2話

「やっぱキャラは大事やな、乙女ゲームやし。どういうのがええと思う?」

「おれに聞かれてもなあ……。白鳥は?」

「クーデレよ、クーデレ。ツンデレでもヤンデレでもなく、クーデレよっ! 普段はクールだけど、たま~に見せるデレが堪らなく可愛いというか、ギャップ萌えというか……。立ち位置的には、ツッコミではなくボケね。真面目に言ってるんだけど、それが面白いという感じの。銀髪だと、より私好みよ」

 熱く語られた。ああ、お前は今そういうキャラにハマってるのか。

「銀髪か……。染めよっかな」

 烏丸が髪をいじりながら呟く。

「やめとけ。校則違反だぞ」

 風紀委員っぽく注意してみる。……そういえば、最近風紀委員とかってあまり聞かないな。うちの学校にもないし。どこ行ったんだろ、風紀委員。

「生活委員とかと統合されたんちゃうん?」

「あっ、そっか」

「そのクーデレ男子が図書委員で、眼鏡をたまに掛けてたりすると萌えるわ」

 妄想が具体的過ぎだぞ、白鳥。

「何で、僕は生徒会長で視力が一・五もあるんだろう」

 烏丸が悩ましげに言うが、自慢にしか聞こえない。

「そっちの方がいいだろうが。それに、元生徒会長だろ」

 昨日の終業式で任期満了だったんだから。

 烏丸は次の生徒会選挙には出馬しなかった。「勉強に集中したいから」という理由らしいが、そもそも「勉強なんてしてないよ、しなくても出来るし」と言っていた烏丸が今更勉強をするのだろうか。いや、するか。受験生だし。大学受験だし。

「僕ってクーデレに見える?」

「見える訳ねえだろ。本当のクーデレは自分から『僕ってクーデレに見えるぅ?』なんて聞かねえんだよ、多分」

 おれもあまりよく知らないんだけど。でも烏丸はクーデレじゃないな。つまり白鳥の好みからは外れてる。

「ていうか、お前は多分ヤンデレだよ、烏丸」

 ついに言った、言ってしまったって感じだけど。

「ああ、そう。まあ僕は病んでるけど」

 相当病んでるけど、と続ける烏丸。

「まあまあ、とりあえず美和子好みのクーデレ男子ってこんな感じやろ」

 薫が一瞬暗くなりかけた空気を払拭する。

「何それ?」

 おれは薫の手元にある一枚の紙に目を落とす。白い紙にアニメキャラみたいな絵が描いてあった。

「うわっ! 絵うまっ!」

「うんうん、そんな感じよっ」

 白鳥がグッジョブという感じで親指を突き出す。うん、何かすごく嬉しそう。

「お前、いつの間に描いたんだよ」

「ついさっき。ささっと、な」

「逢坂君にこんな才能があったなんてねえ」

 烏丸が感心しつつも、白鳥好みのクーデレイケメン君を恨めしげに見ている。やっぱり、こいつはヤンデレだよ。絵に嫉妬すんなって。

「他にも何かキャラ案ない?」

「烏丸をモデルにするのはどうよ。実際にこいつはモテてるんだしな」

「え、僕? 僕なんて性格悪いし、精神が病んでるし、おまけに猫被りだよ。まあ顔と成績と運動神経はいいけどさあ」

「自慢なんだか自虐なんだか……」

 顔と成績と運動神経が良けりゃ、モテるんだよな。たとえ性格がアレでも。クソイケメン、マジ爆発しろ。

「その恒例の僻みが、高村君のモテない原因の一つだと思うわよ」

「うるせー。お前や烏丸みたいなモテモテの奴らに、おれの気持ちなんて分かるかよ」

「僕に分かる訳ないでしょ、君の気持ちなんてさ」

 うわ、また話が暗い方向に。

「全く進みが遅いわね。もっとテンポ良く出来ないのかしら」

 おれのダラダラ語りに対する非難にも聞こえるが、そのおかげで話の流れは戻る。

「では、こんなキャラはどうかしら。……可愛い外見だけど趣味は熊狩り、飄々として掴み所がないけれど、実は暗い過去があるキャラとか。……女装癖のある教師とか。……主にツッコミ担当だけど、『世の中金だよ、金』という考えの若社長とか」

「何で、そんなに具体的なんだよ。しかもロクなキャラがいねえ」

 どれもツッコミ所満載じゃねえか。こんな奴らと恋なんかしたくないぞ。

「でも、顔がそれなりに良いからモテる」

「やっぱりか。結局、顔なのかよ」

「大丈夫やって。将来結婚して上手く行くのは、顔が良い人よりも性格が良い人やから」

 また腐りかけたおれに、薫からの救いの言葉が。

「だよなー。やっぱ性格だよなー」

「そんなことは、どうでもいいのだけれど。……それで、私の案はどうなったのよ、薫」

 どうでもよくない。けっこう大事なことだぜ、それは。

「う~ん。ちいとキャラが濃過ぎるなぁ」

「でも彼らから色々取ってしまうと、もうボケとツッコミと女装癖くらいしか残らなくなるわ」

「女装癖は残しとくのかよ」

「別にええんちゃう。それくらいで」

「そんな適当でいいのか……」

 この従兄妹コンビの会話は先が読めないな。この二人は、おれの知らないことを知っているような気がする。

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