高村君の憂鬱

1話

月の綺麗な晩だった。

「…………はぁ」

 ベランダの手すりに頬杖をつき、おれは深い溜め息を漏らした。

「何で、こうなっちゃうのかな~」

 憂鬱だ、ああ憂鬱だ、憂鬱だ。

 こんなバカらしい川柳もどきを詠んでも仕方がないことは分かっている。そもそも、おれの悩みの原因というのは……

「やあ、高村君。こんな夜遅くに何してるの? あ、もしかすると、柄にもなく物思いに耽ってるとか?」

 こいつである。

 道路を挟んだ向かい側のマンションに、こいつ烏丸凛は住んでいる。おれの家が二階の一戸建て、烏丸の家がマンションの五階にあるので、必然的に烏丸を見上げる形になる。

 こうして見上げてみると、月の輝きも相まって烏丸のイケメン度が増している。月下美人ってこういう時に使うんだなと納得させられてしまう。……ていうか、おれが見上げてるってことは、あっちがおれを見下してるってことになるんじゃないか? 多分、あいつの性格的に絶対おれを見下してる。顔良し、頭良し、性格悪しの烏丸凛だもんな。学校じゃ猫被って性格良しに見せてるけども。いっそバラしてやろうかと思ったこともあるが、それをすると白鳥に白い目で見られる。ったく、何で白鳥は烏丸に甘いんだ。まあ烏丸の事情を知れば分からなくもないのだけど、やっぱあいつも面食いってことだよな。くそっ、イケメンマジ爆発しろ。

 ……とか、ひがみったらしいことを数秒の内に考え、やはり一つの結論に辿り着いた。

「これも全部、お前のせいだーーっ‼」

 思いっきり叫んだ。時は夜の十時過ぎ。ただの近所迷惑だった。


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