ぼくが先に好きだったのに。

Blue Raccoon

第1話ぼくが先に好きだったのに。


 この町には昔から言い伝えがある。

 

 『丘の上の一本桜の木の下で告白すると成功する確率が上がる』


 この言い伝えが本当だとしたら。

 そんな一縷の望みにかけて僕は今日、この桜の木の下に幼馴染を呼び出す。


 今日は中学の卒業式。

 九州地方にあるこの町はもう外套が必要ないほどに暖かく、薄着の保護者も多い。

 

 そして、卒業式が終わった僕は今、この咲き誇る一本桜の木の下で幼馴染と向かい合っている。


 風に揺らされながら散る花びらの向こう側にいる幼馴染の顔をあらためて見る。


 好きだ。

 やはり、何度確認してもこの気持ちは変わらない。


 僕は何度目かわからない深呼吸をし、覚悟を決める。


「僕は小学校の頃からあなたのことが好きでした。よければ僕と付き合ってくださいーー」


 



ーー



 僕ーー清水涼の2人の幼馴染を紹介しよう。


 霜川結衣。

 彼女はロシア人とのハーフで、日本人離れした美貌とプロポーションを持った女の子だ。

 3年間、学級委員長を務め、試験では毎回トップ10入りを果たしている彼女は、まるで二次元の世界から飛び出してきたかのようである。


 因みにボクッ子だ。


 そんな彼女と初めて会ったのはいつだったか、もう記憶にもない。

 母親同士が知り合いだったらしく、赤子の頃から遊んでいるそうだ。


 もう1人は男の子。

 名前は長谷川力也。

 彼はまごう事なきイケメンで、身長も中学3年の今の時点で170超えている。

 勉強はあまりできないが、運動神経は抜群だ。

 大層モテるそうで、ちょっと嫉妬してしまう。


 彼とは小学校低学年の頃に気づいたら一緒に遊ぶようになっていた。

 正直、きっかけは覚えていない。

 住んでいる場所は結衣と近いらしく、小学校の頃から毎朝のように一緒に登校してくるのでなんだかモヤモヤする。


 卒業まであと少しとなったある日、受験が終わった僕たち3人は隣町まで遊びにきていた。


「あ、俺今日塾の最後の授業があるの忘れてた」


 駅の改札を出たところで力也が思い出したように僕達に言う。


「もう、休んじゃいなよ」


 そう結衣が言うも、最後の挨拶はちゃんとしときたいからと言って戻っていった。

 改札に向かう力也の背中を見ながらやっぱり真面目だなと笑みが溢れてしまう。

 結衣と2人残されてしまった。

 

「どうしよっか」


「ボクここまできたから遊んで帰りたいかな」


「じゃあ、僕もそうする」


 街へ繰り出し、僕達は服屋を回ったり、クレープ屋にいったりした。


 歩きながらする僕らの会話は力也のことが多い。

 力也のことを話す結衣はどこかキラキラしていて、とても可愛い。


 一通りお店を回って、時間を確認すと時刻は17時半。

 日も暮れ始めたので、最後にゲームセンターに寄って帰ろうかということになった。

 ゲームセンターに入って少しコインゲームをした後、僕達はクレーンゲームの並びをゆっくり見て回る。


「あ、これ力也が好きなキャラじゃん。取ってあげたら喜ぶかな?」


 一つの台の前に止まり、結衣がぬいぐるみを指差しながら、少し頬を染めてなんだか嬉しそうにそんなことを言う。


 だから、尋ねてしまった。


「結衣は、力也のことが好きなの?」


「えっ、す、す好きなわけないじゃん!」


 顔を真っ赤にした彼女は手を顔の前で振りながら、否定し、人としては好きだよと付け加える。


 もはやバレバレである。

 彼女は隠す気があるのだろうか。

 さらに彼女は僕にこんなことを尋ねてきた。


「も、もしさ、ボクが力也のことが好きって言ったら応援してくれる?」


「うーん。どうだろうね」


 曖昧な返事を返しながら、僕は今後のことを考える。


 そろそろ僕も覚悟を決めなくてはいけないらしい。

 時間はあまり残されていない。




ーー




 ボクには好きな男の子がいる。


 その男の子の名前は長谷川力也。

 彼のことを考えるだけで幸せになるし、一緒にいるとすごくドキドキする。

 

 そんな彼との初めての出会いは小学校の低学年だった。


 ボクはロシア人と日本人のハーフで、ブロンドの髪に日本人とは違う顔の作りをしていた。

 そんな容姿をしていたので、幼馴染の涼が隣にいない時はその容姿をよく揶揄われたりしていた。


「かのじょをいじめるな!」


 ある時そう言っていじめから庇ってくれた男の子がいた。

 それが力也だった。


 いじめっ子たちを追い払った彼はボクの隣に座り、泣いているボクの頭を撫でながら


「君の髪はキラキラしててきれいだよ。だからあんな奴ら気にしないほうがいいよ」


 そう言ってくれた。

 

 まるでヒーローのようだった。

 この時点でボクはもう恋に落ちていたんだと思う。


 ボクはそれ以来、力也をよく遊びに誘った。

 この頃から私と涼と力也の3人で遊ぶことが増えた。

 遊ぶうちに力也の優しい部分にさらに触れ、どんどん好きになっていくのがわかった。


 ボクと力也は家が近かったこともあり毎朝一緒に登校するようになった。

 涼がいないので、朝の時間は2人きりだ。


 学校でもいつも一緒にいるボク達は『おしどり夫婦』と揶揄われたりしたけど、それもボクにとっては嬉しかった。 



 そして中学校の卒業式の日。


 今日こそは力也に好きだと伝えよう。

 そう決意するも、なかなか2人きりになるタイミングがなく、言い出せないでいた。


 卒業式も終わってしまい、生徒たちもパラパラと帰っていく。


(力也が帰る前に捕まえなきゃ)


 そう思い、焦って彼のことを探した。

 学校では見つけられず、近くの公園を探す。

 すると丘の上の一本桜の木の下で誰かを待っている力也を見つけた。


 ボクは足を止める。


(もしかして、告白だろうか)


 ボクもこの一本桜の言い伝えを知っていたのでそんなことが脳裏によぎる。


 先約の邪魔をするのが憚られたボクは物陰から静かに彼を眺める。


 2、30分経った頃、力也が表情が明るくなった。

 どうやら待ち人が来たようだ。


(どんな女の子がきたんだろう)


 気になって彼の視線の先に目を凝らす。

 遠くのほうから駆け寄って来るのは、学ランをきた………………学ラン!?


 ボクは二度見した。

 力也の待ち人は学ランを着ていたのだ。


(学ラン来てるのって男子だよね)


 そんな当たり前な疑問が浮かぶ。

 力也の待ち人が近づいてきたので顔を確認する。

 その人は私も良く知る人だった。

 幼馴染の涼だ。


 今から2人がどんな話をするのかとても気になり少し近寄って耳をを澄す。



『ごめんね遅くなって。先生に少し捕まってて』


『大丈夫だ。俺もさっき着いたところだ』


 息を切らした涼と力也はそんな会話を始める。


(結構な時間待ってたのに。やっぱり優しいな力也は)


『それならよかったよ。まずは、卒業おめでとう』


『おめでとう』


『来年から違う高校だね』


『あぁ、少し寂しいな』


 別れの時特有の少ししみじみとした空気が流れる。

 そして、涼は何かを決意した表情をすると涼は力也に言った。


『今日、呼び出した理由なんだけど、聞いてくれる?』


『あぁ』


 また、静寂が流れる。


 風が吹き春の香りが漂う。


 深呼吸をした涼はゆっくりと思いをのせるように言葉を紡ぎ始めた。


『僕は小学校の頃からあなたの事が好きでした。よければ僕と付き合ってください』


 涼は頭を下げ、右手を力也に向けながらそう告白をした。

 

(えぇぇぇ。まさかだよ、まさかの展開だよ)

 

 自分が告白しようとしていた相手が男の子に告白されている状況が飲み込めず、ボクは狼狽する。

 

(落ち着こう。返事聞かなきゃ)

 

『……嬉しい。俺も涼のこと好きだったんだ。だから、これからよろしく頼む、、』


 力也は顔を赤くしながら涼の手を取り、そう答えた。


 力也の返事を聞いて、ボクは頭を殴られたかのような衝撃を受ける。


 (う、うそでしょ。お、男の子どうしでお付き合いなんて……)


 昔を思い出す。


 確かに昔から2人はとても仲が良かった。

 ボクが力也を誘ったのに少し取られた気分だった。

 私が放課後、委員会があるときは2人で遊んでいたらしいし、お泊まり会をしたと言うのも聞いた事がある。


 だがそれは友情なのだと思っていた。


 一番仲の良い女の子が私だからって油断していた……。


 (ボク告白する前に振られちゃったよ)


 一本桜の木の下で抱き合う2人を見る。




「ボクが先に好きだったのに……」





(…………あ、鼻血が)










ぼくが先に好きだったのに。完

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