第5話

ああおーん。

ああおーん。


ふたりで盛りで鳴きあった、楓がうちに来て半年くらい経ったころか。手術を受けたオレたちは、付かず離れずの距離の、静かな夫婦になった。

2013年。それまで、ふたりしてお互い好きな時に互いの額を舐め合った。すれ違う時。初めて雪が積もった外を見ながらキャットタワーでくつろぐとき。

夏のたまたま、廊下でだるくふたりでつめたい床で寝そべった時。ぺろり。べらり。


このざらざらはそのためにある。


たまにたまに、お互いの額だけを舐め合った。


その頃、またしてもこの家に猫が来た。


皮膚は真カビで毛は、はげ。ちょこちょこ残ったところの色は白と黒びた皮膚。こいつはちょこちょこ鳴くやつだったが、先住の者を刺激しないようにちょっとずつ静かになった。


楓以外はそうやって、人間と他の猫を刺激しないよう鳴かなくなって。あるいは鳴く必要がなくなっていったのだ。

調律ができていた。


もっとやんちゃ2匹のオスは、たまにじゃれ合いながらお互い短い悲鳴をあげて遊んでいた。


そんなことより、幸せな時間があった。楓が縦に隣で猫の、箱の、座り方をする。


香箱座りだ。


オレもそうしている。真似し合っているわけではない。楓がこちらを向いてまばたきをする。おれはすぐに額にグルーミング(毛繕い)をする。


あの日。といっても覚えていない。


ドラッグストアの横で目見えずに片足もかっくんかっくんで歩いて鳴いていた頃から、カッコ「母」に

拾われるまで。


覚えているわけじゃない。

ただ。


今があるだけだ。寄り添う。

自分より小ぶりな、細身の、人懐っこい三毛猫と。

その子に6匹の家族猫の中から、たったひとり、

選んでもらえて。

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