11話 冒険者と共に街へ!
「あぁ〜」と伸びをしながら木の根っこに豪快に座るガゼル。
'ッたくよ〜⋯⋯'
ハァ〜と溜息をつきながらそう心の内で呟くガゼルの目には、母親のような穏やかな気持ちが表れていた。
「⋯⋯⋯⋯」
『可愛い〜!』
『くぅ〜ん⋯⋯』
ガゼルがすぐ近くにいる場所へと目を向けると、セレーヌがさっきのウルフと仲良く一緒に遊んだり撫でたりしている。
'ハァ⋯⋯動物1匹で食費が倍くらい増えそうだな'
そう。さっき、ウルフと対峙した時の事だ。
**
「くぅーん」
甘えた声で完全に身体を脱力させながらお腹を見せるウルフ。さっきまで人を殺そうと思っていた魔物にはどう考えても思えない。
'おいおい'
ガゼルが呆れた様子で首を軽く前に倒した。
'まぁいいや'
セレーヌが集めた袋の中に拾った実があったはず。
ガゼルがアイテムボックスの中を確認すると10どころではなく、50個程多めに実が入っていた。すぐに取り出してウルフの方へとヒョイと投げた。
「ホレ!」
ガゼルが少し上に向かって軽く実をあげると長くて暖かそうで真っ白な尻尾を横に激しく振りながら、飛び上がって投げた実を口にガリッと歯で挟む。
そして喜びを表すように威圧的な瞳ではなくクリクリな丸い瞳でガゼルを見つめるウルフ。
'良かった。この実が好きなの──うおっ!'
素で驚きながら視線の先でウルフの隣にセレーヌがいつの間にか移動してじゃれあっている。
ウルフが太腿の上で寝っ転がり、甘い声でおねだりをしている。そしてそれに応えるように頭やお腹を優しい手つきでかいたり撫でたりしているセレーヌ。
「もうすっかり保護者だな」
「それにしても驚くばかりですよ!」
「何がだ?」
首を傾げそう言葉を聞き返すガゼル。すると満面の笑みを浮かべながらセレーヌが答えた。
「ご主人様は凄いです!いくら等級が低いとはいえ、素早いウルフをあんなにあっさり倒して⋯⋯と思ったら!ウルフをこんなにも一瞬で手懐けるなんて!」
'いや?分からんがなんとなく腹が減ってるだけじゃねぇのか?'
そう思いながらセレーヌに空笑いを見せるガゼル。
「まぁ休んだだろう?そろそろ街へ行くぞ。まともな飯も食いたい所だ」
「はい!ご主人様!」
それからというもの、他愛のない話をしながら片付けをしていた。片付けは難なく完了してそろそろ街に向かおうと動こうとした時⋯⋯少しだけ遠い距離にさっきの冒険者達の姿があった。
「先程は助けて頂き感謝する!
私たちはFランク冒険者で蒼き星というパーティーをやっているリーダーのアレックスです!こっちはドーグとリーナ!良ければ貴方の名前を教えて頂けないだろうか?」
アレクが丁寧に挨拶をしてからガゼルに尋ねた。対してガゼルは軽くを鼻を鳴らして目線をセレーヌの方へと持っていく。
「ガゼルだ。もし礼を言いたいなら、この子に言ってやってくれ。俺は見捨てて街へ行こうと思ったがこの子が困っているなら助けるべき!と言って聞かなくてな」
「この子が言ったのですか?」
「ああそうだぞ」
驚きながら会話をするアレクと淡々と聞かれたことに対して答えていくガゼル。セレーヌとウルフは邪魔にならないように少しだけ後ろで待機している。
するとアレクが身体を傾けながら、セレーヌの目を真っ直ぐ見つめて感謝の言葉を言った。
「お嬢さん、助けを呼んでくれてありがとう!」
爽やかに礼を言うアレクの後ろにいる二人も数秒時間を空けてから笑顔で頭を下げた。
「ありがとな!嬢ちゃん!」「ええ。感謝するわ!」
今まで礼なんて言われたことの無いセレーヌの顔が無意識に熱くなっている。すぐにセレーヌは否定しながらガゼルを見つめる。
「いえ!実際助けてくたさったのはご主人様ですので!」
「いや、でも君が呼んでくれなかったら俺達は今頃死んでいたからね。ホント感謝してもしきれないよ!何か必要とあればいつでも呼んでくれ!」
「あ、ありがとうございます!」
アレク達の言葉にセレーヌはただただ平謝りをするように頭を下げた。アレク達三人は、そんな謝っているセレーヌの頭をなんとか上げさせようと申し訳なさそうに謝り返してセレーヌが更に謝るという負のループに入った。
ガゼルはコントをしている全員を止めて、そのまま街に向かって歩き出しながらアレク達と軽く言葉を交した。
どうやらこの蒼き星というグループはトラシバにある冒険者ギルド管轄のパーティーらしい。
冒険者ギルドの内部把握にそんなに時間はかからなかった。
何故なら小説でこういう展開をある程度知っているからだ。俺にとってはさほど問題ない話だ⋯⋯ランク制度にいつもの流れ⋯⋯というべきだろう。
そしてそれから歩きながら更にアレックスに他にも尋ねたが、やはり奴隷という立場は概ねセレーヌに言う通りで、奴隷と普通の距離感で話しているのもアレックス達にとっては見たことない絵面なようで、新鮮な反応を出していたのもその為らしい。
「所でアレックスさん」
「なんでしょう?」
爽やかな笑みを浮かべながらガゼルの方へ目を向ける。
「トラシバの冒険者なんだよな?」
「はい!そうですが?」
「街に入るための身分証明協力出来ないか?」
アレックスは少し考える素振りをする。その反応を見たガゼルは少し苦しいか?と一人で考え始めた。
'まだその辺が分からないからなんとも言えない'
だがもしリスクがあったとしたら断られても当然だな。ある意味こう聞く事によって返答次第で色んな対策を打てて情報も得れる。まぁ早い話ある意味賭けだ。
空を見ながら数秒考えたアレックスがうん!と1回頷いてガゼルを見下ろす。
「良いですよ!お役に立てるのだったら保証人になります!」
「⋯⋯すまないな」
'まさかこれが通るなんて'
おいおい⋯⋯保証人だぞ?そんなホイホイ大丈夫なのか?
「いえ!助けて頂いたのに何も返せるものが無いので!」
'マジか'
内心呆気に取られて数秒脳が停止しかけるガゼル。
このアレックスと他二人は、あっちのヤツらより根性もあるし礼儀もある。⋯⋯俺から言わせれば、こっちの人達の方が好きだな。今の社会とか、人間関係とか、狭くなり過ぎて窮屈だったからな。俺としては有り難い限りだ。
「俺達はこのまま街に向かうが、となると一緒に行かないとだよな?」
「そうですね!」
「昼ごはんでも食べて向かうか」
「はい!」
そしてそれからしばらく歩いて良い頃合いで休憩をしとこうということでみんなで輪になって肉を頬張り、色んな会話をしながら親睦を深めた。
アレックス⋯⋯コイツはこのパーティーのリーダーで、中々主人公気質な性格のようだ。猪突猛進という言葉がきっと似合うだろう気運やその態度、その他話を聞く限りそう俺は感じている。
そしてドーグ。この人は真面目そうな雰囲気を感じるが、結構お茶目な所もあるらしい。意外と女性ウケも良くて⋯⋯ある意味将来有望なんだとか。
俺としては、マジか⋯⋯と思うくらいには想像もつかない程真面目な面相と雰囲気だったから驚いた。
最後にリーナはバランサーって奴だな。この二人の波長を揃える係って感じだろう。大人っぽい雰囲気だがまだ10代という。恐ろしい、異世界すげぇ。
まぁこんな所だ。他にも職業がどうたらとか、街ではこれが流行っているとか、そんな話を軽く数分話してから
──現在に至るんだが。
**
「なぁ、時にアレックスさん」
「どうしました?」
「剣は誰に習った?」
「え?どういうこと?ですか?」
アレックスが不思議そうに返事を返す。ガゼルははてなを頭に浮かべながら話を続ける。
「まぁそのままの意味だが⋯⋯剣術を誰かに習ったのか?」
「いえ!父と特訓を⋯⋯。子供の時からずっと剣を握っていまして、まぁとても剣術⋯⋯なんて呼べるような代物にすらなっていないのが結果なところです。ものではないですね─あはは」
必死に作っている空笑い。ガゼルはすぐに言葉の意味を理解して頭の中で色々と思考を回していた。
'今一瞬間があったが、両親は居ないのか?'
まぁ戦いの世界だ、聞かないでおこう。
「いや⋯⋯戦いを見ていてな、アレは剣術ではなく変な振り方だと思ってな」
間合いの取り方、剣を次に繋げる為の足、腰、腕、全ての動きが中途半端で、失礼だがあんなお粗末な動きで威力が出るわけ無い。別に攻撃したい訳ではない。
俺は身体の動きを死ぬほど研究した。多分地球でも俺以外に『マジで?』と思うくらいはいないは思うが、いるとすれば昔の武士や軍人位なものだろう。だがその偉大な先人達でも分からなかった技術が現代には存在し、尚もその探求は進んでいる。
だからそこまで昇華できた俺だから断言出来る──コイツは自分の力の内10%も使えていない。
「だからですか」
「ああ
嘘関係なしに発せられたガゼルの言葉を、アレックスが真剣な目で受け止め考えていた。
'まぁ、コイツなりに頑張っていた事は認める'
だがそれでは駄目だ。現実はそう甘くない。もしこれがただの格闘技や競技性のあるものならそれは努力にはなるとは思う。しかし、今回は違う。
謂わば──セーブ&ロードの効かないゲーム。
2度目は絶対にない。
一度でも体験した者は二度と殺し合いを舐めてかかることは無いだろう。最近の人間は平和になり過ぎて「生命の有難み」すら無くなっている。だからそんな間抜け⋯⋯いや──愚物、痴れ者と先人達から言われても可笑しくない稀代の大馬鹿者共ほかならない。
真剣を持ち、生命のやり取りをする者達は分かっている。緊張感、緊迫し続ける鼓動、全身の感覚限界近くまで鋭敏になって通常以上に筋反射が起きて身体を上手く動かせない苛立つ感情。
鍛錬などしていない人間がこの条件の中でどう普段通りに出来ると思っている?その中で武器を振るにはそれら全てをある程度理解しその上で型や動きを予測して
その点このガキは立派だ⋯⋯流石異世界人と言える。自分の行き届いていない点を理解した上でどうするべきかということを考えているのだろう。
まっ──そうでもしねぇと生き残れないのがこの世界って訳⋯⋯だろうな。
男であるほど冒険者に向いている職業もないだろう。女性はそれよりも向いている仕事もあるし、基本女性がいるパーティーは崩れやすい。異性が交じるだけで面倒な事になる。
逆に男が他の仕事をすると邪魔扱いもよくある話だ。
「⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯?」
無言のアレックスが、何かを決めた顔をしてガゼルの両目を真っ直ぐ見つめた。
「ガゼルさん!」
緊張のせいか、かなり近距離で大声を出すアレックスにビクッとするガゼル。
「お、おお!?どうしたアレックスさん?」
「ガゼルさんは剣術を使えるのですよね?口振りでですが」
「ああ、使えるな。だがこっちの地方ではないから常識的な剣術では無いがな」
ガゼルが返事をして間もなくすぐに頭を下げたアレックス。
「なんだ?なんだ?」
「是非!その一端だけでも私にご教授頂けませんでしょうか?」
「初対面の相手にそう言ってはいわかりましたなんて言うと思うか?」
溜息混じりにそうガゼルが言うが、アレックスは懇願するように大声で頼み始めた。
「どうかっ!!対価が必要なら必ず用意します!」
「対価?何をくれるんだ?」
「⋯⋯今はわかりませんが、あなたが望むものを用意します!」
'ハァ⋯⋯'
こういう正面から来るやつは昔から苦手なんだよな⋯⋯断りずれぇし、こういう奴に限って──嘘がねぇ。
どっかのやつとそっくりじゃねぇか。
何か安心しているような穏やかな表情を浮かべてクスッ微笑むガゼル。
「いいだろう、これも何かの縁だ。街にいる間で良ければ教える⋯⋯が、ただ俺は厳しい方だぞ?説明位はしてやるが、俺の指示以外な事は禁止だ──それでもいいのか?」
「⋯⋯⋯⋯」
アレックスの表情が一気に明るくなる。嬉しくなったアレックスからワンちゃんのような吐息が漏れている。
「ありがとうございます!!師匠!!」
'ウッ!'
一気に気まずそうに顔を背けるガゼル。
うわぁ⋯⋯恥ずかしい。いつの時代にこんな師匠なんて呼ばれるんだよ。アイツ以来だ⋯⋯
恥ずかしさのあまり必死に目を背け、感情がブレブレのガゼルに⋯⋯更に追い打ちをかけるアレックス。
「師匠はよさないか!なんか恥ずかしいだろ?」
恥じらいを込めながらアレックスに返事をすると、めげる事なく話を続けるアレックス。
「これからよろしくお願いします!!師匠!!」
'あぁ──苦手なタイプだ'
「だァー!小っ恥ずかしい!!」
両手で頭を掻きながらガゼルが軽く叫ぶ。それに対して周りにいる全員は大爆笑。黙って仕事ばかりしていたセレーヌも珍しく腹を抱えて笑っている。
'⋯⋯'
まぁ楽しそうだからいいか。今まで苦難な人生だったろうしな。
「それじゃあそろそろ街に向かって進もう」
「はい!師匠!」
歩き始めたガゼルがすぐに足を止め、肩を震わせながら口角を上げている。その様子は、すぐに止めろと言わんばかりに口元を震わせながら苦笑いをしているガゼルの姿だった。
「それ、街でもやるなよ!絶対!絶対だぞ!」
「分かりました!師匠!」
「ぜってえ分かってないだろ!?」
全く聞いていないであろうアレックスの返事に、全員で爆笑の行進をしながら街へと向かい始めた。
**
「ようやく着いたなトラシバの街に」
「いやぁ〜!一時はどうなるかと思いました!」
「まぁお前達のパーティーはまだそのランクとやらが低い方なんだろ?」
「はい!」
絶望的な空笑いをしながらガゼルに元気な返事を聞かせる。だが、その内側を理解しているガゼルがアレックスの肩を優しく数回叩く。
「なら──まだまだ伸び代だらけだ、そう落ち込むことはない」
優しく微笑むガゼルにアレックスが感激の涙をすぐに浮かべる。そして泣きそうになりながらガゼルの方へと勢い良くダイブしに行く。
「師匠~!」
'なんかあれだな'
ガゼルは飛んでくるアレックスを眺めながら内心何か似ていると思いながら見上げている。
'あっ⋯⋯犬だ'
笑みをこぼしながら、両手にポケットを入れたままガゼルが最小限の動きでダイブを避ける。
そのままガゼルを通り過ぎて顔面から地面に衝突している中、そのままほか全員は前へ歩き続ける。
「なーんでよけるんですかぁ!?」
「そっちの趣味は無いからな」
一連の流れを見ていたガゼルの後ろを歩く蒼き星の2人が、大爆笑しながらアレックスに喋り掛ける。
「アレク!あんたガゼルさんと会ってから随分可愛くなったもんだね!」
「だって!落ちこぼれパーティーとか言われて、見返したいけどやり方がわからない状況に光が差したんだ!嬉しさしかないじゃないか!」
'ほう?'
こんな根性あるやつらが落ちこぼれなんて言われるのか?まぁ才能は無いのかもしれんが、そいつは許せねぇな。
ふっ⋯⋯。
なら、馬鹿にしているやつら見返させてやろうじゃねぇか!気が変わった。
「アレックス!」
足を止めたガゼルが、少し声を張り上げた。それにビックリしたアレックスがビクッとしながら返事をする。
「強くなりたいか?」
ガゼルの美しい両目がアレックスを捉え、両手を腰に当てながら曲げてアレックスを見下ろす。
「それは勿論です!」
「では聞くが──お前は何のために強くなりたいんだ?」
「そ、それは」
少し間が空き、ガゼルは予想と違って少し笑みをこぼしながら問いかける。
「どうした?」
'俺は⋯⋯──'
何故か正座しているアレックスの太腿の上に置いている拳に力が入っている。
──「助けて!!!」
アレックスの脳内では死に体となっている村人達の悲鳴が無意識に流れていた。
『アレク⋯⋯いつか世界を救ってね?』
『はははははは!だってよ!無理だろ?未来の勇者がここにいるって聞いたから来てみれば──ただの一人も強い奴なんていなかったな!!!』
倒壊している家々。メラメラ音を立てて、人も、木も、地面も、全て燃え上がっている。
少年の目には人間の2倍近くある身長の黒い髪をしている男がこちらを蔑むように見つめながら嘲笑っている姿が見える。
「⋯⋯ッ」
恐怖──。
幼いアレックスの身体は、無意識に震え、本能的に勝てないと全身の感覚が必死に伝えようとしている。
「くっ⋯⋯!!」
アレックスの瞳は⋯⋯もっとも人間に起こる感情の一つ、憎しみが宿った。
「⋯⋯ハハッ。イイねぇ〜お前は生かしてやるよ。もしかしたらこうなることも
「仇を撃つためです!」
揺るぎないアレックスの双眸はガゼルを刺すように見つめた。だがガゼルは納得しないように吐息を返した。
「ほう?それだけで強くなりたいのか?」
──「アレク!」「アレク」
失った全て。アレックスの脳内で呼びかけるように村人のみんな、そして好きだった女の子の言葉まで聞こえた。
「いえ!もう二度と失いたくありません!二度と!大切なものを!」
叫びにも似た、必死な返事を聞いてから10秒。ガゼルは「ふん」と鼻を鳴らす。ガゼルの聞いていた様子は、答えに納得したように⋯⋯ニヤリと笑う。
そして空いた10秒。次にガゼルが発した言葉は、ニヤリとしながら⋯⋯こう返した。
「100点だ──ガキンチョ」
ガゼルの浮かべる笑みは、狂気地味た何かにすら見える。アレックスを含め、全員がその覇気にも似た独特な雰囲気にビクッとする程だ。
「失わねぇ為には、お前一人だけ強くなっても⋯⋯意味ねぇな?パーティー全員を鍛え上げてやるよ。そうすりゃあ──失わねぇだろ?」
狂気地味ているガゼルのニヤリとした双眸を受けたアレックスは感嘆している。自分だけではなく、二人までも良いのかと。
「え!?3人とも良いのですか?」
リーナとドーグが驚きながらボソッと漏らした。聞いていたガゼルは二人を視界に入れる。
「見返すんだろう?馬鹿にしてた奴らに。悪いが──俺が教えたら、間違いなく荷物になるのはお前たち二人だ。折角だ──お前達も強くしてやるよ」
ガゼルの笑みを受けた二人は、アレックスと違い何かを察していた。
'コレは──悪魔との取引'
リーナはドーグを横目にそう内心呟いていた。
この人⋯⋯普通じゃない。ウルフがいくら低級だからって、ただの突きで一撃なんて聞いたことが無い。もしかしたらS級冒険者なら有り得たかも知れないけど⋯⋯それにしても異常。
一体何者なの?人間⋯⋯よね?
「2人とも強くなろう!」
疑うことを知らないアレックスはドーグとリーナにそう言いながら既にガゼルと握手を交し、ブンブン両手で振っている。
「お?どうやら街に着いたみたいだな」
そんなタイミングで入口が見え、その横で衛兵らしき人物が手続きをしている様子が映った。
入口へと到着し、順番まで並んで待ち自分達の番が回ってくると「おい身分証明出来るものはあるか?」と衛兵が怠そうに声を掛けた。
アレックス達3人は声を揃えて「Fランク冒険者!パーティー蒼き星です!この人達の保証人になります!なので一時許可証をお願いしたく思います!」と自信たっぷりにそう言うと「では問題を起こした場合3人は奴隷になるということでいいな?」と確認の言葉が返ってくる。
'マジかよ⋯⋯ならマズいだろ'
「あ⋯⋯な──」
「はい!」
'うえっ?'
ガゼルが撤回しようとするのを遮り、当たり前のように即答したアレックスに動揺を隠せないガゼル。
そんな危険な賭けにかけてくれたのか、ほんと感謝だな。
アレックス達が先に歩いている一瞬の間にガゼルが衛兵に対して質問をしていた。
「なぁ、もししっかり身分証明が出来たら⋯⋯3人は奴隷にならないんだよな?」
「3日以内に持ってくれば大丈夫だ」
ガゼルの質問を聞いた門兵は、なんとなく質問の意図を汲み取って軽く吐息を漏らす。そして肩を軽くパンパンと叩き安心しろ?という顔でガゼルに目で伝えた。
'今表情に出ていたか'
自分の事なら動揺なんて一ミリもないが、まだまだだな──俺も。
「了解した、感謝する」
そのまま蒼き星とガゼルは、問題を何一つ起こすことなく無事街の中へ足を進める事ができたのだった。
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