第16話
2022年。脳病に陥った危険な娘にはやはり月日の順序があいまいになる。
しかし、8月10日。ノエはゲージ内のオシッコシートが敷かれた、お道具箱の中で四肢のときには、片手、まえ、うしろ、ひだり、みぎを振っていた。
過ごしやすいようにビリビリと噛みちぎったオシッコシートの上で、時に足踏みし折りたたんでシートの意味をなさなくしたお道具箱トイレの中で。
猫砂を掻く力も自分を毛繕いする気力もとっくになくなっていた。2022年8月10日。
ぐったりと20分。その調子だ。お金がなくて、月曜の抗生物質、注射、させてあげられなかったな。
抗生物質のせいでこの状態なわけではない。
危険な娘はお菓子の缶缶から10000円を取り出し、財布に詰め、持ち運び用猫用キャリーケースにお道具箱ごと、ぐったりピクピク四肢を交互に振る、1匹の猫を仕舞うように、そっと、入れて、抱えて運んでやる。
危険な娘は車の運転ができない。だからまた鼻の先の動物病院に歩いていつもかよう。5分後。受付で診察券を渡しながら、用意していた言葉を言う。
あのぅ、ノエの様子がオカシイんです。
すぐに診てもらい、
ああ!
と嬉しそうな医師の声が響く。これはもう手の施し様がない、
末期の状態です。
今夜が山場ですね。
獣医の奥さんの、責める様な視線が夫である獣医に向けられる。
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