炎槍使いと呪いの魔術師

 俺は縮地を使っておっさんへと肉薄し斬撃を放つ。

 対するおっさんは短槍で大太刀を受け、長槍でカウンターを放った。

 顔面に向けて放たれた突きを首だけで避ける。その時にはすでにおっさんは魔術式を記述していた。記述速度が凄まじく速い。


 現れるは五本の炎槍。それが絶え間なく襲いかかってくる。


 ……ならこっちも!


 俺は闇で五本の黒刀を作り出した。炎槍の相手は黒刀に任せる。


 ……さすがだな。


 おっさんの戦闘技術には舌を巻く思いだ。

 懐に入られたら弱いという長槍のデメリットを短槍と炎槍が補っている。

 加えて魔術だ。魔術式の記述速度もさることながら放つタイミングも絶妙だ。

 攻撃と攻撃の隙間に数種類もの火魔術を放ってくる。


 ……参考にさせてもらおうか。


 俺は闇を二つに分ける。小回りのきく二刀へと。

 刀で槍を弾いた後の空隙に闇から短刀を作り出して射出する。


「くっ!」


 おっさんが上半身を捻って短刀をかわす。本当に中衛なのかと疑いたくなるような反応速度だ。

 俺は一歩踏み込み、刀を振るう。念のため刃は潰しておく。しかしそれは杞憂に終わった。


 おっさんは躊躇なく槍を手放すと、右手で指を鳴らして左脚の踵で地面を打ち据えた。


 ……簡易魔術か!


 俺は即座に体を引く。

 すると目の前で火花が散った。即座に闇を展開し発生した爆炎を防ぐ。

 視界が晴れた先におっさんはいなかった。代わりに背後から殺気がした。

 咄嗟に縮地を使い距離を取ろうとしたが、発動した簡易魔術は二つ。あと一つ残っている。地面から蔦が生えて俺の足を縛り付けた。


 こんな物、壊すのは造作もない事だ。しかし一瞬行動が遅れる。それは目の前のおっさん相手には致命的だ。


 ……まさか使う事になるとはな。


「……第五封印解除」


 殺戮衝動が暴れ出す。目の前の男を殺せと本能が囁く。それを全力で抑え込む。

 溢れた闇が壁となりおっさんの攻撃を阻む。その一瞬で俺は縮地を使い蔦を力技で引き裂き一度距離を取った。


「第五封印再起動」


 長く第五封印を解除し続けるのは危険だ。おっさん相手だと手加減ができずに殺しかねない。


「その第五封印とやらは長続きしないのか?」


 ……ここで会話を挟むか。何を狙っている?


 槍捌きや魔術も超一流だが、おっさんのブラフは厄介だ。対人戦でこれほどやりにくい相手を俺は知らない。


 ……ひとまず出方を見るか?

 

「どうだかな?」

「それで少年。お眼鏡には適ったかな?」

「ああ。十分だと言いたいところだが……」


 言葉の途中でおっさんの視線が俺の背後へと動いた。


 ……なんだ?

 

 あまりにさりげない視線移動。それなりの実力がないと見逃してしまう程の。

 その視線の先には少女がいる。


 ……ブラフか?


 どちらとも取れるのがいやらしいところだ。少女が何かしていると思わせるブラフか。それとも本当に何かしているのを隠すためか。


 ……さてどうする。


 その思考に時間を取ったのが失策だった。


「……ありがと」


 少女が底冷えするような声で言った。俺は反射的に振り返る。

 黒い孔は健在で腕を吐き出し続けている。それを俺の黒刀が迎撃している。それは先ほどから変わっていない。

 しかし少女の様子が違っていた。


 先程までは黒刀に押されていたが今は余裕すら漂わせている。

 何故か――。


 おそらく少女の肩に止まっている三つ目の鴉が関係している。


「まさか嬢ちゃん。アストランデか?」

「……アストランデ?」


 俺はおっさんの言葉を反芻した。その言葉には聞き覚えがあった。御伽話で国を滅ぼした魔女の名前だ。書庫の奥に眠っていた本に書いてあった。


 ……たしか、呪いの魔女。


 ――カァアアア。


 鴉が鳴いた。

 その瞬間、身体から力が抜けていくのを感じる。


 ……くそ! あれ自体が魔術か!


 俺は黒刀を操作し、少女の肩にいる鴉へと照準を定める。


「つれないな。オレとはもう遊んでくれないのかい?」


 おっさんが長槍を突き出す。俺は重い身体を動かしなんとか避ける。次いで繰り出される短槍による二撃目は黒刀の照準を変えて射出、相殺する。


 その時、少女の魔力が跳ね上がった。


 ……まだ上がるのか!


 横目で見ると新たな魔術式を記述している。長大で巨大な魔術式だ。


 ……ありえねぇだろ!


 魔術の同時行使は非常に難易度が高いと聞く。それも強力な魔術であればあるほど難しい。

 カナタが言うに英語と数学の勉強を同時にやるような物らしい。俺には無理だ。


 少女は腕を生み出し続ける魔術を使っている。それと同時にこれほど巨大な魔術を使うには脳が二つでもないと不可能だ。

 

 ……脳が二つ……? 鴉か!


 おそらくあの鴉が魔術の代理行使をしている。そんな事が可能なのかはわからないがそうとしか考えられない。

 

 これでは魔術師三人を相手にしているのと同じだ。


 少女の魔術式が完成する。現れたのは漆黒の大鎌だ。嫌な予感がする。


 ……仕方ないか。


 俺は大きく息を吐く。この攻防が最後。

 ここまで苦戦するほどの相手だ。文句なしに試験は合格だ。

 だけれど。


 ……ここで負けるのは癪だよなぁ!!!


「第五封印解除!!!」


 闇を体全体に纏わせる。それだけで身体が軽くなる。

 溢れ出た殺戮衝動を抑えつけながら、おっさんに蹴りを放つ。

 おっさんは長槍で受け止めたが、後退を余儀なくされた。


 少女が大鎌を構える。おっさんも合わせて長槍に炎を纏わせる。

 先程までとは比較にならないほどの熱量。余波で地面が溶けていく。

 おっさんもこれが最後だとわかっている。


 大鎌の刃に魔力が集中するのを感じる。それに俺は安心した。

 二人とも遠距離攻撃だ。つまり――。


 ――殺す事はない。


 俺は獰猛な笑みを浮かべ闇を手中に集める。

 作り出すのは黒刀とその鞘。半身になり左脚を大きく下げて腰を落とす。居合抜刀の構え。

 放つは最強の剣技。それは剣にあって剣にあらず。俺でさえどういう原理で放っているのかわからない剣技だ。

 その名も偽剣。


 爺曰く、偽物の剣だ。


「第一偽剣――」


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