第5話
次の日の朝。
おれ達は朝食を食べるとすぐに、タイムカプセルを埋めに行った。逢坂家所有の山の、ある紅葉の木の根元に十年前のそれは埋まっているそうだ。
おれと薫はスコップを使って、木の根元を掘り返した。
ほんの少し掘った所でコツンと何かに当たる。
「あ、出て来たみたいやな」
薫が土の中からそれを取り出す。お菓子を入れるような銀色の缶であった。土を軽く払うと、下手クソな字で「タイムカプセル」と書いてあるのが分かる。
「薫、中を開けて頂戴」
「じゃ、開けるで~」
開けられた缶の中身は、意外な程すっきりしていた。
「えっ、これだけ?」
中に入っていたのは手紙が二通のみ。七歳なのだから、もっとごちゃごちゃ入れているかと思ったのだが。
「何、期待外れみたいな顔をしているのよ。やたらめったら何か入れる程、あの頃の私は馬鹿ではないわ、高村君とは違ってね」
七歳の白鳥(と薫)は意外とクールな小学生だった。
「ほら、十年前の美和子から手紙やで」
薫が白鳥に可愛らしいピンクの封筒を渡す。白鳥は封を開け、ザッと中の手紙に目を通すとまた封筒に戻した。
「何て書いてあったんだい?」
「……本当に他愛も無いことしか書いてなかったわ。あの頃の私は、ただ何も考えず幸せに生きていたのね」
「わいかて同じ様なもんや。ホンマどうでもええことしか書いてあらへん。給食のプリンが最高や、とかお気楽過ぎやで」
「小学生なんて、皆そんなもんだろ」
おれの小二の妹も悩みも無く、毎日お気楽に過ごしている。まあ本人にしてみれば、何かしらあるかもしれないが、高校生のおれから見るとどれも可愛らしいものである。
テストがマジでヤバいとか、進路どうしようとか、クラスメイトの暗い過去を知った時の対応とか、やたら話が長い奴をどうやり過ごすかとか、下僕生活に慣れてしまっているけど本当にこのままでいいのかとか、悩みは尽きない。
でも、そんな悩みもいつかは笑って話せるようになるのだろう。
新しいタイムカプセルが埋められる。
時が経って、変わってしまうものもある。それは仕方のないことだ。
けれども変わらないものもあるってことを、おれは信じていたい。
「何よ、高村君。ぽけーっとして」
「いや、紅葉がキレイだなと思ってさ」
何十年経っても、こんな会話が出来ればいいと思う。
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