第3話 レイアース上空 急降下



『ブォォォォォ!!』


「ちょっ!!!これはアル!恨むぞ!!」


 異世界に憧れの皆様──どうもこんにちは!ただいま神門、上空何千メートルか分からないところから急降下中であります!


'え?なんで口調変って?'

雰囲気だよ!主人公達皆がやってたろ?どうしても──やってみたかったんだよ!

 という訳でまだ雲しか見えないんだけど、そんな場合じゃねぇ!これは──久しぶりにこええぇええええ!!


 創一は雲ばかり映る高度を急降下中だったが、ものの数十秒後には視界が開け、真下には巨大な森林地帯が広がっていた。


'ていうか──パラシュート、安全装置無し'

創一は爆風の中、チラッと見える巨大な森を見つめ、すぐに一つの言葉が浮かんだ。


'⋯⋯え?出落ち?'

急降下で生じるブレス並みの爆風を浴びながら、必死に頭の中でこの状況について打開出来るモノはないかと創一は考えまくっていた。


'何か、この現状を打破するものは無いのか?'

身体能力で?馬鹿を言うな。逆にどうやったら身体能力で衝突を防ぐんだ。

'魔法?'

いや、使い方分からんし。


'⋯⋯駄目だ。風圧浴びすぎてそれどころじゃねぇ'

そうこうしている内に、完全に森がハッキリと映り始める。風圧のせいで目は開かないが、必死に両腕を使って目元を隠しながら下を見下ろす。


'やべぇ⋯⋯時間がねぇ!'

最初と違ってドンドン距離が分かるほど高度は下がっており、人間的な感覚では⋯⋯フリーフォール下りの時に感じるあの一気に近付くような感覚で森との距離がグングン近付いていく中、創一は必死にヒントを探していた。


'なんか⋯⋯なんかあったはず'

絶対に人生では味わう事がない経験をしている中、当の本人は異常●●な程冷静。目を瞑りながら今までの流れを思い出している。


──「異世界スター───」


'あっ⋯⋯'

感覚的に目をパッと心の中で開き、咄嗟にさっきの事を思い出してすぐにポケットに入っているスマホを触る。


'風圧が強過ぎて多分落とすぞこりゃ'

ポケットからスターターキットが入っているスマホを取り出そうとするが、あまりに強い風圧で落としそうになった創一は⋯⋯すぐに取り出す手を止め、頭を抱えた。


'意味ねぇじゃん!どうする〜!?'


『ブォォォ!!!』


「イッ!」


 ギリギリ見える瞳から入った情報から、恐らく地上から見上げた飛行機くらいの高度まで落ちていると創一は判断した。


'マジか⋯⋯⋯⋯魔法とか使えねぇまま新生活終わりかよ!'

風圧で変顔に近い創一の顔。しかしその変顔の中でもとびきり絶望しきった目つき。

時間にして後60秒もないだろう。


「くっ⋯⋯!!」


後数分の内に死ぬと判断して⋯⋯冷静に覚悟を決めようとした──その時だった。


『報告します』


'え?'

突然背後から耳元に近付いて話しかけられるような感覚がしてすぐに振り返る創一だが⋯⋯誰もいない──当たり前だ。


'今──どこから?'

でもこの急降下の中、あんなに鮮明に聞こえるものか?


創一がそう心の中で呟いたときだった。


『マスターを確認。ナビゲートを開始します』


'マスター?'

それよりも、今ナビゲートを始めるって言ったか?とりあえず何でもいい!これはありがてぇ⋯⋯うん!頼むよ!⋯⋯ナビさん!


『はい』

『現在地はムー大陸上空5000mです』


'⋯⋯⋯⋯うん!別に間違いじゃないよ?うん'

多分だが、スキルだからこちらの要望以上の事が出来ないとみた。


'ナビさん、ナビゲートとやらを始めて欲しい'

『承知しましたマスター

説明しますと、魔法はイメージです。

魔力を感じて飛ぶイメージを持てば、止まることは可能です』


無機質な音声案内を聞きながら創一は首を傾げた。


'え?そうなの?スキルとか職業は?'

確か⋯⋯アルが祝福だの?なんとか言ってたはずだから、イメージ●●●だけとなればスキルとか関係なくないか?


心の内でそう考えていた創一だが、すぐにナビからの返事が来る。


『仰る通り関係ありますが、適性がないとそれすら不可能です』


'あ、俺あるの?'

自分の適正とか魔法の属性とか何も知らんよ?


苦笑いでそう聞くと、『肯定します』とタイムラグなしにナビからそう返ってくる。


'うん⋯⋯分かった。とりあえずやるよ'

その場で頭の中で色々なイメージを始める創一。


『ヒュウ〜』

すると無意識に⋯⋯本人は気付かないが、身体の表面から魔力が具現化している。


そのまま創一は更に具体的なモノを思い浮かべた。


'分かりやすい方がいいな⋯⋯なら──飛行機のイメージでいいな'


「ふんッ!」


 飛行機のイメージをすると魔力の薄い膜が創一の身体を流れる水のような速度で覆い始めるが⋯⋯それと同時に、創一の瞳には、4段ジャンプしたくらいの高さまでしか高度が無く──マズイと気を張った。


'なんかもう森があるよ?激突するやつじゃんー!'


『ゴォォォンン!』


 創一がそう呟いた後に、数秒遅れてとてつもない衝撃波が辺り全域に広がっていった。

 森の全ての木々がグワングワンと揺れ、サイズが小さい木々は枝のような勢いでパキッと折れては倒れている。


 そしてその数分後、森の中に幅30m程の大きさをしているクレーターの中心から頭を掻きながら起き上がる一人の姿があった。


「ゴホッ!ゴホッ!」


 埃や砂で喉がおかしくなって、風邪の時のようなむせ方をしながら創一は周りを見渡した。

自分の立っている位置からかなり向こうまで綺麗なクレーターが出来上がっていることに気付いた創一。


そしてそれと同時に──自分が当たり前のように頭を掻いている事に気付いて慌ててその場で考え出した。


'⋯⋯ん?でもあれ?痛くない?'

創一は腕を組みながら冷静にそう心の内で呟くと、脳内に何かの声が響いてくる。


『報告します』


'⋯⋯ん?ナビさん?何の報告ですか?'


『マスターの身体を再生します』


'え?まじで?転移直後に死ぬの?'

上半身に入っている力を一気に脱力しながら地面にワザと倒れる創一。


'俺もう死ぬのか⋯⋯ありがとう異世界'


「GOODBYE⋯⋯異世界」


カッコつけながら空に向かってそう一言呟くと夢から覚めるように無機質な声が脳内に響いた。


『否定。マスターの魔力強度が、地面より多いため【スキル:鉄壁】を取得しました』


'ん?どういう事?ですか?ナビさん?'

寝っ転がりながら創一は、パチパチと何回も瞬きをしながら理解が追いつかない中ぼうっと空を見ながらナビに尋ねた。


『報告。マスター、鉄壁の取得条件が魔力障壁による防御度合い、又は回数により変わるため⋯⋯本来ならば取得出来ませんが、急降下の防御に全てのMPを消費した為、取得出来ました』


'え?そんなやばいことしてたの?不味くない?'

MPが足りなかったら⋯⋯普通に死んでたのか、不味いな。つまり、アレ本来ただの自殺願望者となんら変わりないって事だろ?危ねぇ〜⋯⋯⋯⋯


『しかしマスターの場合、現地の人よりイメージ能力が高いため⋯⋯全く問題ありません』


「あ、そうなのか⋯⋯。了解した!ナビさん!」


『報告。私との会話は、念じていただければ可能です。

声に出す必要はありません』


元気よくナビに言葉をかけた創一だったが、無機質なナビに指摘され、慌てながら口を手で塞いだ。


'あ、確かにさっきから頭で会話してたような⋯⋯まっ!切り替えていくか'


 気持ちを切り替え、寝ている状態で両手を地面に軽く触れてそのまま指先に力を少し入れながら跳ね起きる。そしてクレーターの現場から離れ、少し歩きながら冷静に自分の現状を考え出していた。



**

『パリッ⋯⋯』

落ち葉を踏んづける音が大きく響く。

あれから歩きだして数分。森の中をゆっくり歩きながら周りに何があるか一先ず確認しようと軽く散策していた。

 それと同時に──自分が現在何処にいてどういう状況なのか、スキルや魔法は何が使えるのかを同時に考えていた。


'クラスの奴らは俺と違って召喚されたってことか'

 両手をポケットに入れながら森の中を歩く創一。


 まぁアルの言い分だと、本来ならばここに居ない人間な訳だからクラスの奴らなんか気にしたって仕方ないか。⋯⋯まぁ、元々仲いい奴らなんてほとんどいないから関係ないか。


創一が「ハハッ」と引き攣りながらも一人⋯⋯苦笑いを浮かべながら独り言を続ける。


'にしても、アルの奴⋯⋯なんか俺の事を知っている口ぶりだったが、どこまで●●●●知っているんだ?'


'あの感じだと⋯⋯随分知っている感じだったが'


歩いている足を止める創一。


「まぁ今考えても仕方ないな」


'せっかく誰も知らない所に来たんだ'

前とは違って──ゆっくり⋯⋯のんびり、好き勝手に楽しんでいこうじゃないか。


すると創一はすぐにその場で脳内でやりたい事の妄想を始めたり、やりたいことを頭に浮かべるが⋯⋯すぐに正気に戻る。


'いやそれも有りだが、やっぱり闘いたいな!'

魔物?モンスターが存在しているこの世界●●では⋯⋯俺はどのぐらい強い方なんだ?それも確かめる必要はあるな。


「これでもしマジでゴミレベルで弱かったら──後で恥じゃ済まないレベルだしな」


一人クスッと恥ずかしそうに声を漏らしながらそのまま少し範囲を広げて探索を始めようと足を横に向けた時──イベントが発生した。


'よし探索を'


「きゃぁぁぁぁ!」


女性の大きな悲鳴が創一の耳に入る。

歩む足をすぐに止めて辺りを見回す創一。


'あ?何だこの声⋯⋯どっからだ?'


創一が見回しながらそう心の内で呟くと、脳内に無機質な声が響いた。


『報告します』


'おー!ナビさん!'


『現在ムー大陸、ラカゴの森に居ますが、500m先にて⋯⋯人族が襲われている模様です』


『案内しますか?』


'いやいいか'

ナビの音声が脳内に響いた後5秒程空き、創一は溜息をつきながら雲一つない快晴な空を見上げていた。

 そして何処か満足していない悲しみに溢れた微妙な表情をしている創一。


'俺には関係ないし、人間なんてのは⋯⋯助けた所でいつかは裏──'

心の内側で独り言呟く創一を遮り、追い打ちを掛けるように悲鳴が響き渡った。


「誰か助けてえええ!!」


さっきとは違って本気で死にかけている女性の声。すぐにそれを感じ、ゆっくり時間を掛けて瞼を閉じた。


'良いんだ、これで'

ゆっくり落ち着いた口調で無視を決め込む創一。


 意味なんかない。お礼を言われて、次もあるだろうと勝手に期待されて、勝手に失望される⋯⋯そんな事は分かりきってる──


「⋯⋯⋯⋯!!!!」


 落ち着いている表情とは裏腹に、両手は握り込んでおり、『ぎゅううう』と驚くほど異常に力が入っていた。

そして更に数秒。深呼吸に近い溜息をつきながら創一の顔は怒りに満ち、足は勝手に声の方向へと踏み出していた。


'くそが!!!!'

仕方ねぇ。これで最後だ──とりあえず、一回位は助けたって良いだろ。


「すまないナビさん──案内を始めてくれ」


そう言いながら声の方向へ全速力で走り出す。


『承知しました。案内を開始します』


走りながらナビの案内従って、創一は声の方へと向かった。

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