12話 トラシバの街
「ふぅ〜」
場所はレストランの外。天気はビックリするくらい快晴だ。レストランから出ればすぐに大通りで、あちこちで自身が耕している野菜やアクセサリーなんかを声出ししながら自分たちの店へと集客している様子が見える。
人の通りはかなり多く、正に100年前の風景と言われればしっくりくるようなモノだ。
そんな沢山ある中の一つのレストラン入口すぐ横で、煙草の煙を鼻から吐きながらその大通りの風景を眺めるガゼルの姿があった。
'まぁそれはさておき'
俺達は現在、トラシバの街のかがやき亭という所で飯を食っている。
いやはやこっちに来てまともな食事だよ。出されたのはマンガ肉に大量の野菜、そしてメニューにあったよく分からないものを食べている。
見た目はグラタンみたいなものに近いが、豚骨の味がするんだよこれが⋯⋯。
よく分からないが味は間違いなく美味い。だが見た目がグラタンなのと豚骨の味のせいでよく分からない感覚に最初は陥ってしまった。
まぁ結論が何が言いたいかと言うと、いい感じにミックスしていてくっそ美味い⋯⋯まぁそう言うことだな。
今俺は店の外へ出てタバコを吸っている訳だが、他4人は気にせずに大量にある飯を食べている所だ。
気になっているだろうウルフの所在だが、街の中へと行かせるわけにはいかないってお叱りを貰ってな。代案として従魔預かり所という所があるらしく、そこでお金を払って食事と寝床を提供してもらっている。
最初はセレーヌから離れる時どうしても嫌だったのか⋯⋯凄くゴネていたんだが、俺が少し声を掛けたら1mmも反抗しようとしないのでこちらもかなり申し訳ない気持ちで一杯だったんだが入ってもらった。
まぁ主従関係はある程度無いといけないというのは理解しているから、申し訳ないという気持ちもある。だが物分りが良いウルフは有り難い。
'にしてもよ?'
ガゼルが煙草の灰を落としながら、愚痴をこぼすように快晴の空を見ながら溜息をつく。
聞いていた通りではあるけどさ〜、奴隷の扱いと周囲の目がさ〜⋯⋯こう⋯⋯ちとばかり酷すぎやしないか?本当途中から気分悪くてこうして煙草を吸っている訳だが、店に入って料理が届くまで本当に酷かったんだ。
入ったらまずセレーヌを見てゴミを見るかのように蔑みの目があるし、案内されても何故かセレーヌは座らないし、周りも当たり前のようにしてる。店員さんも涼しい顔でスルーするんだもん。
我慢できなくてイラッとしちゃった☆
まぁそれはさておき、奴隷という立場が如何に酷いのかはよく分かったが、ウチの奴隷にはそんな思いはさせるつもりは無い。そう考えるとアレックス達の対応は有難いな。
軽く微笑みながら煙草を見ると、もう吸える部分が燃えてなくなっている。
「よいしょ⋯⋯」
吸い殻をアイテムボックスのいらない部類にしまって店の中へとガゼルが戻っていった。
「待たせたな皆」
「全然大丈夫ですよ!師匠ォ!」
「ええ気にしないで下さい」
「ご主人様ァ!これぇ!凄い美味しいですぅー!」
ガゼルがパチくりさせながらこの状況の理解をしようと必死に考えている。
'大量のお皿に際限無く来る店員'
だが負けない速度で消えて行く料理達。熱いのに凄い勢いで食べているな⋯⋯口の中が火傷しないか心配だ。
まるで野蛮人のようにガチャガチャしながら食べているアレックスが手を止める。
「師匠!そう言えば、タバコってなんですか?」
「ん?知らないのか?」
「そうなんです!さっきもちょっと煙草吸ってくる〜って言って消えた後、煙草って何だ?と疑問が浮かびました」
「ここら辺にはには葉巻とかは無いのか?」
「パイプならありますよ!」
「そういうのと同じ奴だよ」
ガゼルの返事にアレックスが嬉しそうにお金を探している。
「そうですか!俺も師匠の真似しようかなー!なっ?ドーグ!リーナ!」
「ダメです」「やめとけ」
アレックスの提案を即否定する腕を組みながら真顔で頷くドーグとリーナ。
「なんでだよ!2人とも~!」
「ガゼルさんはお金有るみたいだけど、私達そんなのに使えるお金無いでしょ!?」
「あ、確かに⋯⋯」
騒がしい空気から一変。シーンと突然葬式のように静まる。
'ありゃりゃ'
確かに嗜好品は高級だわな。昔の時代もこういうのは高価なモノだったみたいだしな。
俺はどうにもこの葬式ムードがあまりにも面倒だから、空気を変えてやらんとな。
「まっ、そろそろ行くか?いい食べっぷりも止まったみたいだし」
微笑みながらそう口にする創一。するとアレックス達が自身の懐から巾着袋に近いものを取り出してお金を出そうとしていた。
「はい!自分がだし⋯⋯」
「何言ってんだ?何の為に俺がわざわざ飯食える所を聞いたと思ってるんだ。まさかそんな図々しい事する訳ないだろう。ここは俺が出す⋯⋯遠慮すんな」
ガゼルが鼻で笑いながら会計を済ませに向かう。その背中に向かって三人とセレーヌが頭を下げていた。
「ありがとうございます!師匠ぅ!」
「お気遣い感謝しますねガゼルさん」
「ありがとうガゼル殿」
「ご主人様ありがとうございます!」
ガゼルの返事は振り向く事なく片手を軽く上げて反応するだけだった。
'まぁ悪くないなこういうのも'
「コレで」
「ありがとうございました〜」
外に出ると4人が待機しており、そのまま合流して歩き出した。
「さて、冒険者って事は⋯⋯ギルドがあるんだよな?そこに向かおうか」
「はい!師匠!自分が案内します!!」
「ふっ、じゃあ案内を頼む」
「はい!」
アレックスとガゼルを先頭に騒がしい大通りを進んでいく。中間地点にドーグ、そして最後尾にセレーヌとリーナ。道中この女性陣二人が何かコソコソしながら話をしていた。
「リーナさん、私は奴隷なのに話をしてくださってありがとうございます」
そう言いながら頭を下げるセレーヌ。リーナは動じる事なく手で返事を返した。
「良いのよ別に。それより良かったわね?いいご主人様に買われて」
「本当そうなんです!しかも出会いが森の中でして⋯⋯」
「え?じゃあ買われたのってバルカスの馬車の中の?」
「え?そうですけど?」
「そう⋯⋯⋯⋯」
リーナが下を向き、不安そうな表情で悩んでいる。それに気付いたセレーヌがすぐに声を掛ける。
「どうかしたんですか?」
「護衛任務の依頼をやっていたのは、私達蒼き星だったのよ」
「あっ⋯⋯⋯⋯」
「てことは私達とセレーヌ⋯⋯どっちもあの人は助けてくれたって事よね?ああ〜娶ってくれないかしら?」
深い吐息を漏らし、リーナはガゼルの方を見ながら祈りの仕草を見せて無言で祈っていた。
「私も愛人候補でもいいでしょうか!?」
リーナの祈り続くようにセレーヌも手を上げてリーナと一緒に祈っている。
「え?冗談よ⋯⋯確かに良い人なのは間違いないし強さもある。だけどね」
視線の先にいるガゼルという男の背中を見たリーナが深い溜息をつく。
「多分私達の様な普通の人では、彼と過ごすには無理があるわよ」
「え?ご主人様は優しいですよ?」
「そうね。それは間違いないわ。だけどあの強さ──とても普通じゃないわ?ウルフとはいえ、ランクD級相当に当たる魔物の首だけを飛ばすとか普通じゃあ有り得ないわよ?貴方のご主人様は。そんな人に着いて行っても何処かで着いて行けなくなるのは目に見えているわ。
頑張る事は悪いことではないからね。
でも私はきっと途中で諦めちゃうから、セレーヌちゃんは頑張りなさいな」
儚げな瞳で先にいるガゼルを見つめるリーナ。
「良いんですか?諦めてしまって」
その様子を見ていたセレーヌが止めるようにそう呟く。リーナは一瞬動揺するが、それでも言葉を撤回する事はなかった。
「私は⋯⋯頑張りますよ」
セレーヌがリーナに向けて満面の笑みを浮かべそう言いながら少し早歩きで先へ向かった。
「⋯⋯⋯⋯」
'私も⋯⋯'
正直、冒険者を辞めて普通に働くのも悪くないと思っていた所だった。アレクもドーグも、ああいう態度をしているけどずっと努力している。才能が無いからと諦める事をせずにずっと前を向いて自分に何ができるかを常に考えている。
それに比べて私はどうだろうと考えた。いつも出来る最低限だけ努力している。それも、最低限ですら⋯⋯だ。
そのレベルではいつか置いて行かれるのなんて秒読みでしょう。
だけどそんな中、またとない機会が与えられた。もしかしたら──本物の悪魔との取引かも知れないけど。
追い付くくらいならもしかしたら出来るかも知れない。だけど⋯⋯その根本にいるガゼルさんに求愛出来る外見も、中身も強さも品性も持ち合わせていない。
疲れたのよ──。だけど。
視線の先には、ガゼルの方へと笑顔で向かっているセレーヌが。リーナは少し羨ましいと思ってしまった。
どうしよう⋯⋯幸いまだ若いし、人生なんて幾つからでもある程度やり直せる。もう少しだけ頑張ってみようかな⋯⋯
「ご主人様!」
「どうした?」
セレーヌがガゼルの隣へと移動し、少し遅れて離れているリーナをガゼルが見つめる。
「リーナ?何かあったのか?」
「あっ、いえ何でもないです!すみません」
「え?あ、ああ⋯⋯そうか」
それから数秒もしない内にアレックスがタイミング良く声を掛けた。
「師匠ここです!言っていた冒険者ギルドです!」
'思ったより微妙な建物だな'
的確な例えが思い付かないが、街の外れた方にある診療所⋯⋯のイメージがわかり易いだろうか。木造で日本とは違って安全性があるか不安な色や年季の入り具合。まぁ街のギルドはこんなものだろうか?まぁいいか。
「おー立派な建物じゃないか!」
「師匠!」
ガゼルが声量にビックリしながら視線を向けると、アレックスが真剣な面構えでガゼルを真っ直ぐ見ていた。
「これは先に言うべきかと思ったんですがタイミングが無くてですね⋯⋯」
そう言いながらアレックスは横を見たり上見たりととにかくソワソワしている。そのままガゼルが話すのを待っていると大きい声で口を開いた。
「バルカスの馬車の護衛をしていたのは俺ら蒼き星なんです!」
一瞬驚くガゼルだったがすぐに返事を口にする。
「それはすまないことをしたな。依頼だと知っていれば俺が手を貸す理由もなかっただろう」
「え?師匠は悪くないですよ!寧ろこちらは命を救って頂いたんですから!」
アレックスはひたすらにガゼルに対して感謝を伝えた。
「そ、そうか。別に気にするな」
少し時間置いてガゼルの返事の後、アレックス達三人がほっと安堵している。
「さて、いよいよギルドに入る時間だ」
ガゼルが目の前の扉を手に掛ける。
'ファンタジーの醍醐味⋯⋯楽しみだ'
ニヤッと口元を綻ばせ、年季の入っている甲高い音と共に扉が開く。ガヤガヤとうるさい話し声が飛び交う中、いよいよギルドの中へと足を進めるガゼルだった。
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