第15話

たくさんのよだれが粘度を持ってた垂れ、手脚を濡らし、口の中は口内炎だらけで炎症を起こし、出血している。手脚はよだれにかぶれ、あるいは何かの菌なのか、そこでもかぶれが出て血でかさぶただらけの、毛の禿げた素肌の露見した肉のない骨に肉を貼り付けただけの様な棒となる。自慢で最高だった背中のブチと白いシミ、覆う肌色は体痩せたことで縮み、模様を変えた。ふわふわの立派な力強い鍵尻尾は、骨格表にやはり皮と毛を貼り付けコツコツの長いバールになった。目は、輝きを失い、常に半目の状態になった。活力を見せるのは、ちゅーるをあげる時だけだ。


それでも、ネットでは3年、朝からのプリントでは。5年から7年、生きていく。一緒にいられる。配膳を区別するのも慣れてきたと。引きこもりの危険な娘は猫エイズになった飼い猫を見ながら思う。


病気わかってから記憶を整理した。

実は悪い物を食べて急激に痩せたのは2022年、6月。感染症の申告を受けたのは2022年12月。


そして月日は流れ。夏が来た。どこまで一緒にいられるかなんてもう浮かんでこなくなった。なんせあと4年か5年はいられる。この状態をキープして、あとはサバトラが発症しない様にするだけ。キャリア、という言葉の意味を念頭に置き。危険な娘はそれぞれの猫を触るたび手を念のため洗うという習慣を身につけた。体液で移る。これが大事だ。


たまにゲージから出してやる。時には毎日。

特に理由もなく香箱座りをしてから、ノエは沢へ向かう。道路を横切ったり、門柱に飛び乗って眠ることはしなくなった。もうジャンプもしんどいらしい。他の猫と遭遇して病気をうつさないように、無職の危険な娘は、いざという時のための猫用キャリーケース、ノエ専用を抱えながら。沢への散歩に付き合う。


ノエは必ず用水路が広がる最後までの道までかっくんかっくんとおなじみの歩き方、小走り方で、散歩する。なぜか。散歩が気持ちいいからだ。外が好きだからだ。家の中は寒い。つくしの生えた沢も、凍った水が溶け流れ出した沢も、オオイヌノフグリみたいなとんでもない名前の花が咲いた沢も、あの忌々しいだろう病気になった日から。


ふと忌々しいと思ったことがないことに危険な娘は思い当たる。看護したいのが当たり前。お金がないのも当たり前。うつさないようにする努力も当たり前。


ノエがこの病気にかかったからといって忌々しいとと思ったこと。


それは臭いよだれのせいでノエが嫌われ始めそうになった時。よだれが忌々しい。


ノエはどうだろう。ぼくは病気なんだ。うっかりサバトラを気まぐれにグルーミングしてもいけないんだと、忌々しく、空しく、ゲージを憎んでいるだろうか。


ゲージは縦型で、ジャンプできる板が2枚ついていいる。


私が組み立てた。


と、危険な娘は誇りに思う。買ったのは母だけど。

そう考えるのも、ノエと沢で気分転換できる効能だ。


もっと散歩させてやりたいけれど、団地の前と、駐車場と沢だけ。ノエにはもうそこだけだった。

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