閑話②地獄に落ちたブルク
「くっそぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
元領主邸があった場所。そこで中年太りの限りを尽くしたブルクは悲痛な叫びを上げていた。
歩く災害──ガゼルの被害にあった張本人である。とはいえ、彼にはかなりの罪が乗っており、擁護する者もいなかったという。
「私の家も、妻も、子も、拾ってやった恩を忘れてどっか行きやがって!」
違う。元々彼は自分以外は可愛くないのだ。
「金さえあれば⋯⋯」
無理である。
誰かさんのせいでトラシバの財政状況は過去一番に悪く、平民からの声も酷いものだった。
理由は単純で、ガゼル商店の利益は一銭たりとも街には入らないのだ。
そのせいで商店に流れるおかげで、見事街の人間からはブルクに対して様々な嫌がらせなんかを行ったりした。
「闇ギルドに⋯⋯アイツだけは私が終わらせる!!」
***
「やめとけ、おっさん」
「そうだぜおっさん?」
「なっ⋯⋯?」
闇ギルドに入ってすぐにブルクは声高らかに言った。殺せば全財産を渡すという条件で。最初は食い付きが良かったものの、相手の名前を聞いた瞬間、この有様。
「ガゼルー?確か街の英雄様じゃねぇの。俺あんとき現場にいたけどよ⋯⋯ありゃ同じ種族じゃねぇって。見たことないの?アイツ一人で軍と同じレベルの戦闘力があるって事だぜ?」
「うっ⋯⋯」
ブルクは知らない。本人はその時、街の娼館で遊んでいたから。
「俺も却下。あの人は街を救ってる。能力でも勝てない上に善行の男に行く気はない」
「全財産だと言うんだぞ!?」
ブルクは魂の限り叫ぶ。
しかし返答はあまりにも悲しいものだった。
「ちなみに、その目の敵にしてるガゼル商店⋯⋯いくら稼いでるか知ってるか?元領主様よ?」
「しらん!そんなことはどうでもいい!」
「⋯⋯適正に計算したうちの選りすぐりのものが言った。白金貨10万枚以上は確実に稼いでるって話だぜ?税金納めたらとてつもない功労者だったのによ⋯⋯」
「むしろあっちに依頼を頼んで欲しいくらいだよな?良い噂が多いし」
「あぁ、確かトラシバ復興中に、黙って冒険者・商業ギルドに大量の白金貨と金貨を寄付したらしいじゃん?」
「ただの善人だろ」
「もしかして義賊なんじゃね」
最後の方はずっと鼻で笑いながら話し込む闇ギルドの者たち。ブルクはその話を聞いてもなお、認めようとはしなかった。
「ふんっ!」
「おいおいあのおっさん。大丈夫かー?」
「まぁそのうちどうにかなるだろ?」
・
・
・
「ヒロイア様、お足元の方お気をつけください」
「ええ大丈夫よ」
後任の貴族二人が数カ月に派遣され、前任のブルクがいた邸宅にやってきた。
「これ⋯⋯報告通りね」
「はい」
報告書にはこう書かれていた。
平民による返り討ちにあい、精神が崩壊。
闇ギルドに足を運んだものの、無意味に。
その後依頼を数十件様々なところで依頼するも、それも無意味。
子供や妻にも見放されて一人で精神をヤラれて小屋の中で一人、自殺。
「一体何をしたらこんな事になるのかしら?」
そんなヒロイアの視線の先には、報告書通りの小屋があった。一人の下女が扉を開けると、とても立ってはられないほどの異臭とグロテスクな光景がそこにはあった。
思わず二人は"うっ"と口を押さえ、戻さないように進む。
「こ、これは⋯⋯?」
下女が壁に指を指した。
まだ冷静だったヒロイアだったが、その指し示す方の壁を見て⋯⋯思わず叫んだ。
「きゃゃぁぁぁ!!」
背を向けて走る。
下女も慌ててなんて書かれてあったのかを視界に入れてからはヒロイアと全く同じ反応で外へと出る。
「一体⋯⋯何をしたらあんなことに?」
「分かりません。しかし、相手は想像以上なのはこれでわかりましたね」
"ごめんなさい"
"もう二度としません"
"許してください"
そんな言葉が壁の至るところに自分の血で書いたとされるものが大量にあったのだ。
「さて、これからこの街をよくできるように⋯⋯私も頑張る」
例の平民とも会わなくては。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます