方針

「レイとカナタがS級なのはわかったよ。それで、迷宮にはすぐに行くの?」


 サナが不機嫌そうに言った。さっきの対決を根に持っているようだ。「そんな拗ねんなよ」と言ったら睨まれた。

 俺は苦笑しながらも話を続ける。


「万全を期したい。たしか階層の深い迷宮はパーティを組むんだよな?」

「そうですね。S級の迷宮ともなると通常は何十人もの冒険者が必要になります」

「でも勇者のパーティなら五人やそこらで行けるんだろ?」

「先代勇者パーティは五人でS級の迷宮を攻略しています」


 それを聞くと勇者のバケモノ具合がわかる。

 となりのサナに視線を向けるとよくわかっていないのか首を傾げていた。

 本当に勇者なのか疑わしくなる。


「何か失礼なこと考えてない?」


 半眼で睨みつけてきた。今日もサナの勘は絶好調だ。

 

「考えてねぇよ。でもそれなら最低五人は必要か。それは前衛二人、中衛一人、後衛二人の五人であってるか?」

「そうですね。前回の勇者パーティはその構成でした。ちなみに私は支援や回復魔術が得意なので後衛です。ですのであと一人遠距離攻撃ができる魔術師が欲しい所です。レイさんとカナタさんが前衛ならば中衛もあと一人は欲しいですね」

「俺は魔術が使えないから前衛だな。サナの戦闘スタイルはなんとも言えないけど刀だから多分前衛だよな? カナタは?」

「俺も前衛よりの中衛って所だな。魔術も使えるし」

「ならあと後衛一人とできたら中衛一人って感じか。アイリス。誰か当てはあるか?」

「いえ。ありません。ですが募集をかければかなりの数は集まると思います。そこから選抜をすれば良い人材を確保できるかと。本当はレイさんとカナタさんの枠も募集するつもりでしたし」

「なら募集するか。それはお願いしてもいいか?」

「お任せください。おそらくひと月ほど掛かるかと思います」

「ひと月か……」

 

 この世界の移動手段は馬車か徒歩だ。

 冒険者ギルドに通信魔導具があるらしいので募集はすぐに各国へと届く。しかし冒険者達は実際にこの王都へと移動しなければならない。そのぐらいは掛かるのだろう。


「わかった。じゃあその間はサナの修行とこの世界の調査をする」


 第一目標はS級迷宮だが第二、第三の手がかりも見つけておきたい。だからこの世界を深く知るために調査は必須だ。


 「アイリス。禁書庫への立ち入りを許可できるか? できるなら王族しか立ち入れない方を」

「……驚きました。お姉様はそこまでお教えになったのですね。ならば構いません。後ほど案内します」

「ありがとう」


 これで方向性は決まった。なのだが、俺はみんなに言っておかなければならないことがある。

 

「あと最後に一つ言っておかなきゃいけない事がある」

「なんでしょう?」

「……時間はあまりないかもしれない」

「……それはどう言うことですか?」


 アイリスの視線に厳しさが増す。

 

「勇者召喚だ。アイリスは疑問に思わなかったか? なぜ魔王はすでに封印されているのに聖女が生まれ、勇者召喚を行わなければならなかったのか」


 そもそもの話、勇者召喚が行われる事自体がおかしい。

 確かに俺は魔王封印を解除するべく動いている。しかし俺が動いた結果で魔王が再び現れるのであれば、そもそも勇者召喚は行われず、魔王の封印は解かれないはずだ。

 

 であるならば考えられるのは二つ。

 一つ目、元々、魔王が封印等の方法で身動きができなくなると新たな魔王が生まれる。

 二つ目、俺以外の何者かが封印を解こうとしている。

 一つ目ならば良い。新たな魔王を倒し、封印を解除して旧魔王を倒せばそれでいい。力技でなんとかなる。

 

 しかし二つ目ならば非常にまずい。その何者かがラナを助け出してくれるならいい。だがラナの命を奪って封印を解除しようとすることも考えられる。

 

「私も聖女に選ばれた時は驚きました。レイさんは何者かが封印を解こうとしていると考えているのですね?」

「その通りだ。だから俺は迷宮以外の方法も探してみようと思う。多分禁書庫に籠ることになると思うから何かあれば呼んでくれ」


 そうして方針は決まった。

 俺は禁書庫で手がかりを探す。カナタはサナの修行を手伝う。アイリスはパーティメンバーの募集だ。


 ……一ヶ月でサナが戦えるようになればいいけど。


 とはいえこれはあまり心配していない。サナは何事も平均以上にこなせるのだ。剣術も道場に通っていた頃は、同年代の男の子たちと渡り合っていたぐらいだ。

 問題は俺だ。


 ……なるべく早急に手がかりを探さないと。


 今のところ手掛かりらしい手掛かりはない。とりあえず調査できていないS級迷宮を探してみよう程度だ。

 これは手掛かりとは言えない。だからとにかく情報が欲しかった。

 




 それからアイリスと共に禁書庫へ向かった。そこは隠し扉を何個も潜った先にあった。知る人は少ない方がいいとのことで今はアイリスと二人だ。


「ここが王族のみが入れる禁書庫です」


 王族専用との事で、扉には高度な魔術が施されていた。


「この魔術は王族のみに反応し解除されます。以前はもっとシンプルな魔術式だったのですが、お姉様が魔改造しました」


 アイリスの言い草に笑みが溢れる。


「ラナは天才だもんな」

「ええ。努力も欠かさない天才です。ですから多分この魔術式はレイさんにも反応すると思います。真ん中にある円に手を翳してみてください」


 俺は言われた通り、扉の中心へと手を翳す。すると胸の封印から温かな魔力が溢れ出し、がちゃりと扉が開いた。


「やっぱり。お姉様はレイさんがここに来ることを見越していたのかもしれませんね」

「どちらかと言うと、『ここに来てもいいようにしていた』が正解かな?」

「そうですね。そちらの方がお姉様らしいです。さあ入りましょう」


 扉を開け、中に入るとそこは小さな部屋だった。

 本棚も僅か十個ほどしかない。小学校にあった図書室よりも小さな部屋だ。

 勝手に大図書館のようなイメージを持っていたので少し驚いた。

 アイリスは悪戯が成功したような笑みを浮かべた。


「私も初めてきた時はレイさんのような表情をしましたよ」

「予想していたのとはずいぶん違うな」

「私もそう思います。でもそもそもが王族しか読めない本なんてそんなに無いんです。普通の禁書庫はレイさんが思っている通りですよ」

「なるほどな。でもラナがわざわざ入れるようにしてたんだ。何かあるんだろ。……ここの机は使っていいのか?」


 俺は部屋の隅に備え付けられていた机を指差す。あまり使われていないのか少し埃が乗っていた。


「この部屋はレイさんの自由にしてもらって構いません」

「何から何まで悪いな。なら俺はしばらくここに籠るよ。何かあったら呼んでくれ」

「はい。わかりました。では私はサナさんとカナタさんの元へ戻りますね。レイさんの部屋も用意しておきますので、お帰りの際は執事かメイドにお申し付けください」

「ああ。ありがとう」


 禁書庫を出ていくアイリスを見送った。

 腕をストレッチさせ、本棚へと向かう。


「さて。やりますか!」


 ……まずは端からだな。


 そんなことを考えながら俺は本に手を伸ばした。

 


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