第4話

こんなにいるのにまだ増やすのか、とは誰も言えなかった。誰もそいつをいじめない。


オレもそいつの匂いを嗅ぎにいく。目を見る。

見つめて。通り過ぎた。


三毛猫は子猫なのに鳴かなかった。かけっこもしない。それなのに。


楓ちゃんはいい子ね。

はなが小鼻で美人!

見て、こんなに細くて軽い。


月日が経つたび三毛猫は美しい猫に成長していた。その頃にはなんともう2匹、やんちゃ坊主が増えていて、特に上のヤンチャが三毛猫、楓にじゃれ始めた時はよく止めたものだ。三毛猫は喋らない。

いつもかるく顎を引いて、お行儀良く、人懐っこく、飼い主達に甘えていた。

もともといたうちの1匹が嫉妬して頭突きにくるくらいだ。


オレは、ぼくは、三毛猫の隣に並ぶことを選んだ。

二人して去勢と避妊をされる前、オレは初めて三毛猫、楓の声を聞くことができた。


盛りのついた猫。それもとびきり珍しい柄をした2匹の子猫が見たくないわけではない、飼い主はしかし、これ以上猫を増やすわけには行かず、愛をあまく吼える猫のメスの方を檻に入れ、翌日動物病院へ行くこととなった。その間中、オスのノエは檻に齧り付くようにひっつき、メスの楓は恋人に会う虜囚のように、柵へ縋りついていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る