第14話
一番多いのはケンカです。
獣医はノエの体を触診しながら、医師の奥さんは分厚いミトンを腕にし夫を補助しながら診断は下った。
えっ!と叫びたかったかもしれない。ただ、徐々に納得が飼い主たち。母と危険な娘の心に広がり沈む。
もしかしたら盛りのついたオスにメスと間違われたのでは、とその後に続く医師の説明に、娘は全て悪い方に全部想像しておいた。
この子のよだれ、体液などで他の猫へも感染します。
サバトラも危ない!飼い主たちはおもう。
オレはたまに痛いことしてくる奴らにうまいこと固定され、撫でられ、なんとか静かにしている。
よだれ。そう、よだれも大量に独特の臭気を放って、今後垂れ流しになり。
布団はや毛布は匂いが取れず香り付き柔軟剤でなんとかよく洗われることになり続ける。
サバトラとのご飯は別になり、あとからノエ専用の大型10,000円のゲージが用意されることとなる。
危険な娘は、この時脳病により頭の中で職場の人間にあんらくし、安楽死、安楽死とつぶやかれ続け。オレを安楽死に向かわせようとするが。
それまでに、オレはこの危険な娘の。
治療費のおかげで最高に痛い抗生物質を2週間に1回ちくちくされることになる。
この個体では現段階ではこの間隔で抗生物質うつのが合ってます。
治療はたまに、母が払ってきた。今までの危険な娘達が働けない年齢の時はずっと母が去勢、避妊費用を払ってきた。だが、家計の苦しさを知っている。今度は危険な娘の番だ。危険な娘は脳病で障害年金を貰っていた。月々家に入れるお金や国民健康保険料、免除にするか迷っている国民年金基金を払っていれば手元には30000万ほど残る。それを使えばいい。それに危険な娘には、他の家族がどう思っているかわからないが、ある時代の変化か、それとも外猫と家猫。大事にしている、していないのに差別化になってしまうのか。とある疑念から、確信へと変わる心情を持っていた。危険な娘は質問した。驚くべきことにおずおずと。
あの、家に子供、姪と甥が来るんです。何か気をつけることはありますか?
いえ、猫間だけでのことです。
無表情にノエも獣医も触診がなされ、奥さんの滲み出る、幾度も見てきた、という心情だけが危険な娘の心に流れてくる。
いえに、もう1匹いるんです。うつらないように、かくり、したほうが、いいですか?
ノアをだ。とうぜん、そうなる。
そうですね、
医師はそこでやっと身動きし前屈みになり宙へ目を向けて、上の方を見る。
動物病院だからか、この2人がマスクをしているところをとんとみたことがない、と危険な娘は他の人間の病院と比べながら思っていた。獣医が喋り出す。
とある家で6匹ちゅう、3匹感染していたことも、事例もあるんで、やったほうがいいでしょう。
ノエが自由に家の中を歩けなくなる。
想像し難いことだった。
もうノエは落ち着いた。歯向かって噛もうともしない。借りてきた猫よりずっと堂々と緑色の診察台のうえで寝そべる。痩身で、しかし痛々しさを感じない生命力と、6月からの食欲、そして、今まで感染症、しかもエイズと闘病してくれていたのだと飼い主たちに印象づけながら。
危険な娘はだいぶ遅れてスマホを持ち、また注意深くアプリをダウンロードする人間でTwitterにも、 YouTubeにもTikTokでも何もかも学ぶのも知るのも活用するのも遅い人間だった。つなまよ。もちまる。ネチコヤン。ネココ。そして、ノエが猫エイズに感染していると知る前から、危険な娘は1つ目の可能性、2つ目の可能性、3つ目の可能性。4つ目の可能性まで視野に入れ、ある日Twitterを見ながら。
あれはいつだったか。2017年のことより少し後。その時はニュースを見ていただけで気づかなかったが。2018、2019とたつうち。そして可能性の1つにはその前から。危険な娘は楓や白いぽやぽやを思って、夜中にティッシュを何枚もゴミ箱に入れ水分がなくなればまた鼻水と涙が溢れ、どうして自分は気づかなかったのだ。いまだってあのハローキティのぬいぐるみの、いえは!!と今後の人生で疑問、そしていなくなった猫たちの行方を案じながら、何度でも泣く。
獣医からプリントをもらい、抗生物質の頼もしさを信じながら飼い主たちはノエの入ったゲームをまた帰宅し、もう、悲しみが何かわからず、これは悲しんでいいことなのか分からず、同居猫に報告した。
一方でプリントには2枠のおおきな区切り。
白血病と猫エイズ。猫エイズの方に獣医の施した丸がある。そして、いまある症状にもつけられた丸。
口内炎。そして膀胱炎。
口内炎は徐々にひどくなり、物を食べるのも辛そうで痛そうだったので危険な娘はちゅーるを大量に買い込んだ。お得パックの箱入り1,000えんくらい。母は小粒のシーバや懐石や歯で病みたくなるくらい美味しそうな味のするものから丸呑みしていいものまで。とにかくあらゆる種類の餌を。猫餌を。
ご飯を。惜しげもなく振る舞うことになる。
危険な娘の障害年金は1ヶ月60000くらい。
国民健康保険料と、払わないか払おうか迷っている国民年金基金、そして家に入れる10,000円。
残り30000。そのなかからノエの診察代を出す。
1回3840円。きっと他の動物病院より安い。しかし、週に2回、時に4回。
お金が。きついのだ。しかし、ただでさえ後悔と、楓とぽやぽやが消えたさまざまな要因を考えていた危険な娘はなんとか恥をかきながらも。
あの。月に1回とかって、できますか。抗生物質。
恥ではないただ、その後の獣医の言葉に危険な娘は恥いった。
個体によって間隔はさまざまですが、この子の症状といまのこの現状だと、この間隔がベストですね。
いろんな、何匹もの、うちですら7匹は、途中で家出したナオトインティライミも入れれば8匹。何匹もの命を救い、看取らせて、それでいて救えないものも見てきたに決まっている医師の言葉に、責めは無かった。ただ、感情労働を行う物特有の憤り手前の心を感じた気がした。
はい。すみません。じゃあ、おねがいします。
ちくちく。
抗生物質が今週も、今回も打たれる。
オレをちくちくの場所へ、オレが沢に向かいたいおもいに似た使命を持って、危険な娘は連れて行っているのだ。
探している。でも、もう2度と戻らないのを知っている。だからできることは。
オレにとっては沢のパトロール。
危険な娘にとっては猫エイズの飼い猫を長生きさせるのか、抗生物質ってそういうものじゃないってわかってる。でも少しでも、健康に近い状態で一緒にいたい。
も1つおまけに危険な娘は恥をかく。
あの、ネットだと寿命にばらつきがあって、あとなんねん、怒られそうですか。
獣医が感情労働の声音でまた、今度は強く聞く。
プリントに書いてなかったですか?
5、年から7年とありました。
ではそうです。
医師はまるで大仏のように、斜め前を見て、しかし怒った様に応えた。この人は、何匹の子宮や精巣をとってきたんだろう。去勢手術はどこを取るのかよくわからない。ナオトインティライミのときは2回目の妊娠が来てしまい、銀のボウルの中の、赤い幕に入った子猫ごと母に見せてきた。
やっぱり妊娠してましたね。3匹です。白黒のが3匹で、ここまでが1体。ここまでが、こう。あとはここにもう1匹。
母はその日、午後から仕事に行き。
ナオトインティライミはすっかりうちで飼うつもりだったのに、手術の後、川沿いの家に居候をし出したらしく。その後はまたどこかへ流れたらしい。
ナオトインティライミは大丈夫な気がする。もともとどこかで飼われていて、人に慣れていたのだろう。ただ、楓と仲良くしてくれるのは複雑だった。ノエの嫁と、浮気相手がくっついてあたたまり寝ている様ではないか。仲良きことは美しい。ナオトインティライミは自分の子が車に轢かれ、手術を受けた後我が家から旅立った。別れがしっかりした脚本ではないけれど。野良猫らしかった。
やがて月日はたち、2022年。8月10日。全ての記録はGoogleフォトに刻まれ、危険な娘は写真を印刷していた。この家の猫たちの記録を知らず知らずとり、また若い頃にハマったアプリで、楓とぽやぽやは自分のせいで死んだのではと苦しむ。
危険な娘は、のちにで最終回あたり。
全ての可能性を語りたいと覚悟している。
サバトラの後じゃないとちゅーるがもらえなくなった。先にオレの皿に出すと食い意地の張ったサバトラはそれを舐めてしまう可能性がある。唾液も舐めてしまう可能性もあるため、危険な娘は皿のじゃばじゃばを何度もした。水も新しいのが唾液が入るたびなんどもかわった。よだれが尾を引きオレははこの中。
だから危険な娘は申し訳なく思いながらも。
ノエを二番手にしてちゅーるをサバトラに先にあげ続けた。
ゲージの扉にも開け閉めにも気をつけながら。
おれにおまたせ、を言う。
「なッ」
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