白鳥さんの不安

1話

勘違いというのは恐ろしいもので、その所為で人を殺してしまうこともあると聞く。勘違いから始まって、勝手な思い込みをし、そして思いはすれ違い、離れていく。  今回、私がするのは、そんな勘違いの話なのだ。

 とはいっても、殺人なんて起きなくて、いつも通りのゆるい話が展開されるだけだけれど。お菓子を食べながらでも、ゆったりと聞いてほしい。



 春休み四日目のこと。

 私は友人の住吉双葉と近所の大型ショッピングセンターに買い物に来ていた。レストランで食事をしたり、愚痴ったり、服を買ったり愚痴ったり、プリクラを撮ったり愚痴ったり。

 愚痴っているのは主に双葉で、私はそれを聞いてたまに相槌を打つだけだ。以下、その愚痴内容より抜粋。

「ホント、浮気する男ってサイテー!」

「しかも三股だよ、三股。信じらんないっ」

「あのチャラ男、許すまじ」

「でも、私から振って正解だったなー」

「あ、でも一発、ううん、五十発くらい殴っておけば良かったかも」

 お分かり頂けただろうか。補足説明をすると、双葉はバレンタインデーの時に告白して付き合うことになったサッカー部の近藤君の浮気(しかも三股)を知り、つい先日、彼を振ったばかりなのである。

 それで今日、私は双葉の憂さ晴らしに付き合っている。



「今日はありがとー、美和ちゃん」

「こちらこそ」

「明日は十時に映画館前だったよね? その後はー、カラオケ行ってお茶してー。なんかデートみたいだよね。ホント、あのチャラ男より美和ちゃんとデートする方が千倍楽しいよ!」

 女子同士だけれども。そして、カラオケは先日の女子会で行ったばかりだけれども。まあいいか、双葉が楽しんでくれるなら。

「それはどうも。……では、今日はこの辺で」

「うん、バイバーイ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る