暴君の手は何処までも伸びるんだ

 さて──。


 軽く叩いてタバコの灰を落とし、帳簿とにらめっこだ。

 ここ数日、やる事尽くしで泣きそうなところだ。


 「っ、決済も電子じゃないとやり辛くてかなわん」


 ここにはPCなんて概念はないわけで。

 別に用意できないわけではないのだが、そんな事すればどうなるかなど一目瞭然だ。


 「改めて眺めると、日本効果は凄まじいな」


 見つめる先は利益欄に書かれてある聖貨数万枚と記載されている恐ろしいくらいの利益と金利の利益金額だった。


 マッチから始まり、今では徐々に下級貴族からカジノ人気が火を吹き始めてる。このまま行けばすぐにでも上級貴族まで行くのにそう時間はかからないだろう。


 「これで一先ず、休憩とするか」


 俺はそれから気配を消して店で働くガキ共を陰ながら見つめ、必要であれば分からないように手助けしながらサポートに徹した。

 現状これ以上やることはなく、カネというツールはある程度持った。今以上に稼げば、目を付けられるのも時間の問題。かち合ってもいいのだが、今の内からそんな事をしていると、この国無くなるだろう。


 俺としてもせっかくの異世界を破滅させるわけには行かないから、こうして時間潰しに仲間の成長を見守ろうという訳だ。


 魔法の方は正直要らない。

 最低限あれば。

 自分の力でどうにかなる内は。


 

***


 「新しい領主?」


 「ヒロイアという女性領主です」


 ブルクに変わって⋯⋯か。

 背もたれに寄りかかり、煙草を吸う。

 この中央集権で男系が圧倒的な政治体制の中、女性がこうして領主として活躍できるのは、中々優秀ということか。


 「なかなか面倒だな」


 「既にいくつかご主人様向けに封筒が届いています」


 ガルがその封筒を手渡してくる。

 ほう、早速商店の活動に言及か。それにカルデアの行動範囲まで指摘してくるとは⋯⋯頭が切れる。


 同情し、俺を立ててつつも、こちらで活動してくれますよね?と誘導的なメッセージ。上手いな。


 「ガキ共から反響は?」


 「はい、そちらの方は既にいくつか入っているようです」


 「報告しろ」

 

 どうやらこの新領主は有能なようだ。

 既にこちらの接触し、取り計らってるらしい。


 レシート並みの情報源を頬杖をつきながら眺める俺に、読めないミーズはウルウルしている。


 「どうした?」


 「ご主人様が可哀想と思って」


 「可哀想?」


 「目が痛くなりませんか?」


 「ぷっ、あっはははは」


 「ミーズ!」


 隣にいたミカエラにツッコミを貰っている。時間が無く、食事中に眺めていた俺を察したのか、ミーズの行動に周りも笑っていた。


 「問題はまったくない。ただ、面倒だなと眺めてるだけだ。情報源を読み通している訳ではないさ」


 ⋯⋯さすがに働き過ぎか。


 「少し、今の内から動いておくか」


 一同全員が首を傾げている中、セレーヌとガルは先に口が開いていた。


 「どのように動くおつもりですか?」


 「結論から言うと、今の流れは良くない」


 「良くない⋯⋯ですか?」


 「まぁな。俺が居ないと売り上げが伸びないなんて⋯⋯消えたらたった数週で下に急降下していくに決まってる。利益だけ見れば問題はもちろんないがな。俺が居なくなっても自動的に回るようにするためには、様々なところから掻っ攫っていく必要がある」


 そう。今の状態で一番懸念すべき事だ。

 周りが言うように、俺がどうにか出来たとしても、結局のところ⋯⋯人が全てだ。


 俺がいついなくなってもいいように、コイツらにはたんまりとカネと力を残す必要がある。

 その為には──優れた人材をやはりどうにかするのが一番早い。


 「よし、時間がなくなりそうだな。また」


 「ご主人様、最近働き過ぎではありませんか?私達は奴隷ですから問題ないのですが、ご主人様が働きすぎては⋯⋯私達の立場がありません」


 「ここぞとばかりに言わせてもらうが、俺はお前らを働いてもらう為に雇ったし、時間内で済んでいるのなら働かなくて構わんという言葉を使ったはずだ。というか、一番上が働かない所など、駄目だろう」


 楽をしたいのなら不動産でもやっとけばいいんだよ。こういう活動ってのはトップが動かなければ意味がない。


 「人の顔など見る必要はない。やりたいことをやれ」


 「とは言ってもですね⋯⋯」


 何か言いたげなガルの言葉をライターの開閉音で止ませ、口から煙が上っていく。


 ⋯⋯⋯⋯ん?


 「⋯⋯ん?」


 「どうしました?ご主人様」


 なんで俺はそもそも外から探そうとしているんだ?


 いるじゃないか。才能と人材の宝庫なら身内に。

 すぐに商店の方へと目を向ける。

 

 「今日の予定は確定した。お掃除班には1日家を空けると伝えてくれ。全員出撃だ」


 「かしこまりました?」


 訳わからんといった彼らの顔を無視して、俺はすぐに事に当たろうとしていた。

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