第17話

痙攣止めを打ちますね。それだけで十分だった。


最後の注射が、実は痙攣していたノエの身体。首か、脚か、うなじか。腹か。どこにどれだけ打たれてきたか危険な娘の思い出では、断定できない。わかるのも、知っているのも、獣医と奥さんだけだ。


今夜が山ですね


そんな言葉を2回心で繰り返しすぐに飼い主の1人である、危険な娘は診察室で泣き出した。メガネに涙がつく。声は出せない。喉が膨らむ様に圧迫される。何にも叫んでいないのに、嗚咽も何も漏らしていないのに。マスクの下で口を八の字の様にし、声を堪える。今夜が山という言葉は知っている。聞いたことがドラマである。でもわからない。やまとはなんだろう。今夜が相棒の命が途絶える日だ。

診察室から、ありがとうございましたと、ノエの一生分の年数分の重みが乗っかる様に告げた。泣きながら診察室を出る。泣きながら会計を待つ。泣きながら奥さんと話す泣きながら涙で前の見えないまま財布から10000円だす。泣きながらお釣りと奥さんが来るのを待つ。泣きながら動物病院を、痙攣のおさまったノエと出る。抱えてもいいし、みぎてにさげてもいい。涙が少し引っ込んで、平然と見える様に五分家まで曲がったり真っ直ぐ歩いたりをする。

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