第4話 レイアース初戦闘!

『マスター、もう少しです』


 ナビの音声案内を聞きながら3分程走り続けた創一。全く息切れ起こす事なく、涼しい顔をしながら走る創一の目線の先には、いくつかある何かの気配を感じ取っていた。


「いた!」


少しだけ距離を縮めて目の前以外のところにも目を向けると、緑色の人型っぽい生物が数体映っていた。


'あれは⋯⋯ゴブリンか?しかも、何体かに囲まれてるな〜⋯⋯マズイな'


 数体の緑色をしている生物が女性の衣服をビリビリに破きながら、恐らくその先は感覚でわかるであろう今にも危ない目に遭いそうになっている状況の中、創一は独り言をブツブツ呟いていた。


'だが、転移前とあまり変わらないようだし⋯⋯まぁある程度●●●●なんとかなるだろう'


助けに入ろうとしたその一瞬──創一は「ん?」と何かを思い出して木の影に寄りかかりながら屈み直した。


'確か、鑑定があったよな?ここからでもいけるのか?'

創一はとにかく緑色の生物達に向かって、ガン見しながら声を発した。


「鑑定!!」

────────────────────────

種族名 ゴブリン


攻撃力 90

防御力78

スキル 【絶倫】【剣術Lv1】

────────────────────────

'ん~、すげぇコメントしづらい感じだな⋯⋯'

まぁ異世界の定番っちゃ定番だが、こうも性欲系の能力を見るとなんか変な気持ちなるな。


 時間が残されていない中、そのまま創一は立ちあがって──目を狼のように細めた。


'だが、ゴブリン位なら⋯⋯問題ないだろう'


 創一はそこから全速力で襲われている場所へ向かう。

 するとざっくりしか分からなかった叫び声の主が鮮明に映り、創一はすぐに声をかけた。


「今助ける!」

「あ、ありがとうございます!」


返ってくる返事は、当たり前のように日本語。創一は「え?」と首を傾げた。


'どういう事だ?'

ん?普通に会話できてる?意味わからん


そう思った直後、創一はすぐに言われた事を思い出した。


'あ〜⋯⋯言語理解か?'


『その通りです』

ナビからの返事に、創一は「なるほど」と納得し、ゴブリンと10mもない距離にまで近付いた。


『キキ⋯⋯ッ』

不快なゴブリンの見た目、耳障りな声、こちらを嘲笑うような声に風呂にも入っていないのもあり、臭いも尋常じゃない。


 創一は必死に我慢していたが、内心死にそうになっていた。


'異世界の主人公達すげぇな⋯⋯'

アイツら当たり前のように戦ってたが、マジで戦いたくねぇ。コイツら通常でこれなんだから、血とか臓器が出た暁には──コレの倍以上の臭いが来るわけだろ?


 ドン引きとわかる程眉をピクピク上げている創一の引き攣った表情。しかしゴブリン達は、軽快に木々や地面を飛び跳ねて移動している中、創一をどういたぶろうかと考えているような嘲笑う声が響く。

 

 そして、なんとなく直感でそう理解した創一の目つきは──一気に豹変する。


'舐め腐りやがって'

創一は突っ込んでいた片手を外に出し、他にもゴブリンが複数いないか見回していた。


「⋯⋯⋯⋯」


居ないのを確認した創一が、目の前に見える全部で5匹を確認した。


'5匹か⋯⋯これなら、不意打ちを狙うべきだったな'

すぐに「はぁ」と溜息をつく創一だが、見えるゴブリン達を見ながら心の内で独り言を呟く。


'しかし、まぁいい──過ぎた話だ'

そのまま創一は、軽く襲おうとしている女性の周りにいたゴブリンに向かって威圧を向けた。



「お前達。⋯⋯今なら見逃してやる──ソイツから離れろ」


 瞬きを一切しない創一の鋭い眼光は、それは虎の威嚇のように重く、生物としての格を感じさせる程の威力が込もっていた。そして更に、低く余裕のある声はゴブリン達の身体の中で震えるように突き刺さる。


『キッ!?』

ゴブリン達が一目散に創一から距離を取った。

 当たり前だろう。ゴブリン達のような知能の低い魔物でも──生命の危機を感じれば、どんなに馬鹿でも答えが分かるだろう。


『ゴォォォォ⋯⋯⋯⋯』

ゴブリン達から見た創一は、燃えるような赤いオーラが映り、自分達がソレに近付けば一瞬で死ぬと即座に理解した。


「グギャ!!」「ケケケ!」

「⋯⋯?」


 距離を取ったゴブリン達が、創一に向かって何かを投げ始めた。

 その何かは投石。小石や奇形も含めて視界いっぱいに映る。


「おっと!」


 10秒間だけで50は飛んでくる投石。予想外の状況に出くわした創一は、ゴブリン達からの投石の軌道をすべて読みきって、その場でダンスを踊るように避けきった。


'おいおい⋯⋯'

避けきった創一が驚きを隠せずに目をぱちくりさせる。


'アイツら意外と知能あるじゃないか!'

 俺が知っている異世界の話は、ゴブリンなんぞ剣とか持って馬鹿みたいに突っ込んでくるのが定番で、当たり前のように殺される雑魚魔物かと思っていた。

 しかしやはり創作とはかなり違うな⋯⋯それでいて雑魚とは思えない威圧感も感じる。


 全て避けきった創一を見たゴブリン達が一瞬驚いた後、怒りを全開に表しながら、殺した奴から盗ったであろう錆び気味な剣を握り締めて創一へと駆け出し、殺意を剥き出しにしながらやって来る。


「ははっ⋯⋯」


創一が笑い声を出しながら殺意剥き出しでやってくるゴブリンを動かずに待っている。


'これはこれは⋯⋯死ぬ程楽しめそうじゃないか!'

創一が猛獣のように両手を広げ、襲い掛かろうとするゴブリン達を見つめた。


「キキッー!!!」


『ブンッ!⋯⋯ブンッ!』

 ゴブリンが必死に創一に当てようと両手で剣を握り締めながら一生懸命振り回す。しかし創一はポケットに両手を突っ込んだまま上半身のスウェーだけで全て避けている。


「グギャァ!」


全く当たらない事に腹を立てたゴブリンが創一に魔物の言語で叫んだ。


「遅いぞ?ゴブリン⋯⋯ハッ──バッ゙バババババ!゙!゙!゙」


 振り回しの終わり際にそのまま顔を近付け、戦いを楽しむ戦闘狂のようにゴブリンの頭上から見下ろすその姿は──ゴブリンをアリだと思っているような嘲ける姿。


⋯⋯完全に馬鹿にしている。


「早く当ててみろよ──ほれ」


創一が自身の頬をペチペチと叩きながらゴブリンを見下ろす。


「ギギギ⋯⋯!!!!!」


完全にブチ切れたゴブリン達が一斉に創一へと斬りかかった。


「キッ!キッ!キッ!」

「ぼれ゙ぼれ゙ぇ゙⋯⋯!!!このままだと死゙ん゙じ゙ゃ゙ゔぞ゙ぉ゙!゙?゙」


再びスウェーをしながらゴブリン達の剣を全て躱している。そして毎度毎度煽りながらコブリンの顔に近付けては薄ら笑いを浮かべながら嘲笑っている。


「ギッ!ギィー!!!!」

「ハァ⋯⋯」


溜息をつく創一。


'剣を振っては来るが、剣術が乱暴だな'

まぁ⋯⋯所詮はゴブリン⋯⋯ってところか。


「キッ──」


ゴブリンが一瞬呼吸した直後、創一が軽くゴブリン全員の手首を叩く。そのまま持っていた剣を遠くへ蹴り飛ばし、ゴブリンの武器が全てなくなった。


「ギッ────」


 目の前にいるのはよく分からない人間。だが、その姿は猛獣と比べて良いかどうかすらわからない程の荒々しい重圧。

 戦闘態勢を取りたいゴブリン。しかし目の前にいる人間に通じるのか?だが⋯⋯戦うしか選択肢は残されていない。


『ザッ⋯⋯ザッ』

 創一がゆっくりと数歩ずつ確実に向かっていく。

ゴブリン達はその場から動くことすら叶わず⋯⋯魔物のはずが──こめかみから汗が流れ始めた。


「お前達に一つ教えてやろう──俺が元いた所では⋯⋯そんな甘い斬り方じゃ死ぬぞ?」


「ケァ!」


言葉の後、ゴブリン達が創一を捉えながらそのまま後退りをしている。


'ゴブリン達が後退りしている……ビビっているのか?'

⋯⋯まぁいいだろう。さっきの奴もどうにかしてやらんといかんしな。


『ブォォ!』

創一がその場から一瞬でゴブリン達の目の前まで急加速し、両手をポケットに入れたまま回し蹴りでゴブリンの首へ狙って打ち込む。


「シッ!」

「ケ?」


気が抜けたようなゴブリンの呟き。

創一が放った回し蹴りの一発だけで首と胴体が泣き別れをし、緑色の血がポタポタと流れている。


『シャアアア⋯⋯』

そのすぐ後、創一がゴブリン全員に高速移動しながら回し蹴りを放ち、首だけがどこかへと飛んでいき、別れた胴体からはシャワーのように血が周りに飛び散っている。


「え?マジ?俺の蹴りそんな殺傷能力あったか?」


'ただの回し蹴りでこんな威力とは⋯⋯加減を覚えないとマズそうだ'

 創一は死体に近寄り、しっかり死亡確認してから悲鳴を上げた女性の元へと向かう。


「おい、大丈夫か?」


 創一がぶっきらぼうに手を差し伸べながら女性にそう声を掛けると、女性は創一を見ることなくその場でペタリと平伏するように指先から全てを汚い土にくっつけた。


「だ、大丈夫です!お助けて下さり⋯⋯ありがとうございます!」


 ボロボロの服に、謎の鎖。だが髪や肌はそこまで汚い訳ではない⋯⋯寧ろ綺麗だ。


「おいおい⋯⋯そんな畏まる必要無いだろ」


面倒くさそうに嘆息する創一。その様子を見た女性は不思議そうに創一を見上げていた。


「わ、私は奴隷ですので」

「は?奴隷?」


 明らかに不快の二文字を顔に浮かべながら女性を見下ろす創一。同時に、創一の空気が一変した事で⋯⋯女性の呼吸が荒くなっていた。


「ご、ご存知ないのですか?」

「あ?ああ⋯⋯あまりそういうのは、知らない所から来たんだ」


怠そうにそっぽを向きながら返事を返す創一。


'これは⋯⋯なんというか⋯⋯アルぅぅ。やってくれたな?テンプレ展開なんか作りやがって'

 異世界転移の定番みたいなイベントじゃないか。どうしてくれるんだ?この女性奴隷みたいだし、くそ。


「まぁ良い!とりあえず、安全な所に避難しよう」


 壊れた馬車、異様にデカく空いているクレーター。こんな所で休まるはずもない。

 創一はすぐにもう一度手を差し伸べながらそう女性に声を掛けると、その場から動こうとはせずに⋯⋯創一を見上げる。


「いえ、私はこのままで大丈夫ですので」

「え?いや⋯⋯ここは森の中だろ?安全な所に移動するのは当たり前じゃないか?」

「仰る通りですが、私は奴隷ですので」

「奴隷だから動かないと?」

「ご主人様に命令して頂かないと」


'おい、本気で言ってんのか?'

 おいおいまじかよ?こんなんじゃ、魔物がまた来たら一瞬で終わるじゃねぇか。助けた意味がまるでねぇじゃねぇかよ。


 数秒女性を上から見下ろした後、創一は不満を表しながら踵を返す。


'ここじゃ、どの道すぐ死ぬぞ?クソッ!'


「動けないんだな?」

「命令がなければ」

「そうか、分かった」


 創一は無の表情で他の場所に向かって数歩歩きだすと、背後から「この度は、助けていただきありがとうございました」と女性が土下座をしながら創一に言っている。


「気にするな、気まぐれだ」


それだけ女性に言い残して、気持ちをすぐに切り替えて探索しに行こうとした時。


「こんな所に居たのかセレーヌ!」

「は、はい⋯⋯」


さっきとは違ってボソボソと返事を返している。突然の事に驚いた創一は近くにあった木に屈みながら隠れた。


'思わず隠れてしまった'

創一が鼻息で苦笑いする。


それより、あれが奴隷の主か⋯⋯。


 話しているその男の身体はかなり肥えていて、キラキラ豪華なアクセサリーを身に纏っていて、如何にもと言える程成金臭のする男だった。


'なんか、えらく俺が嫌いなタイプの風貌をしてやがるな'

 身長はそんな無いが、どうやったらあんなに太れるんだ?まぁ簡単か。


そう心の内で呟きながら創一が立ち上がる。


'そんなのいいか'

一々気にしてたら疲れちまうよ。こっちに来てまだ一時間も経ってねぇんだから。


 木で隠れるのやめ、探索を始めようと足を進めたと同時、創一の脳内に思っていた言葉がよぎる。


'これでアイツも安⋯⋯全?'

⋯⋯ん?俺はいつから勘違いしていた?


歩き始めて5歩。創一はピタリと足を止めた。


'奴隷なんて言葉が使われてるんだ。少なくても待遇が良い訳あるのか?'


 創一は女性達の方へ顔を向けると、そこには予想通りといえばその通りの光景が映っていた。

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