3話

「キャラはこのくらいにして、次は萌えシチュエーションやな。君ら青春のど真ん中におるし、エピソードは豊富やろ」

「青春のど真ん中ってのは違う気がするけどな。おれ等もうすぐ高三だし」

 青春を謳歌するヒマがあるのって、せいぜい高二までな気がするけど。高三は受験でそれどころじゃないだろ。

「そんな心配せんでもええって。受かるって、大学」

「何で、お前そんなに気楽なんだよ」

 数学1なのに。一番、危機感を持つべきだと思うが。

「だって、わいが受けたいとこ、試験に数学ないもん」

「なら大丈夫か」

 もう受かったも同然じゃん。

「で、どうするの? ストーリー的なことを考えるんでしょ。最初に言っておくけど、僕にそういうエピソードはないからね。告白は沢山されたけど、全部断ってるし。中学生活の半分が引き篭もりだった僕に期待しないでおくれよ」

「お前さ、わざと暗い方に話を持って行こうとしてないか?」

 逸れた話を戻してくれてはいるのだけれど。

「僕は事実を言ってるだけなんだけどねえ」

 その事実が暗過ぎるんだろ。

「烏丸はいいよ、話さなくて。……あっ、そうだ。白鳥、あの話してやれよ。お前の中学時代の話。心霊研究会だっけか。あれも一応、青春だろ」

 確か、烏丸には話したことないはずだ。

「別に良いけれど。でも詳しく話すと膨大な文字数を費やすことになってしまうわよ。ざっと5万字くらいは必要かしらね」

「いや、詳しく話さなくていいから」

「あら、そう。では超簡潔に言うと、全校を巻き込んだテレパシー実験をしたわね。放送室を占拠したりして楽しかったわ。後は、夜の学校に忍び込んで七不思議の調査をしたこともあったわね。そうそう、グラウンドにミステリーサークルもどきを描いたこともあるわよ」

 懐かしそうに話す白鳥。実際に楽しそうだし、おれも白鳥と中学が同じだったら、混ぜてもらいたかったよ。

「へえ、すごいね。先生とかに怒られなかったの?」

「怒られない訳がないじゃないの。月に一回くらいのペースで何かやらかしてたから、その度にめちゃくちゃ怒られたわよ。……三人で活動していたのだけれどね、先輩が相当な変人で、私ももう一人も色々と振り回されて。反省してない反省文を何枚も量産して。でも、楽しかったわよ。青春していた、とでも言えるでしょうね」

 でも、と白鳥は続ける。

「これは参考にはならないわね。恋愛エピソードなんてなかったし。彼ら、私以外は男子二人だったのだけど、ただキャラが濃いだけで、恋しようと思えるような人達ではなかったわ」

 確かに、心霊研究会の面白エピソードに乙女ゲーム要素はないなと思う。

「あ、一方はそんなに濃いキャラでもなかったわ。高村君よりは個性があったけれど」

「おい、おれが無個性みたいに言うのはやめろ。悲しくなるわ」

「じゃあ、中学時代に印象に残ったエピソードは?」

「………………」

 考え込んでしまった。何かあったっけ?

「あっ、修学旅行とか」

「在り来たりね。そこで何か?」

「東京に行ったんだよな、ディズニーとかさ」

「そこ、千葉県よ」

「ミッキーの耳とか付けたぜ、おれ」

「ふうん。あまり興味無いわ」

「写真あるけど? 家に」

「見たくないけれど」

 こういう言い合いで、白鳥に勝った試しがないんだよな。毎回、撃沈。

「高校なら、けっこうあるのにな……」

 白鳥の下僕になったこととか、印象に残りまくってるんだけど。ていうか、忘れられないだろ。後は、白鳥と旅行に行ったこととか、白鳥の誕生日パーティしたとか、つい最近は白鳥とカラオケにも行ったしな。

 あれ、白鳥ばっかだな。もしかして、おれの人生って白鳥がいないと灰色なのかな。

「白鳥、何かありがとな」

「な、いきなり何を言い出すのよ。気持ち悪い」

 お礼を言ったら、気持ち悪がられた(悲)。

「そうだよ、気持ち悪いよ、高村君。あまり白鳥さんに近付かないでくれる?」

 けっこうマジなトーンで言う烏丸。怖いって。

「ゴ、ゴメン。……それで、薫はどうなんだよ? ゲーム作るのはお前なんだから、人の意見聞いてるだけじゃダメだろ」

 役に立ったかどうかは別にして。

「わいが通ってるとこは男子校やで。そんなエピソードがある訳ないやろ」

「そっか。なら仕方ないな」

「あー、でも……。ちょっとアレな感じの……」

「いいから、その先は言わなくていいから」

 不安になるようなことは聞かないぞ。

「まあ結局、私達は恋愛的な話とは縁がないということね。薫のゲームのアイディアは妄想の中から出していくしかないわ」

「何だよ、その残念な結末」

 

 その後の妄想の話は、本当にもう語るのも恥ずかしい内容だったのでカット。



 後日談。

 その後、薫とネット仲間はゲーム作りを本格的に始めたそうだ。ちなみに、ゲームのキャッチコピーは「若社長に貢ぎたくなる恋愛ゲーム」らしい。変な所がちゃっかり採用されちゃって困る。

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