6話

「やあ、白鳥さん。明日はついにバレンタインデーだね」

 と、唐突に烏丸君が話し掛けてきた。

「えっ、あっ、そうね。明日はバレンタインデーね。……あら、やけに嬉しそうね」

 高村君が言う所の「烏丸スマイル」がキラキラ度を増している。マクドナルドでスマイル百円として売ってもいいくらいだ。でも、作り笑いなのだろうけれど。

「あ、分かる? 実はね、嬉しいことに気付いちゃったんだよ」

「何?」

 いつもより馴れ馴れしい烏丸君に、若干の鬱陶しさを感じつつ、聞く。

「最近さ、高村君が白鳥さんの周りをうろつかなくなったんだよね。で、高村君に聞いてみた所『もう来なくていい』って言われたらしいんだよ。これはつまり、白鳥さんの方から、高村君を遠ざけているってことだよね。そして、高村君は心変わりが早いのか、白鳥さんのお友達の住吉さんと急に仲良くなり始めた……」

「よく見ているわね」

 人の気持ちが分からないと言っていた割には、烏丸君は人をよく観察している。いや、分からないから観察しているのかもしれない。

「まあね。……で、また住吉さんの恋愛の手伝いをしているんだろう? 住吉さんも意外と趣味が悪いね、高村君を好きになるなんて。でもまあ、それを機に白鳥さんと高村君が離れてくれるのは、僕としては嬉しいことなんだけどさ。住吉さんに感謝しないと、高村君なんかを好きになってくれて有難う、ってね」

 今日の烏丸君は、よく喋る。高村君のことはどう言おうと構いはしないけれど、双葉の好みをどうこう言われるのは癪に障る。

「ちょっと、あなたね……」

「それにさあ、白鳥さん」

 文句を言おうとした所で、烏丸君に遮られた。

「君から、最近いつもとは違う、何か甘い匂いがするんだよね。チョコレートみたいな感じの……」

 ……………………。

 普通に引いた、ドン引き。私の匂いが分かる? というか、それは怖い。怖過ぎる。

「じゃっ、明日、楽しみにしてるね」

 何を勘違いしたのだろうか、更に嬉しそうにして去っていく烏丸君。

 頭痛の種が、もう一つ増えた。



 その日の夜。つまりバレンタインデー前夜。

 運命の日を明日に控えた、というのは大袈裟過ぎるか、告白をするのは双葉であり、私はただ義理チョコをあげるだけなのだから。

 でもこれは一応、本番である。いつもより気合をいれるつもりでチョコクッキーを作る。

 完成。え、作る過程の描写? そんなものは省略よ、「巻き」の指示が来たのだから仕方なく、ね。

 では、味見をしましょう。

「……うん、悪くはないわね」

 悪くはないが、良くもない。

「まあ、いいか。どうせ高村君のだから」

 まあ、烏丸君にもあげるのだけれど。というか、あげないといけない様な気がする。

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