第10話

あの日も、駐車場で日向ぼっこをしていた猫たち全員。当時は七匹。ぽやぽやは二日前に家出したとみなされていた。


駐車場に大きめの車が来た。


男が出てくる。


様子を伺うものもいれば、車が来ただけで小走りして逃げたやつ、全く動じない奴もいる。


でも、さすがにおれは男が出てきた時団地の裏手へかっくんかっくんと向かった。楓は美しく座った状態で男を見ている。


男が車の大きなトランクを開けた。

何匹かの猫が1匹ずつゲージにしまわれ、あるものは鳴き喚き暴れ、あるものは座り、あるゲージは中型の犬が入れそうなほどの大きさに、一匹の猫。


楓という三毛猫は警戒心を抱かない。


男は身動きしない三毛猫に目をつけ、両手を三毛猫の脇腹に差し込み持ち上げた。三毛猫はなんでもないというように掲げられている。脚はつんと揃えている。


男は楓の特性を判断し、すでに一匹入れられた大型のゲージの上蓋を開け、楓を朝から滑りいれる、と。


たちまち中にいた方が楓にシャアと威嚇しすると爪でしがみついた、楓は初めて他の猫から向けられた嫌悪に嫉妬で立ち向かい、ゲージの中でニ匹がもんどりうち、白昼の団地の駐車場が騒がしくなる。


男は焦っていた。そしてゲージの揺れに釣られて上蓋が開き、それを閉めようと抱えていたゲージを片手で支え、片手で上蓋に手をやった時。


底が猫どもの決死の闘争に耐えれず抜ける。


先に弾丸のように飛び出したのは楓だった。

楓は弾丸楓と呼ばれるくらいに素早い。

一気に近所の沢へと向かう。


オレは団地の裏手から見守りながら喉を膨らませるようにオモウ。


逃げろ、どこまでも捕まらない、二度と捕まらない場所へ。いたいことされない場所へ。他のオスに傷つけられないようにうんと遠くへ!!!!!

心が叫ぶ。喉が熱い。たくさんの毛玉が風に飛び散り、中にいた猫は出遅れてまたゲージに放り込まれた。日差しの中、ふとあのいなくなった白いぽやぽやも、楓につづいて拙い走りでにげていった、そう感じた。


車は5、6匹の猫を閉じ込めた状態で男の運転する方角へと向かっていく。

身構えて警戒していた猫や、腹の大きい猫のすがたも、妙にオレの色変わりする珍しい目に焼きついて。



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