第2話

名前が決まる。

家の前の駐車場にNOAHという車が停まっていたのだ。ノアの方舟。しかし、いささか仰々しい。


ぼくの、なまえは、ノエ。


ノエに決まった。Noah。その名を僕が死んだ時、飼い主はこの先の人生、何百回も思い出し、そうしては泣くことになる。感謝は後で。初めは後悔で。あるいは先に感謝が訪れるのかもしれないが、何度でも涙ぐみ嗚咽する。


娘は限界だった。

そしてぼくを殺そうとした。


滑りいい銀の道の上。

ただ繊維のような小さい爪を流し台に立て、必死に四肢を突っ張り、子猫は立つ。

そして鳴き続けていた。なんだにゃあ、なんなんだにゃあ。娘には子猫の言っていることがそうとしか思えない。しかし、必死に開かれら口の中の小さな歯、ざらざらを得る前の、柔らかい、あるいは噛み砕いた小さなご飯を食べるための舌の具合。やっと開いためやにだらけのを取り除いた目。


必死に生きている。


なにが娘を、悲しませたのかはわからない。

しかし娘は猫をシンクの横の、まな板を置くスペースから抱いて下ろし、そっとした。

後にノエと名付けたのはこの娘で。


14年後、看取るのも、この娘だった。

なんせ家にずっといるのだから。

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