白鳥さんの愉快な日常

夢水 四季

白鳥さんと紅葉狩り

第1話

秋……。葉が鮮やかに色付く行楽シーズン……。


「紅葉狩り?」

「ええ、来週の三連休に。薫から連絡があったのよ、烏丸君も誘って四人でどうかって。あなた、どうせ予定もなくて暇でしょう。当然、一緒に来るわよね?」

 この偉そうな美少女が白鳥美和子。

 自称白魔導師であり、おれ高村秀の御主人様でもある。

 ひょんなことから、こいつの下僕(=パシリ、使い魔)にされてから、早や一年半と数ヶ月。

 今まで、こいつに散々付き合わされ振り回され続けた。

 まあ、今回もそんな感じだ。

「もちろん、行くに決まってるだろ。ヒマでヒマで退屈してたところだぜ」

 下僕だからって、自分を卑下することはない。タメ語OK、口ゲンカなんてしょっちゅうの、なんちゃって主従関係だ。ただのクラスメイトでも友人でもない、ましてや恋人なんてとんでもない、あえて言うなら主従。おれと白鳥は、そんな関係なのである。

 何かの縁あって出会ったのだから、この出会いを大切にしたいとは思うけど……。

「あら、本当に暇だったの。私、てっきり断るものかと思っていたのに。だって来週の三連休って、テスト週間と諸に被っているじゃない。頭の弱い高村君は、勉強しないと悲惨な結果が待ち受けているわよ」 

 そういや、そうだ。すっかり頭から抜けていた。

 来週の十一月下旬から、県立桜木高校は二学期末のテスト週間に入る。期末は範囲が広いから大変だ。実際、教室内でも勉強している奴はちらほら見られる。

 おれとしても、勉強しとかないとヤバい。特に数学と英語は、かなりヤバい。

「ていうか、お前はいいのかよ。勉強しないと、おれに抜かされるかもしれないぜ?」

「あなた、一度でも私の順位の上を行ったことがあるのかしら?」

「…………」

 一度もなかった。

「私は高村君の様に必死に勉強しなくても、それなりに良い点が取れるから大丈夫なのよ。まあ、精々あなたなりに足掻いてなさい」

 ……白鳥美和子とは、こういう奴なのだ。

 かなりの美少女なのに、性格に難あり。こいつを簡潔に三単語で表すと、毒舌、自信家、厨二病だ。

「では、高村君を簡潔に三単語で表すと、普通、平凡、平均点かしら」

 心を読むな。……しかも意味どれも同じだし。

「まるで個性のない奴みたいに言うな。おれを『~男子』を付けて表すとだな、料理男子、裁縫男子、えっと……」

「『~男子』を付ければ良いという最近の風潮に乗っかるのは感心出来ないけれど。敢えていうなら、下僕男子?」

「そうそれ。……って、そうだけど違う。聞いたことねえよ、そんなの」

 おそらく日本で初めて、下僕男子と呼ばれた、おれ高村秀。悲し過ぎるし、全くもって流行ってほしくない。

「じゃあ、僕は何男子?」

「……えっと、キラメキ男子」

 この唐突に会話に入って来たのが、キラメキ男子こと、烏丸凛である。

「凛」なんて女っぽい名前だが、烏丸はれっきとした男子である。男子より王子といった方が合っているくらいのルックスを持っている、クソイケメン。

 ちなみに、簡潔に三つの四字熟語で表すと、容姿端麗、才色兼備、泰然自若だ。

少し前までは、完全無欠を付けてもいいくらいだと思っていたのだが、事情が変わった。この事情が色々と複雑なので、今は触れないでおく。

「それで、紅葉狩りに行くって話だよね?」

 実は生徒会長もこなす烏丸が、脱線しかけた話を戻す。

「ていうか、お前、聞いてたのかよ」

「うん。僕、耳が良いからね」

「聞いていたのなら話は早いわ。……で、烏丸君もどうかしら? 薫の家で一泊するのだけれど」

「勿論、行くよ。僕が白鳥さんの誘いを断る訳がないじゃないか」

 烏丸は間髪入れずに答える。

「あ、でも高村君は来なくていいよ。邪魔だから」

 キラキラした笑顔で、けっこう酷いことを言われた。

「……意地でも行くっつの」

 何故か烏丸は、おれを敵視している。あいつが白鳥を思う気持ちは分からないでもないが、こう露骨に表されるのは勘弁だ。白鳥が烏丸をどう思っているかは、正確には測りかねるけど、確実に烏丸の方が評価は高いはずだ。そんなの火を見るよりも明らかだろうに。

 ……全く、おれだって白鳥と一緒にお前を救ってやったんだぜ、烏丸。

 今年の夏、おれと白鳥は烏丸の秘密を知った。知った上で受け入れて、烏丸を救った。それから烏丸は変わり、白鳥にべっとり、おれには厳しくなった。

 これだって何かの縁だろうが、縁は縁でも悪縁かもしれないと思う、今日この頃だ。

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