第2話
一週間後、京都にて。
「で、わいはもう登場してもええんかな?」
「いいよ。……ていうか、そういうことは聞くなって」
話を進める前に、このフリーダム野郎、逢坂薫の紹介をしなければならない。
逢坂薫、男、白鳥の従兄妹で、大阪在住、関西弁、家は元大地主で元旅館経営、背が高い、同い年、大阪府立清風男子高校二年生、弱小野球部のエース、でも文学少年、子ども好き、ゲーム好き、数学嫌い、……。
「その紹介の仕方、何なん? わいも今までの流れ通りにしてぇな。……う~ん、わいを簡潔に三つの四字熟語で表すとすると、汗牛充棟、豪放磊落、和気藹々、かな」
「……読めねぇんだけど、その漢字」
さすが、文学少年。難しい漢字を知ってやがる。
「かんぎゅうじゅうとう、ごうほうらいらく、わきあいあい、やで。意味は自分で調べてな」
そういう訳で紹介は終わり。やっと話を進めれる。
おれ達は今、京都にいる。目的は紅葉狩りと観光だ。
大阪にある薫の家を宿に、一泊二日の小旅行である。
「ここが平安の昔から愛されとる、嵯峨・嵐山やで。近くに『小倉百人一首』の選者である藤原定家の山荘もあったんよ、ま、これも後で行くけどな。で、この渡月橋の景色は旅番組とかでよく見るやろ? 春は桜が、秋は紅葉が、それはもう美しいんや。まさに『紅葉の錦 着ぬ人ぞなき』やな。ああ、これは百人一首には入ってないんやけど、『大鏡』にも載ってはる藤原公任はんの有名なエピソードで詠まれた歌なんや。あ、公任はんといえば、この嵯峨で百人一首に採られとる『滝の音は……』の歌が詠まれた所もあるで。嵯峨の北の方の大覚寺っちゅうお寺なんやけど。ま、ここも後で行くから、詳しい説明はその時やな。……千年以上も昔の人も、この景色を見て、綺麗やな~って思っとった。わいらも、その人達と同じ景色を見て同じ様に、綺麗やな~って思う。それってけっこう感慨深いやろ……って聞いてへんやん!」
「あ、終わった?」
薫にしては珍しいノリツッコミに、おれは呑気な声を返した。長過ぎる説明をスルーし、近くの茶屋で団子を頬張りながら。
「団子まで食うとるし……」
「それで、小倉餡と金時豆がどうなったのかしら?」
「えっ、逢坂君、君は小豆と隠元豆について延々と語っていたのかい? それは僕達が飽きて、団子を食べちゃうのも無理はないよね」
自分の話をちゃんと聞いてもらえずに落ち込む薫に、白鳥と烏丸が追い討ちをかける。このドSコンビ、容赦ねえ……。
「おいおい、そのボケは酷いだろ」
「三人とも酷いわ~……」
その後、薫の口数は少し減った。
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