第2話 マイフレンド創一さん!
「ゴホン!という訳で神門さん⋯⋯何か要望はありますか?」
女神が丸めた拳を口元にわざと当てながら創一を見つめている。
あれから約10分後、創一と自称女神様の空気はすっかり元通り(嘘)になり、白い空間の中での静寂な空気から脱出する為──女神が話を進めていた。
「というのは?」
「はい!レイアースの世界には、職業とスキルが存在しています!⋯⋯ん〜、職業とスキルで戦う⋯⋯簡単に言うと、神門さんの知識でいう所のゲームですね!」
「なるほど?」
何か思いついたのか、腕を組みながら思考を巡らせている。だがそんな中、女神はお構いなしに話し続けた。
「他の皆さんのは、とりあえず私がぺぺー!って設定したのですが、折角なので神門さんには──自身の要望があれば叶えてあげようと思いまして!」
「良いのか?他の奴らは選べないんだろう?」
首を傾げながらそう女神に返すと「そうなんですけどねぇ〜」と悲壮感漂う雰囲気で溜息をついている。そして数秒、女神は別人のようにハキハキと話し始める。
「まぁ、事情がそのくらい大きいということですね!実は他にもあるんですけどね〜。後、ペぺっとというのは⋯⋯地球で過ごした中で身につけた知識や運動能力が、
女神の説明を聞いていた創一が明らかに嬉しそうに笑う。
'そりゃ有り難い'
あっちでは色々頑張ったもんな〜。これなら問題なく異世界生活を始められそうだな。
「おー!てことはあまり困らなさそうだな!元いた体で動けるのか。なるほど⋯⋯」
「そういうことですね!さぁ──!神門創一さん。どのようなものを要求をしますか?」
女神が創一に向かって、わくわくとドヤが交じっている笑みを向けながら今か今かと待っている。対して創一は冷静に視線を斜め上に向けながら少し考えている。
'何が正解なのだろうか⋯⋯'
これから転生?転移する世界で一生を過ごすのであれば⋯⋯『成長限界突破』とか、『魔法適正・全』みたいなのを選びたい所だが、下手に強すぎるものをねだると、後が大変そうだ。
となれば──
「そうだな⋯⋯職業、スキルとかは向こうで変えたり出来るのか?取得は可能か?」
「スキルはある程度は可能ですが、職業は祝福によって決まっています」
'なるほど'
創一が納得した様に自分の脳内世界に戻り、更に思考を巡らせる。
「やはりそうか⋯⋯であれば転職制限を無くすものと、全スキルの取得を可能にしたい。
だが、かと言って最初から貰いたい訳じゃなくて、条件を設定し、それをクリアすれば可能というのであればどうだ?あくまで全部取るつもりはないが、
流石に全部くださいなんて死んでも言えん。例えば、もし魔法が使えたとする。だがそれをコントロールする能力が別途で必要な場合。魔法、またはそれに似たようなものというのは、動かす精度と力のコントロールがモノを言うものだ。⋯⋯これは他の武器スキルだって同じだ。
今必要なのは──レアスキルなんて度外視──小さいスキルを集めて、"これが使えない"という状況を無くしたいこの一点だ。
事情⋯⋯だなんて言ってくれているのなら通ると思っていた創一。
⋯⋯しかし、女神は予想外の反応を見せた。
「んー〜⋯⋯⋯⋯
可愛く腕を組みながら「ん〜」と一生懸命悩んている様子の女神。
'さっきから何か引っかかるな'
⋯⋯まぁしかし良い。
疑問が頭の中に残っていたが、半分無茶を言っている自覚もあった為、改善策を口にしようとしていた。
「まあ事情が事情ですので、いいでしょう!後は何かありますか?」
当たり前のようにそう聞いてくる女神に「え?」と苦笑いで首を傾げた。
「まだいいのか?無茶な事を言ってる自覚はあるんだが⋯⋯女神様をあまり困らせたくはないと思っているが」
「いや?
'さっきから何なんだ?'
女神が創一ならという時の表情が、何処か寂しげ。
悲哀に満ちた瞳、まるで俺に謝っているとすら感じる悲壮感漂う振る舞い。哀愁すら見える姿。
俺と
「なんだ?その言い方?まるで俺ならなんでもいいように聞こえるが?」
「あーいえ!まぁ⋯⋯女神にも色々あるんですよ」
創一は引っかかってはいたが、あまりに申し訳無さそうにする女神に追求することをやめていた。
──そしてそのまま話は進む。
「まぁそれは有難い。であれば、鑑定スキルなんかは貰えるか?あと資金だな」
創一の堅すぎる要望に女神は大きく溜息をつく。
「なんか要望が現実的ですね⋯⋯他の方々は「勇者ー!」とかなんとか叫んでる変人と何でもいいと仰る頭が悪い人達が主に言ってましたが」
心底呆れた様子で肩を窄め、訳わからんとPCのウインドウのようなモノが幾つも女神の周囲に突如として現れ、人間離れした手付きと目線の動きを見せる。
「こっちも知らない土地、知らない価値観で行くんだ。そんなイキリたいわけじゃないからな。その辺の教養がないとな?」
優しく微笑みながらそう話す創一。
女神もうんうんと数回頷きながら何か入力している。
「まぁそうですね!よしっ!そうしたら神門さん!異世界スターターキットを授けましょう!」
「意味はわかるが、それであんたは困らないのか?」
女神がピッピッ!と入力しながらそう元気よく声に出した。だが、創一は既に色々やって貰っている手前──少し申し訳なさそうに尋ねた。
「はい!言語理解に鑑定、多少資金、ナビゲート、偽装も付いてなんとお値段いちまんごせん⋯⋯」
「ぷふ!それどっかの──たかたさんかよ!」
指を差しながら豪快に笑う。そしてツボに入った創一が10秒程経ってやっと普通の状態に戻った。
だがその時──
「随分久しぶりに笑いましたね?神門さん?」
女神は全てお見通し──そう言うように笑顔で言ってきた。
創一も思わずそう言い放つ女神に対して美しいと内心思いながらその真っ直ぐな瞳を見つめ返す。
'なんだ⋯⋯ちゃんと女神じゃないか'
創一が安心を含み、鼻で笑う。
「が、別に笑わない人間ではないぞ?」
「いいえ地球での
これから貴方をお送りするレイアースでは、心から笑い、心から信頼、信用できる人を
女神は女神らしく全てを読んでいるらしい。
「──ッ!!」
見られたく、読まれたくない部分を知られた創一はつい反射的に神に対して睨みそうになってしまった。
だが反対に女神は穏やかに、すべてを包み込むようなオーラを創一に向けている。
「それでいいんですよ。そんなに自分を抑えつけなくてもいいんですよ」
「流石は女神様って所か?」
女神の話に創一が「はっ⋯⋯」と反抗期の子供のようにそっぽを向きながら目線をそらす。
「私も女神になってから長いですからね!お?そろそろ時間ですが、最終確認は大丈夫ですか?」
そう言いながらウインドウに目を向けながら創一に質問している。
数秒溜め、創一が口を開いた。
「いや、ひとつ忘れた──女神様?あんたの名前は?」
「アルテミスです」
丁寧な口調で返事をすると、創一がにこやかに笑いながら綺麗なアルテミスの瞳を見つめる。
「アルテミスさんあんたと
「ッ⋯⋯!!そう⋯⋯ですか」
明らかに動揺ししどろもどろになりながら慌てるアルテミスに違和感を覚えた創一が、機嫌を伺うように尋ねる。
「ん?なんか悪いこと言ったか?嫌なら別に」
「⋯⋯!!?いえいえ!こちらこそ嬉しいですよ?イケメン男子にそんなこと言って貰えるなんて」
アルテミスの瞳が一瞬辛そうに見えたが、瞬き1回した時にはすぐに笑顔に戻って、創一に言葉を返していた。
'やけになんか急いでないか?まぁいいか⋯⋯'
創一がそのまま待っていると、入力を終えたであろうアルテミスが1回胸の前で綺麗に拍手をし、口を開く。
「そんなマイフレンド創一さん!私の女神パワーを加えといたから、レイアースの生活楽しんで!」
「ああ!アルありがとう!」
創一は綺麗な角度で深くお辞儀をアルテミスに見せた。
'一体いつぶりだろうか?まともに人に頭を下げるのは⋯⋯'
創一は感慨深そうににこやかに笑いながらアルテミスにそう言うと、アルテミスが大慌てで両手を振っている。
「え!?もう名前呼び!?これだからイケメンはぁ!」
「マズイのか?ならやめるが⋯⋯」
「⋯⋯ッ、もう良いです!時間がありませんから。それではマイフレンド創一さん!最後になりますが、スターターキットはスマホ式なので──くれぐれも気をつけてください!」
「まぁ現地で確認するよ!アル!行ってくる」
創一の身体をキラキラ輝く黄金の光が包み込み、花火のように速い速度で天へ打ち上がった。
そうして神門創一は光となり、レイアースに消えていった⋯⋯。
1人になったアルテミスは、感慨深い?いや、辛い?なんとも言えない絶妙な目つきで⋯⋯そこから見える綺麗な 地球を眺めていた。
そして数秒置いたあと、
「随分と懐かしい言葉ですね
深呼吸をしながら地球を眺め、ボソッと何かを思い出しながら呟くアルテミス。
「さっ!まだまだ仕事は残ってるし行きましょう⋯⋯」
アルテミスが立ち上がって女神の間から出ようとした時⋯⋯ふと思い出す。
「もしかしたらパワー込めすぎかも!?ま、まぁいいでしょ⋯⋯バレなきゃ⋯⋯」
無かったことにしようとそう呟き、この後の処理について考えながら女神の間から出ていくアルテミスだった。
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