第3話

 その日の夜。

「そうだ、タイムカプセルを埋めよう」

 風呂上りの浴衣姿も美しいね、と烏丸が賛辞を表す間も無く、さも今思い付いたかの様に、白鳥はこう言った。

 ヒマ潰しにトランプをしていた、おれと他二人は手を止めて白鳥の声がした方を向く。

「って、唐突過ぎるわ! 何、どっかの旅行会社のCM風に言ってんだよ」

「タイムカプセル? 僕は良いと思うよ。それよりも、風呂上りの浴衣姿も艶かしくて素敵だよ、白鳥さん」

 なまめかしい……。エロいってことか……。

「ちゃうって。しっとりと上品であることやで。……あ、そういえばそうやったな。タイムカプセルを埋めるんやったわ」

 薫に言葉の間違いを直された。自分のボキャブラリーの貧困さを嘆きたいところだ。

「ていうか、地の文を読むな」

「地の文とか、たまに君達の会話には付いて行けないんだけど。……それで逢坂君のその口振りからすると、白鳥さんの思い付きではなくて、元々タイムカプセルを埋める予定だったんだね」     

「ええ、その通りよ。私がただ思い付きで何かをしようとしたことが今までにあったかしら?」

「けっこうあるよ、お前の唐突な言動はな。……それに元々その予定だったんなら、先に言ってくれればいいのに。準備とかも出来たし。タイムカプセルの中に入れる物とかさあ」

「でも、どうしてタイムカプセルを埋めようと思ったんだい?」

 烏丸の問いに、白鳥は遠くを見るような目で答えた。

「十年目なのよ……」

「何が?」

「私が前に薫とタイムカプセルを埋めてから、明日できっかり十年目なの。それで十年経ったら開けよう、という約束だったから開けるだけ。……開けて、また埋めるのよ、次の十年に向けてね。今回は高村君と烏丸君も一緒に」

 ……それは、おれ達が十年先も白鳥の側にいていいってことだよな。

 なんか、嬉しいじゃねえか……。

「私と薫は十年前に『十年後の自分へ』という感じで手紙を書いたのよ。という訳で……テレレッテッテテーン、レターセットー」

 ……何で、こいつはいつも空気を読まないのだろう。

 おれがしんみりしている時に、某青ダヌキのモノマネをしやがった。しかも全然似てないし、ノリも悪い。

「高村君、これで十年後の君に手紙を書くことが出来るんだよ」

「おい、そのモノマネ、自分で似てると思うか?」

「いえ、全く。ただやってみただけよ」

 口調が戻った。まあ、予想通りの答えに脱力。

「手紙を書くのはね、懐かしむためなのよ。……十年後、今と同じ状況が変わらないかなんて、何も保障が無いじゃない。だから、これを読んで昔の思い出に浸るの」

 十年後も今と同じ状況が変わらない保障はない、か。

 その言葉は、白鳥自身が一番よく分かっているのだろう。白鳥美和子は、小学校を卒業する少し前に両親を亡くしている。それを十年前の、たった七歳の彼女が予想出来たはずはないのだから。

「まあ、そんなに真剣に考えなくても良いのだけれどね。どうせ、それを読むのは十年後の自分なのだし、気楽に書きなさいな」

 おれの心を読んだのだろう、白鳥がフォローを入れる。

「ああ、分かった」

 おれはそれだけ言って、白鳥からレターセットを受け取った。

「じゃ、私はそろそろ寝るから。お休みなさい」

 白鳥はサッサと自分の部屋に戻っていった。

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