


夫の寝言に出てくる名前は、明日死ぬ人の名前だったのだ。


 


昔、そういう都市伝説があったことを思い出した。


深夜のテレビで明日死ぬ予定の人たちです、って感じで放送が流れるやつ。


あれと同じだと思う。


都市伝説はテレビだけど、それが夫の寝言になったって感じだ。


 


ゾッとした。


夫に探りを入れたけど、別に霊感があったり、変な体験とかしたりしたことはないそうだ。


逆に人よりもそういうのは鈍いんじゃないかと笑ってたくらいだ。


 


結局、夫がなぜ寝言で次の日に死ぬ人の名前を言うのか、そして、言い始める法則性も突き止めることはできなかった。


 


寝言は夫が寝てから3時間が過ぎてから言うこともあるし、10分くらいで言い始めることもあった。


 


それがわかってからは、私は絶対に夫よりも前に寝るようにした。


 


だって、もし、夫の寝言で肉親や自分の名前が出てきたらと思うと、気が狂ってしまいそうだからだ。


 


夫と離婚することは考えていない。


だって、愛してるから。


 


だけど、この習慣はこの先もずっと続いていくだろう。


 


夫か私の、どちらかが死ぬまで。


 


終わり。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る