7話

そして、バレンタイン当日。

 この日は、朝から様々な所でチョコの匂いがした。朝一番に好きな人にチョコを渡して告白する者もいれば、昼休みに友チョコの交換をしている者達もいた。

 私達の勝負は放課後だ。放課後に高村君を体育館裏に呼び出して告白、という手筈になっている。

「来ないじゃない、あの馬鹿。何分待たせるのよ」

 と、悪態を吐きながら、私は木陰に身を潜めて双葉を見守っていた。双葉は私から少し離れた所に立っている。

「全く、寒空の下で待つ私達の身にもなりなさいよ」

 もういっそ、私が直で呼びに行こうかしらと思ったその時……。

「ゴメン、待った?」

 と言って、漸く現れたのは高村君、ではなかった。

「もう遅いよー、待ちくたびれたんだからー」

「本当にゴメン。さっきまで、後輩の女の子に告白されててさ、断ったけど」

 この少し軽そうな男子生徒は、サッカー部所属で女子にもそこそこモテる、隣のクラスの近藤君。

 何で、近藤君が? 一体どうなっているの?

「そうなんだ。でも断ったなら、良かったよ。……あのね、単刀直入に言うけど。……私、近藤君のことが好きなのっ! サッカーしてる姿とか、前々からカッコいいなって思ってて。……それで、だから、私と付き合って下さいっ!」

 告白したっ⁉

「あ、うん、いいよ。オレも住吉のこと、可愛いなってけっこう前から思ってた」

 OKしたっ⁉ しかも、軽いっ‼

 これにて、双葉のバレンタイン告白作戦は成功しましたとさ、めでたしめでたし……じゃなくて、そんなことじゃなくて、高村君はどうなったんだという話だ。

「ちょっと、これはどういうことなの?」

 近藤君がサッカー部に戻るとすぐに、私は双葉に詰め寄った。

「ああ、ごめんね、びっくりしたよね? ……私が本当に好きなのは近藤君。高村君のことは何とも思ってないんだよ、実は」

「それは、途中で心変わりしたということ?」

 双葉の恋愛では、よくあるパターンだった。

「ううん、違うよ。最初から、高村君に恋愛感情なんてなかったよ。……美和ちゃんに嘘を吐いていたんだよ、私は。高村君が好きっていう演技をしてただけなんだ」

「な、何故そんなことをしたの?」

 演劇部部長の双葉には「演じる」ということは、専門分野だけれども。今、そんなことをする必要が何処にあるのだろうか。全くもって、訳が分からない。

「だって、こうでもしないと気付かないと思ってさ。美和ちゃんの、高村君への本当の気持ちに」

「本当の気持ち?」

「もう、自分のことには鈍感だなあ。だから、美和ちゃんが高村君のことを好……」

「いやいやいやいや、そんなことはないわよ」

 双葉の言葉のその先を全力で遮った。

「そんなこともあるよ!」

「ないから、絶対に!」

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