第12話
喉がやかれた。こえが、出せない。出したくない。毎日窓から外を見た。窓が開く。扉が開く。
かならず沢に行く。ゆっくり歩いて。背中にいいてんきのぬくもりをかんじながら。
晴天の日も。曇天の日も。
時が経ち。
オレの声は少しだけ戻った。「なッ」とだけ声が発することができるようになっていた。
その頃にはやんちゃのサバトラと、2匹で互いにあまり干渉しない。言葉のいらない同居猫のような間柄だった。
こいつも子孫を残さずに去勢された。これっぽっちも気にしない様子で毎日おれの10倍は鳴く。
父が耐えられずサバトラを外に追い出す。オレは図体の割に寒くて飼い主たちの体の上やもうふで丸くなる。
「なッ」
「なッ」
オレの声に、人間は、変化に気づかない。唯一、喉や健康を気遣い、危険な娘がチュールをくれる。それもサバトラより先に。あれはうまい。毎日食べたい。
危険な娘は、やはり危険思想持ち主で、生理前などはサバトラの耳をハサミでジョキジョキして、切り落としてやろうと考えてしまう。
そんな時は決まって
さばちゃんは可愛い!!特に耳がたまらないっ
と唱えて、なんとか己を律していた。
父親に言ってもらえたらしい。
やさしいからだいじょぶだ。
優しい。危ない娘は優しい。母と一緒に楓を用水路や駐車場、そして沢まで探した。
お前はやさしいからだいじょうぶた。
1人ではもう危ない娘は猫を飼えないだろう。
でも今この瞬間だけは、この時代、今この時だけ。
おれとサバトラと過ごせると心に刻んだ。
2022年、6月。おれは食事が取れず古木のように硬く、軽く足も皮を被った骨のようになるまで痩せた。
食事が取れない。
3日たってから嫌いな場所に連れて行かれた。
悪いものでも食べたのかもしれませんね。除草剤の撒かれた雑草や、道に落ちているものを。
その日は点滴で暴れ、そもそも唸り続けてひたすら蛇のような威嚇を繰り返し。
自宅に帰ると。キャットフードカリカリと食べた。
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